『ロミイの代辯』寺山修司

●今回の書評担当者●文教堂書店青戸店 青柳将人

  • ロミイの代辯: 寺山修司単行本未収録作品集
  • 『ロミイの代辯: 寺山修司単行本未収録作品集』
    秀史, 堀江,修司, 寺山
    幻戯書房
    4,180円(税込)
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「寺山修司」という存在を意識的に認識して見聞きしたのは、中学2年の時。友人の紹介で知り合って親しくなった、劇作家を目指して脚本を書いている大学生から寺山修司の演劇や映画、そしてそれらに関する書籍を見せてもらったことがきっかけだった。

 全身を白塗りにして不気味な動きをする暗黒舞踏家達。
 雑踏の中で男性器を模したサンドバッグに手をかけて行き交う人々に向かって何かを訴えている女性。
 肌を顕にし、見たこともないような器具を体に嵌めた男女。
 男性なのか女性なのか、境界線を遥かに越えた美貌を纏った丸山明宏さんの容姿。

 今思い返してみれば、「悪い夢」を見た後に似た、娯楽の快楽と、見てはいけない物をみてしまったような背徳感が混在した感覚だったかもしれない。

 以降、寺山修司は私の中で、「決して開いてはいけない綴じ箱」として胸の奥にしまい込もうとしていた。しかし、高校生の頃、現代文の教科書で再び「寺山修司」と邂逅する。

 その他の歌人とは一線を画した、読む若者の初期衝動を扇動させるような言葉の数々は、「書を捨てよ町へ出よう」の冒頭シーンを思い起こすには容易かった。

 その後、私が一時期通っていた寺山修司と関わりのある映像研究所の教室には、入口に立派な字体で「寺山修司」と書かれたロゴが飾られていて、部屋の中には寺山修司が机に両足を乗せてタバコを吸っている、等身大に近い大きさのポスターが額縁に入れて飾られていた。その教室内では、講師や生徒を含め、寺山修司に多大な影響を受けた人達が数多く存在していた。

 それから現在に至るまで、様々な書店や古書店を訪れた時には、必ず寺山修司の書棚を探してしまう位に虜になってしまったのは言うまでもない。

 そして今年、詩や俳句、散文、そして対談や谷川俊太郎さんとの往復書簡、雑誌に連載されていた紀行文や掌編等、今までに前例の無い位にバラエティに富んだ、新しい寺山修司の新刊が上梓された。

 詩や掌編等の文芸作品では、今まで綴られてきた世界観を全て一変させるような言葉の選び方のセンスが素晴らしく、読み手を楽しませようという「エンターテイナー」としての寺山修司の根幹を惜しげもなく披露してくれている。

 雑誌「短歌研究」の座談会の中では、数年後、言葉の世界だけに留まる事なく、多彩な才能を開花させる前の予兆となるような言葉が垣間見え、先輩歌人達に物怖じせずに雄弁に語る寺山青年の姿は、未来の「職業寺山修司」の姿を想像させるような、実に感慨深い対談だった。

 寺山修司が本作で、初めて見た見世物小屋を「華やかな悪夢」と表現したように、寺山修司は今も尚、世代を越えて多くの人々に「華やかな悪夢」を見せ続けているのだ。そして私達は、寺山修司関連の新刊の刊行、演劇の上演、映画作品の上映が発表される度に、今もまだ「華やかな悪夢」の中から目覚められないでいるのだと、これからも思い知らされることになるのだろう。

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文教堂書店青戸店 青柳将人
文教堂書店青戸店 青柳将人
1983年千葉県生まれ。高校時代は地元の美学校、専門予備校でデッサン、デザインを勉強していたが、途中で映画、実験映像の世界に魅力を感じて、高校卒業後は映画学校を経て映像研究所へと進む。その後、文教堂書店に入社し、王子台店、ユーカリが丘店を経て現在青戸店にて文芸、文庫、新書、人文書、理工書、コミック等のジャンルを担当している。専門学校時代は服飾学校やミュージシャン志望の友人達と映画や映像を制作してばかりいたので、この業界に入る前は音楽や映画、絵、服飾の事で頭の中がいっぱいでした。