『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』

ただマイヨ・ジョーヌのためでなく
  1. 流れ星が消えないうちに
  2. 古本道場
  3. サッカーボーイズ 再会のグラウンド
  4. 翡翠の眼
  5. 人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)
  6. ただマイヨ・ジョーヌのためでなく
  7. 四十七人目の男(上・下)
岩崎智子

評価:星4つ

今年6月から、某電機大手では、展示会の説明員がユニフォームでブースに立つそうだ。背広姿だと、来場者と紛れてしまうかららしい。このように服装には、「他者との差別化」という意味があるが、本書に出てくるマイヨ・ジョーヌ-黄色いジャージ-には、もう一つ別の意味がある。このジャージは、3週間かけて3500kmを走破する世界一過酷な自転車ロードレース、ツール・ド・フランスで、総合成績一位の選手にのみ与えられる。つまり、このジャージを着る者には、名誉が加わるのだ。人生の絶頂にあった超一流自転車選手ランス・アームストロングが、睾丸癌で闘病後、ツール・ド・フランスに挑戦する。当然、名誉を求めての挑戦かと思うが、そこはタイトルであっさり否定されている。「では、一体何のためか?」それは本書でお確かめあれ。体験記の類は数多く出されているが、正直全てが自分に当てはまるわけじゃない。でも、苦しみも悲しみの種類が違っても、共感できる思いや決断はきっとある。そう感じたものの一つが、自堕落に暮らすランスを恋人(のちの妻)が諌めるエピソード。「本当にその人を愛する人の言葉ならば、例えその言い方がキツかろうと、ちゃんと胸深くに留まるのだな」と感じた。

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佐々木康彦

評価:星4つ

「あらゆる障害をチャンスとせよ」とはランスの母親の言葉。言うは易し。医師が生存確率3%と診断していた睾丸癌から、ツール・ド・フランスの総合優勝までを誰が予想したか。
 原因があって結果があるのではない。結果をたどっていけば、原因につきあたるのではないか。病気になったからこんなに落ちぶれた、と言うのか、病気になったから精神力が身について成功につながった、と言えるようになるかは自分次第。罹病前のスプリンタータイプのマッチョな肉体は、化学療法によって筋肉が削ぎ落とされ、見る影もなくなったが、それにより体が軽くなり、復帰後は山岳ステージに強くなった。ランスはまさに「障害をチャンス」とした。その後のツール・ド・フランス7連覇という最高の結果も含め「壁と思えるものは実は単なる心の中の障害にすぎない」という自分の言葉を見事に実証したのだ。もちろん、すんなり達成したわけではない。復活するまでの紆余曲折も本書の読みどころ。ランスが自暴自棄になったりする弱い人間だからこそ、感情移入して読めた。

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島村真理

評価:星5つ

 肉体の極限まで使って、ついには能力をも超えて結果をだしてしまうスポーツ選手と、病と闘い打ち勝った人たち。私が尊敬するならこんな人だ。ランス・アームストロングはそのどちらもやってのけた人。
 彼は有名な自転車選手で、ツール・ド・フランスで7連覇の偉業も達成したそうだ。ツール・ド・フランスは有名な自転車レースのひとつ。私にはあまりなじみがないのだが、一度だけみたある年のレースがあまりにも過酷で(路上に躍り出た観客との衝突とか、ガードレールすらない坂を勢いよく下るとか)非常に驚いた。
 アームストロングは、少年時代の苦労を乗り越え、自転車競技で才能を発揮し、これからというところで睾丸癌を発病する。そして、それも克服し復活する。驚くほどの波乱万丈さだ。今も生きているというのは、彼がものすごくラッキーだからと言うこともできる(本人もそう言っている)。でも、どんな困難にもあきらめず、闘志をむき出しに挑めるというところが、圧倒的に心を打つのだろう。もっとも、そこがアメリカ人らしいという印象も与えるが。誰でも同じようにはいかない。勇気をもらえるとてもいい本だ。

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福井雅子

評価:星5つ

 参りました! そう叫ばずにはいられない。すごい。すごすぎる。最近自分の人生に興奮と感動が足りないと思っているアナタ、くよくよと弱気になっているアナタ、とりあえずこの本を読んでみてほしい。
「癌の肉体的苦痛は、僕をそれほど悩ませなかった。僕は苦痛に慣れていた。〜考えれば考えるほど、癌は自転車競技に似ている」末期癌から生還してツール・ド・フランス7連覇を達成し、そしてさらっとこのセリフである。いや、だからこその癌克服であり、ツール・ド・フランス7連覇なのだろう。末期癌に打ち勝つためであっても、世界一過酷な自転車レースに勝つためであっても、一番大切なものは強靭な精神力であることを思い知らされる。誰もが彼のように強くなれるわけではないことはわかっているけれど、せめて自分から弱気になるのは止そうと思わせてくれる本だった。とにかく、ランス・アームストロングの強さに脱帽──。

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余湖明日香

評価:星4つ

ツール・ド・フランスのことを全く知らない私も、心が熱くなり、これを読んでいる今まさにフランスで行われている自転車レースをどうしても見たくなってしまった。
これはツール・ド・フランスで7連覇という偉業を達成した(ものすごく有名らしいですね、全然知りませんでした…)ランス・アームストロングの自伝。ただし、これはただ自転車の話ではなく、家族との絆の話であり、癌との壮絶な戦いの話であり、一人の男の人間としての成長の話でもある。
まさにこれからという若手の自転車選手に訪れた癌との戦い。回復後も、調子が戻らないことへの苛立ちや苦悩。何度も涙ぐみながら一気に読んでしまった。自転車レースというのは個人の能力はもちろん、チーム力も、綿密な作戦も必要らしい。それを最初はただがむしゃらに突っ走っていた著者が、チームとは何か、作戦とは何か、ライバルへの敬意とは何かと学びながら初優勝する場面はただただ感動。
アッと思って「勝手に目利き」でも紹介させていただいた『いしいしんじのごはん日記』を読み返すと、2002年と2003年のツール・ド・フランスについての日記があった。わたしも、リアルタイムで彼の活躍をぜひ見てみたかった。

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