『流れ星が消えないうちに』

流れ星が消えないうちに
  1. 流れ星が消えないうちに
  2. 古本道場
  3. サッカーボーイズ 再会のグラウンド
  4. 翡翠の眼
  5. 人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)
  6. ただマイヨ・ジョーヌのためでなく
  7. 四十七人目の男(上・下)
岩崎智子

評価:星4つ

「男の恋は名前をつけて保存 女の恋は上書き保存」なるほど名言ですが、果たして皆さんはどうでしょう?さて、本篇のヒロイン、奈緒子の場合は、かつての恋人をなかなか忘れられず、彼と共に幾度も夜を過ごしたベッドでは眠れない。なんとまぁ、ナマナマしい。女性はそこまでセンチメンタリストではないと思うのですが、まあフィクションの世界だからいいでしょう。ですが、彼女がなかなか上書き保存できないのには訳がある。恋人・加地君とは、気持ちが離れたから別れたのではなく、彼の事故死で、突然関係が切れてしまったという経緯あり。そりゃあ、死んだ恋人には誰にも勝てません。次の恋人・巧の苦戦がしのばれます。ましてや彼等は親友同士で、お互いの事を良く知っていたのだから。でも、いずれ気づくんです。かつての恋を葬らずとも、また、その恋に勝たずとも、まるごとその人を受け入れることが出来るのだと。そんな境地にたどり着くまでの若い男女の物語に、奈緒子の両親の物語が、サイドストーリーとして絡む。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 人というのは必ず死ぬように出来ています。死は人生において必然であるにもかかわらず、愛する人が死ぬと悲しい。特に恋人が若いうちに死ぬというのは、相手とこれから過ごしたであろう時間の多さを考えると、その喪失感たるや筆舌に尽くし難いものであることは容易に想像出来ます。しかし、死が必然であるのならば、辛いけれど悲しいけれど全部受け入れていかなければいけないのかも知れません。
 恋人の加地を事故で亡くした奈緒子、加地の親友であり今は奈緒子の恋人巧。二人の視点で語られる日常と加地との思い出。淡々と語られながらも、中盤、抑えていた感情を奈緒子が吐き出す場面から物語は再生へと向かっていく。真実を受け止めてこそ、本当の意味で未来へと歩き出せるのだと感じました。文化祭のエピソードや最後の方で明かされる加地の秘密とか、若いなあ、いいなあって感じで好かったです。恋愛小説が苦手な人も是非。

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島村真理

評価:星3つ

 好きな人に先立たれるという、そんな悲しい過去を背負うことになったら自分はどうなるのだろう。案外見た目は普通となんら変わらず生活しているかもしれない。でも、本当にちゃんと前を向いて歩いているのだろうか。どこか見えないところで歪んで、心の傷がイタイイタイと言っているのではないだろうか。
 奈緒子は加地君を事故で亡くしてしまう。いまは共通の友人だった巧君と付き合っている。すごく悲しくて涙が止まらない話かと思っていたが、彼らの日常は変わらずに、やさしい時間が流れている。しかし、奈緒子の父が赴任先から突然帰ってきてから、止まっていた時間が動きはじめる。
ふとした瞬間、忘れてはいないけれど向き合ってなかった悲しみがどっと噴出してきて、それが思った以上に激しくてハッとさせられた。恋人を失った奈緒子の心の動きもそうだが、友人を失った巧のせつなさも見逃せない。愛する人を亡くすこと、分解寸前の家族、不安や悲しみ、いろいろあってもいつかは乗り越えられるという気持ちに共感できます。

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福井雅子

評価:星3つ

 いまどき珍しいぐらい直球どまんなかの純愛小説! 恋人の死をひきずる主人公と、死んだ恋人の親友というのはありふれた設定だけれど、小道具に文化祭のプラネタリウムやフォークダンスなど古典的なアイテムがちりばめられ、小細工なしの純愛が引き立てられていて好感が持てる。
 恋愛小説としては、確かに面白みには欠ける。でも、見方を変えて再出発の物語として見れば、とても味わいのある物語だと思う。この小説は、恋人を亡くした奈緒子と親友を亡くした巧の、新たな一歩を踏み出すまでの物語であり、奈緒子の父、奈緒子の一家の再出発の物語でもある。その視点でみると、この作品はまた違った輝きを放ち、悲しみが癒えるとはいったいどういうことなのだろうと静かに考えさせられる。

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余湖明日香

評価:星2つ

読んでいてこちらが恥ずかしくなってしまうような、純度の高い恋愛小説。事故死した恋人の思い出を引きずり、玄関でしか寝られなくなってしまった奈緒子。死んだ親友を思いながら、奈緒子と付き合う巧。間に死者を挟んだままそれ以上距離を近づけられない二人。最初のうちは妙に文章が硬いのだけれど、章が進むうちにだんだんと柔らかくなってくる。それが二人の関係のようでもある。
学校祭のプラネタリウムでの告白など、少しずつ描かれるきらきらと輝く思い出を最初は奈緒子視点で、次に巧視点でと交互に描くことで、不器用な二人の気持ちが読む側に伝わってくる。小説だけ読むと女性が書いたのだと思ってしまうほど繊細で純粋。
そんな恋愛部分に比べて、マンガと時代小説を貸し借りする家出中の父と娘や、ボクシングの試合を見に行く姉と弟など家族の描写が妙にリアルだ。どちらかというと甘い純粋な恋愛小説よりも、そういったリアルさのほうが私は好きかもしれない。

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