『サッカーボーイズ 再会のグラウンド』

サッカーボーイズ 再会のグラウンド
  1. 流れ星が消えないうちに
  2. 古本道場
  3. サッカーボーイズ 再会のグラウンド
  4. 翡翠の眼
  5. 人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)
  6. ただマイヨ・ジョーヌのためでなく
  7. 四十七人目の男(上・下)
岩崎智子

評価:星3つ

ジュニアサッカーチームで、当然キャプテンにもレギュラーにもなれると思っていた遼介。しかしそのどちらも叶わず、失意のもとにいた彼の前に「サッカーを楽しもう」と言う新監督・木藤が現れる。「ああ、少年サッカーの話か」と思ってしまうと見ずに済ませる人もいるかもしれないが、こんなシチュエーションは、会社でもあり得る。望むポジションが意外な人物の異動によって奪われたり、ふと視点を変えて見ることで、仕事が面白くなったり。「なりたい自分」と「今の自分」の間で悩んだり。つまりは舞台が違うだけのこと。メインキャラは遼介と木暮&峰岸といえるが、その他の登場人物への描写も行き届いている。しかし逆に、物語が散漫になってしまった印象も受ける。例えば、同じスポーツ小説でも佐藤多佳子さんの『一瞬の風になれ』ならば、もっとメインキャラクターの部分を掘り下げていたな、と思う。まあ、こうした感想は、「群像劇が好き」「主人公を絞って描いた物語がいい」など、読者の好みによっても変わるのだろう。

▲TOPへ戻る

佐々木康彦

評価:星3つ

 小学六年生になった途端にキャプテンの地位とポジションを失い、やる気も失いかけていた少年が、新コーチとの出会いをきっかけにサッカーへの情熱を取り戻し、困難を乗り越えてチームもまたひとつにまとまっていく、という非常にオーソドックスな少年スポーツ小説。
 ありがちな内容ではありますが、ボールに座ったら怒られるけど何故か、とか基本技術が身についていないのに試合中に「ちゃんとトラップをしろ」と言っても意味が無い、など部活経験者はこういったなにげない描写に「おっ!」と思うんじゃないでしょうか。想像だけで書いているな、というのが見えるとそれだけで読む気がそがれますから、こういった細部の描写はスポーツものでは大事ですよ。
 木暮コーチの「楽しむ」という姿勢は、オリンピック選手とかもよく言いますが、本当の意味で実践出来ている人って少ないんじゃないでしょうか。別にコーチとかしているわけではないですが、すごく参考になりました。

▲TOPへ戻る

島村真理

評価:星3つ

 桜ヶ丘FCに所属している遼介は、6年生になってずっと手にしていたキャプテンの座とレギュラーのポジションを失ってしまう。初めての挫折が、本来の実力も、サッカーを好きだったという気持ちもあやふやにしていってしまう。
 自信を傷つけられ、情熱もすぼまっていく遼介、才能はあるけれど、うまくない子への配慮が足りない良、有名サッカークラブから編入してきたポジション争いのライバルとなった青山。空回りするチームの雰囲気。この最悪な状況をどう克服するかという、お決まりのストーリーですが、こういうわかりやすさが楽しいです。
チームの苦境を救う、木暮コーチの「サッカーを楽しもう」という言葉が好きです。ちょっとお気楽過ぎるけれど、自分を肯定するポジティブな気持ちというのは大事ですから。
 挫折して悩んだり、もがいたりは若さの特権。みんながのびのびとプレーをして、勝つために一丸となってがんばる姿はすがすがしい。大人も、子供のころと同じように悩み苦しむけど、こんな風に昇華できないもの。「子供に戻った気分」を味わうにうってつけです。

▲TOPへ戻る

福井雅子

評価:星4つ

「少年サッカーチームのコーチ経験がある」と著者自身があとがきで述べているが、これは実際にサッカーボーイズたちを間近に見てきた人にしか書けない物語だと、あとがきを読む前から確信していた。小学6年生の少年たちの瑞々しさを、これほどリアルに伝える小説は過去になかったように思う。グラウンドの埃っぽい風や雨のにおい、少年たちの汗のにおいや表情のひとつひとつに、嘘がない。実際に肌で感じたものを描いたことで、青春スポーツ小説にありがちな、どことなく気恥ずかしいような青臭さが消え、実にさわやかな物語なのだ。
 最近、サッカー少年たちを見守って過ごす週末が増えている私の心に、違和感なくストンと収まったこの物語、現役サッカー小僧たちにもきっと受け入れられるはず。小学校高学年から中学生、高校生のティーンエイジャーにぜひ読んでほしいと思った本だった。

▲TOPへ戻る

余湖明日香

評価:星3つ

サッカーのポジションの違いなどほとんど知らなくても、キャプテンから外れた少年の挫折、小うるさい監督への反発、チームで勝てないことの苛立ちなど丁寧な描写に、いつしか桜ヶ丘FC(作中の少年サッカーチーム)の熱烈なファンに。
終盤に描かれるライバルチームとの試合は、間違って先の展開が目に入ってしまわないよう、左のページを隠しながら息を詰めて読んでいった。
一応主人公は小学校六年生の、ヒーローの座から滑り落ちる少年なのだが、周りの大人がいい味を出している。重い病気の妻を持つ監督、全国出場チームを育てたことのある、監督と幼なじみのコーチ、見るだけだったサッカーをプレイし始めるクラブチームの会長達。中年になっても腹が出てきても関係がない、かつてはサッカー少年だった男たちのその後の人生。そう、「サッカーボーイズ」とは、小学生サッカーチームのメンバーだけではなく、全ての男たちのことなのだ! 
熱血スポコンではない、今風のスポーツ小説。

▲TOPへ戻る

<< 課題図書一覧>>