『翡翠の眼』

翡翠の眼
  1. 流れ星が消えないうちに
  2. 古本道場
  3. サッカーボーイズ 再会のグラウンド
  4. 翡翠の眼
  5. 人間の測りまちがい 差別の科学史(上・下)
  6. ただマイヨ・ジョーヌのためでなく
  7. 四十七人目の男(上・下)
岩崎智子

評価:星3つ

社会主義国の「私立探偵」といわれても、イメージが湧きにくい。共産国家では、まず国家の利益が優先され、「誰か(何か)を探して欲しい」という個人的な願いを口にしない人達ばかりなのでは?と思ったからだ。ところがそれは大間違い。「私はずっと党の命令に従ってきた。(中略)だが何が手にはいった?希望もないまま立ち往生さ。(p69)」国家よりも個人の思いを重んじるような、こんな言葉が出てくるなんて、中国も変わったものだ。だからだろうか。ヒロインの私立探偵・王梅のキャラ設定も、資本主義国家(英米)に登場するアウトロー探偵に、とても良く似ていた。「人付き合いはよくないし、駆け引きもできないし、関係(グアンシ)もない―必要なネットワークやコネがない(p11)」。世渡り上手ではない事に加えて、「中国国家警察の公安部」という超エリートばかりの職場をスキャンダル絡みで退職した過去あり。私生活に目を向けると、成功したビジネスマンと結婚した妹に対して、恋人と別れた王梅は、父の死を巡って母と対立。英米ものと似た部分がかなりあるが、展開は穏やかで、勧善懲悪をはっきり見たい読者にとっては、やや物足りないかもしれない。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 急速な経済発展を遂げている中国のことなので、本作の舞台1997年はかなり昔のことなのかも知れませんが、現代中国の風俗というか、都会に住む中国人の日常を読むのは初めてなので、興味深く読めました。
「翡翠の眼」だなんて、どこかの冒険映画のサブタイトルみたいですが、これは主人公が捜索を依頼される漢王朝の幻のお宝のこと。おお、ますますそれっぽい。いえいえ、違います。物語は文化大革命からの負の歴史、中国のブラックマーケット、家族愛、そして男女の愛憎などがからみあうミステリー。私としてはミステリーよりも母親と姉妹の関係に心打たれるものがありました。親不幸して苦労かけている子供が、いざという時に役に立つ立たないとは別に、愛情の深さが出るというのは、読んでて涙が出そうになりました。
 小説とはいえ、現代中国の街の空気感が味わえる貴重な読み物。続編にも期待。

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島村真理

評価:星3つ

 先日、第139回の芥川賞に中国人の楊逸氏が選ばれましたが、中国人が書く今の中国の作品を読むのはこれが初めてでした。それだけでも面白い作品。中国人の女性私立探偵、王梅(ワン・メイ)が活躍します。彼女のハードボイルな様子といったら。並みいる名探偵たちに全然負けていないようです。
 とても興味深く思ったのは、現在の中国(だと思われるところ)が垣間見えるところ。お金があればオールオッケイという、経済が急成長している国でありがちな価値観や、それでも、家族や同属間の繋がりが深いところ。そして、エリート道から挫折して、自立しようとする梅の生活と、才能でのし上がり、玉の輿にまで乗った妹のセレブな生活の差。どこをとっても、らしいなと納得してしまいました。
そして、あの国で私立探偵という職業がどう成り立っていくか。もちろん、簡単ではありません。でも、権力とお金があれば、仕事がやりやすそうでもあります。誇り高くて優秀な梅がどう仕事をこなしていくのか注目です。

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福井雅子

評価:星3つ

 中国人女性私立探偵の王梅(ワン・メイ)が、伝説の翡翠の行方を追うミステリ。ただし、本格ミステリというよりは、ミステリの形をとって、今も中国社会や家族の中に影を落とす文化大革命の傷跡や、母と子の愛憎を描きたかったのではないかと思われた。実際、ミステリのストーリー展開よりも王梅一家の過去の出来事や、家族の確執のほうに興味がいっている自分に、途中で気づいた。
 力強くぐいぐい書いている感じが伝わってきて、読者はそのパワーにひきずられて最後まで読んでしまう。これで、ミステリのほうのストーリーにもう少し工夫があれば……と思ってしまうのは贅沢だろうか。

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余湖明日香

評価:星3つ

私立探偵は禁止されているという中国で、法の隙間を突いて働いている梅(しかも女性なのだ!)
私立探偵小説というより、中国の家庭の中での女性の葛藤を描いた小説として読んだ。出来のいい、誰からも愛される妹。父を見捨て、妹を愛し、父と自分を比べる母。海外で結婚してしまったかつての恋人。優秀だった梅が、反対されながらも自分を信じ探偵としていきぬく姿、その孤独に、共感した。私立探偵ではなくとも、現代に働く女性なら、きっと思い当たるようなところがあるはず。
そういえば、私の初めての海外旅行は中国・北京だった。あまりにも大きい建物、あまりにも多い人。オリンピック開催が決定して続々と高層マンションが建設される中、胡同には今にも崩れそうな家がひしめき、路上には物乞いのひとたちがいた。屋台の家族や、駐車料金をせびる人などの描写で、そんなアンバランスな、生命力あふれた北京の町を思い出しながら読んでいた。それに加えて、中国映画の中でしか知らなかった「文革」や「下放」を、今回勉強してみるきっかけともなった。

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