『人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)』

人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)
  1. 流れ星が消えないうちに
  2. 古本道場
  3. サッカーボーイズ 再会のグラウンド
  4. 翡翠の眼
  5. 人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)
  6. ただマイヨ・ジョーヌのためでなく
  7. 四十七人目の男(上・下)
岩崎智子

評価:星4つ

「自分に似た人間なんかいない。」と公言しつつも、「ルックスでは 自分は中の上」などと言う。「自分はこの世でただ一人」である事にプライドを持ちつつも、外部の基準でラベルづけされたい。そんな矛盾したところが、人間には少なからずあるようだ。でも、そもそも、その外部の基準って、そんなに信用できるもの?さて、本書でさまざまな「外部基準」が飛び交うのは、知能についてだ。「ルックス」なんて曖昧なものは、「その判断基準って何?」なんてツッコめそうだが、知能は「知能テスト」がある。数値で計れるものならば、多少は信頼できるかも。ところがそれが大間違い。ここではさまざまな学者達の測り間違いと、偏見が取り上げられ、その偏見ゆえに、どれだけいわれのない人種、性別、階級による差別が為されてきたかが明らかにされる。「油断のならない、ずるく、臆病なモンゴル人種(p115)」 なんて書かれていますよ。どうしますか、皆さん?最初からある結論を導きだすために実験をして、値をごまかすなんて、理論を重んじる学者がやっていい事なんだろうか?ところで、他人を批判するにめっぽう鋭い彼のペンも、自説の展開という面から見ると、やや緩く感じる。

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佐々木康彦

評価:星4つ

 本書には、自らのイデオロギーを満足させるため、人間の知能について誤った科学的検証を行い、それによる差別の歴史が書かれている。やっかいなのは意図的になされたのではなく、ほとんどが「無意識の詐欺」なのだということ。有色人種は白人より劣っている、という結論を導き出すために科学を無意識にねじ曲げている。悪いことをしていると自覚して行っている人間より、よほどタチが悪い。「人間の測りまちがい」とは知能を測る方法が間違っているというだけではなく、人間の価値を知能というモノサシ(しかも目盛りが正しくない)で、単線上へランクづけしようとする行為自体がまちがいだということなのではないか。動物には自分に近い遺伝子を優先的に残すために、他の集団を排除しようとする行為が本能としてあるのかも知れない。しかし、そういう動物的本能を超えて、客観的に考える力こそが他の動物とは違う人間のユニークさなのではないだろうか。自分の中の偏見を見つめなおす為の必読書。

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島村真理

評価:星2つ

 人種・階級・性別間で差別と偏見が生まれる。人間が生まれた瞬間から、今まで一度もなくなったことのない事実でしょう。感情として起こるというのはまだしも、科学がいつのまにか差別主義に加担していたということを知っていただろうか。
 著者は、科学の名の下に犯された過去と現在の、差別を肯定する実験や考えの資料をていねいに紹介し、どう間違ってきたかを示している。大変興味深くて、意欲を感じる内容だ。しかし、難しすぎるのです。専門用語も多く、数字も多い。残念ながら頭に入ってこないところが多すぎて、読書中は睡魔との闘いだった。
 けれど、収集した人の頭蓋骨の容量を量り、そこから進化の度合いを示そうとしたり、IQという知能テストで人をランク付けしてみたり。賢い学者が何をするという滑稽な話ばかりで驚きだ。人とは愚かなものだなと思うところだ。それが、まかり通る時代に、知能が低いと判断された立場ならと思うとゾッとする。
科学について、そして差別について考えさせられます。過去の過ちを知ることの大切さを感じました。

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福井雅子

評価:星4つ

 科学者であり、科学エッセイストでもあるグールドが、科学が間違った測り方で人間を測ることで差別の手段となりうることを告発し、科学のあり方を問うた歴史的名著。長いことと、やや専門的な内容も含まれることで、一般読者の評価は分かれるかも知れないが、なんと言っても内容が濃い。そして、これだけの内容を、専門家でない人々にわかりやすく説明した文章力もすばらしい。長いので飽きてくることは否めないが、良質の本だと思う。
 でも、この内容からして、この本の出版によってグールドは多くの敵を作ってしまい誹謗中傷の対象になったのではないかと心配になってしまう。そんな危険も顧みず、差別や偏見をなくすためにこの本を出版したその勇気が、何よりもすばらしいと思う。ノンフィクションや科学エッセイが好きな人には、是非おすすめしたい本である。

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余湖明日香

評価:星3つ

驚きと怒りの連続だった。
頭蓋骨が小さいから、サルに似た特徴を持っているから、黒人を白人の進化の途中の過程である。犯罪者は環境や状況のせいではなく生まれつきのものである。貧乏人は貧乏人しか生まない。精神薄弱者は子どもを持つべきではない。知能の低いものには、より知能の高いものがやるべきではない単純作業をさせるべきだ…。
これらの主張が大真面目に、社会政策にも影響を与えながら展開されていた時代があったとは。グールドは過去の論を詳細に紐解き、自らの手でデータを確認しなおして、それらの過ちを断ずる。
導きたい結論ありきで意識的・無意識的にデータを捏造する科学者たちの姿は、信じられないしあってはならないだろう。しかしそれと同時に、私たちが「科学は絶対」と無批判で情報を受け入れている限りなくならないものなのかもしれない。決して読みやすくはないが、知っておかなければいけない本だと思う。

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