『沖縄の生活史』石原昌家・岸政彦 監修 沖縄タイムス社 編

●今回の書評担当者●HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎

  • 沖縄の生活史
  • 『沖縄の生活史』
    石原昌家,岸政彦,沖縄タイムス社
    みすず書房
    4,950円(税込)
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 毎年6月23日は「慰霊の日」です。この日は沖縄県糸満市摩文仁の平和祈念公園で沖縄全戦没者追悼式が行われます。

 第二次世界大戦で沖縄県は戦場となりました。1945年3月26日以降、沖縄本島および周辺離島に上陸した米軍は各地に徹底的な砲爆撃と地上戦を繰り広げ多くの県民が犠牲となりました。また、住民は米軍の収容施設に収容され、そこでも多くの人が亡くなりました。一方、沖縄に配備された日本軍第三二軍は、幅広い層の県民を軍隊に動員します。そのうえで「軍官民共生共死」という県民指導方針を策定し、それが「住民虐殺」や、いわゆる「集団自決」につながり多くの県民が死に追いやられました。さらに第三二軍が南部撤退の作戦をとったことで、すでに南部に避難していた多くの県民は逃げ場をなくし軍の戦闘に巻き込まれることになります。6月23日に第三二軍司令官牛島中将の自決をもって組織的戦闘が終結を迎えたとされ、のちにこの日が「慰霊の日」として制定されました。しかし司令官らは「最後まで敢戦」するよう命じていたため、その後も県内の戦闘状態は続きます。

 県民の四人に一人が亡くなるという大きすぎる犠牲のもと、沖縄は27年間にわたる米軍統治時代に入ります。

『沖縄の生活史』は、沖縄の地元紙である沖縄タイムスで連載された聞き書きを一冊の本にまとめたものです。2022年の沖縄「日本復帰」50年を区切りとして企画された連載で、募集に応じた聞き手100人が、著名人ではなく一般の市井の方々100人に生い立ちと人生の語り、つまり生活史を聞き取りました。

 戦中のこと、アメリカー(米兵)との関係、ドル通貨時代、子どもの頃の思い出、「復帰」と内地への思い、どのようにして働いてきたか、親きょうだいとの関係、ユタや伝統行事に関することなど、語りの内容は多岐にわたります。どの語りも、地上戦と米軍統治、そして「復帰」という歴史を経た沖縄を描き出すものとなっています。それぞれが辿った人生はひとつとして同じものはないのに、米軍と日本の影響はいたるところで語られているのです。過酷な経緯をたどった沖縄でどのようにして必死に生き抜いたのか、何を思って過ごしてきたのか。沖縄を、アメリカを、日本を考える上で、知っておかなければならなかったことがここにあります。

 沖縄戦で県民の四人に一人が亡くなったということは、ほとんどの県民は親族や知人のうち誰かが亡くなっているということでもあります。生活史を語る人がいれば、その一方で亡くなったために生活史を語ることのできなかった人がいます。亡くなった彼ら彼女らの生い立ちや人生の語りを、生活史を聞くことはもう叶いません。

 6月23日、慰霊の日の正午には黙祷が捧げられ、沖縄県内は哀悼の念に包まれます。聞こえない語りに耳をすますこと、その聞こえない語りから聞き手としてなにかを学ぶことこそ、私たちが果たす責務なのではないでしょうか。


参考文献:前田勇樹、古波藏契、秋山道宏 編『つながる沖縄近現代史』(ボーダーインク刊)

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HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎
HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎
大阪生まれ、沖縄在住。2006年から書店勤務。HMV&BOOKSには2019年から勤務。今の担当ジャンルは「本全般」で、広く浅く見ています。学生時代に筒井康隆全集を読破して、それ以降は縁がある本をこだわりなく読んでみるスタイルです。確固たる猫派。