『四十七人目の男(上・下)』

四十七人目の男(上・下)
  1. 流れ星が消えないうちに
  2. 古本道場
  3. サッカーボーイズ 再会のグラウンド
  4. 翡翠の眼
  5. 人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)
  6. ただマイヨ・ジョーヌのためでなく
  7. 四十七人目の男(上・下)
岩崎智子

評価:星2つ

ベトナム戦争で伝説の狙撃手と呼ばれたボブ・リー・スワガー。アメリカにいるボブを、彼の父親アールと硫黄島で出逢った日本兵・矢野の息子フィリップが、日本から訪ねて来る。父親が持っていた刀を探しに来たフィリップに快く協力することを請け合ったボブだが、日本では手荒な歓迎が。硫黄島は、クリント・イーストウッドの映画『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』の舞台でもあり、比較的知られている。自分の住んでいる日本が物語の舞台となるのは嬉しいが、違和感を抱く箇所アリ。戦中の硫黄島で、ある兵士のこんな思いが綴られている。「このすぐれた兵士たちが、生きていれば多大な貢献がなせるはずの彼らが、死守する意味などなにもないとしか思えない、この硫黄の島の黒い土のいただきで死んでいくとは。天皇陛下のため?(中略)天皇は気晴らしの(それゆえ有用な)儀式を編み出すのに役に立つ虚構、人間としてのみ存在を許されていた」人間宣言が為される前において、ここまで天皇を客観的に見られた日本人がいたとは思えない。ちょっと作者がサムライ日本に陶酔し過ぎでは?

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佐々木康彦

評価:星3つ

 失敗の汚名をそそぐ為切腹させてくれと懇願するヤクザ、潔すぎる日本人、剣道の打ち込む時の掛声が「ハイ」、などなど違和感を感じる描写のオンパレード。それでも日本の文化(特にサムライ)に対する憧れというか愛情みたいなものは感じたので、嫌悪するほどではないのだけれど。
 単純なストーリーも好いし、修行して仇敵を倒すというのも個人的に好きなパターンですが、刀で戦わなければいけない理由にイマイチ納得出来ないし、どうしても設定の甘さは否めない。このシリーズは一冊も読んでいないし、映画も観ておらず、思い入れが全く無いので、必要以上に粗が目についたのかも知れないけれど、ちょっとツッコミどころが多かったです。
「多数の映画を観ただけのガイジン」に時代劇はつくれないと思いこの形にした、とあとがきで書いていて、設定がちょっとおかしくても、その謙虚さに何だか憎めない気はします。

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島村真理

評価:星3つ

 タイトルであれっと思う。そう、日本人なら誰でも知っているあの話に関係があるらしい。白人が書く“サムライ”の話。いったいどういうことになるのか、ちょっと心配しながら読み進めました。
 硫黄島での戦闘から現代の東京へ。時を越えて、ボブ・リー・スワガーと矢野を結ぶひとつの刀。そして、父から息子へというテーマ。風呂敷を広げすぎで、どういう結末を持ってくるのかと思ったが心配後無用。恐ろしいくらい深い知識(刀や日本の歴史、某組織に関する)を持って、よく練られて書かれたものでした。もちろん、そこは微妙に違うかなと思う程度の違和感はあります。でも、難癖つける隙があまりない作品で驚きました。
 作者をスランプから救うきっかけになった、サムライ映画(なんときっかけは「たそがれ清兵衛」)たちへのオマージュであるというこの作品。刀と刀で血みどろになる死闘を存分に味わえます。映画の一場面が目に浮かぶくらい。あまりに血なまぐさくてうんざりするほどです。けれど、これだけていねいに日本を舞台に書かれた作品が読めるのは、むしろ光栄でした。

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福井雅子

評価:星3つ

 硫黄島で父親と戦った日本軍将校の遺品の刀をめぐって、ボブ・リー・スワガーが日本で起きる不可思議な事件に巻き込まれていくエンターテインメント小説。
 刀、サムライ、武術、正宗、村正、忠臣蔵、新撰組、歌舞伎町、ヤクザ……外国人が好む「日本らしい」小道具のオンパレードだ。そして、問題の刀の素性がまた、ゴージャス。日本人から見ると、やや不自然な感じがしなくもないが、ハリウッド映画のアクション巨編を楽しむと思って割り切って読めば、なかなか楽しい。
 義の刀は道を知る。徳を有しない刀は、血を求め無差別にあらゆるものを斬る。それは妖気を放つ邪刀だ──そんな意味の一節があるが、刀に込める武士たちの特別な思いを題材に、ここまで大掛かりなエンターテインメント作品を作り上げた創造力と構成力は素晴らしいと思う。

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余湖明日香

評価:星2つ

硫黄島、サムライ、近藤勇、新撰組…表紙カバーについている登場人物一覧のこれらのキーワードに拒否反応を起こしてしまうのは私だけなのか、もしかしたら私の世代特有のものなのか?アメリカ人が書くサムライの物語…。「『ラスト・サムライ』と『キル・ビル』の違いは、日本的なものの表現を、勘違いしているかわかっていながらあえてやっているかどうかだ」と英語の講師が言っていたことを思い出しながら、恐る恐るページをめくっていった。
刀、剣道、恩、仇、忠臣蔵、風俗……読んでいきながら私は混乱してしまった。映画評論家だというこの著者はわかってあえてやっているのか、それとも日本へのステレオタイプを盛り込んだだけなのか。それに加えて全編通しての英語の教科書の現代語訳のような会話文。この訳者も、本気で訳しているのか、アメリカ人と日本人の英語を通してのコミュニケーションをこの訳文で表しているのか。
ともかく、おかしな日本人と日本文化のオンパレードに笑いながら読みきった。巻末の謝辞を読むと、とても茶目っ気たっぷりな著者だということがわかり、ますます私の疑問は深まってしまった。

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