『真田太平記』池波正太郎

●今回の書評担当者●ふたば書房京都駅八条口店 宮田修

  • 真田太平記(一)天魔の夏 (新潮文庫)
  • 『真田太平記(一)天魔の夏 (新潮文庫)』
    正太郎, 池波
    新潮社
    825円(税込)
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あなたは、NHKの水曜時代劇をご存知でしょうか?

そこで一年間放送されていたのが、「真田太平記」です。夢中になって、観ていました。女忍のお江の美しさ、真田信之の生き様に惹かれました。

原作の「真田太平記」は、週刊朝日で、一九七四年一月から連載が始まり、一九八二年十二月まで八年間続いた、九千枚の大作です。週刊誌の連載でこの長さは異例です。それだけ、人気があったんですね。

池波正太郎先生が、初めての小説の題材としたのが、真田家の家老恩田民親でした。この出会いがなければ、一連の真田物もかかれなかったかもしれません。

この物語は、武田、織田、豊臣、徳川と地方豪族である真田一族との生き残りをかけた戦いを縦軸に、忍びたちとの闘いを横軸に、天正から元和までの怒涛の四十年間を描いています。

高遠城からの武田のほろびの音が、聞こえてくるような場面から物語は、始まります。

全体を通して、重要人物のお江と向井佐平次が、初めから登場しています。そして、歴史的事件を追いかけながら、話は進んでいきます。忍びたちも、常人として描かれ、それぞれに見せ場が用意されています。これが、本当に凄い。壺屋又五郎の襲撃シーンは、当に手に汗握る場面の連続です。勿論、戦国史に大きな爪痕を残した、当に稀代の謀略家真田昌幸、家を護るために政治家とならざるを得なかった真田信之、戦国武将の鑑ともいえる真田信繁達の魅力を余す所なく描き出します。文庫でも、十二巻もある小説が、なんの破たんもなく、あたかもはじめから決まっていたかのように、緻密に構成されています。

池波作品で語られるのは、人は生まれてから死ぬるために、生きている。決まっているのはこれだけで、後のことはわからないと。けっして、後ろ向きではなく、自分はどうしたいか、どう生きていきたいかを問われているように思われ、生きていくのが、難しい時代で語られることで、より一層感じてしまう。

魅力の一つとして、会話劇が秀逸である。

劇作家ということもあるが、それだけで話を進めつつも、語られない会話が、間というか余白をもたらす。

今村翔吾先生の推薦もあり、小学生や若い人達の読者も増えていると聞く。歴史苦手だなと言う人には、特に読んでいただきたい。ページターナー池波作品の魅力にはまってほしい。

忍びを主人公にして、戦国を描く作品も多数あります。本作とそれらを読めば、戦国時代の池波史観が、わかります。

物語は、幕府の謀略もお江の協力で回避した信之が、松代移封のシーンで、大団円を迎えます。ただ、信之と幕府の戦いは終わらず、それは、「錯乱」「獅子」に描かれています。

気になった方は、是非読んで下さい。

私はこの作品で、愚直ながらも真っ直ぐな真田信幸、信之に魅了されました。

彼は、第一次上田合戦を見ても、父と弟と一緒に戦場をかけたかったのではないか。

ただ、己の信念のために、袂を分かち、家を残すために、政治家へと変わっていった、変わらざるを得なかっだろう。

つらつら書いていると、真田ゆかりの城に行きたくなり、また、真田太平記を改めて読みたくなりました。

何度でも読み返せる、読んだ年齢で印象が変わる、それが本の良さだと再認識しました。

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ふたば書房京都駅八条口店 宮田修
ふたば書房京都駅八条口店 宮田修
高知県生まれ、大阪在住。他書店から、2020年よりふたば書房入社。好物は、歴史時代小説、ミステリですが、ジャンルは、問いません。おすすめありましたらお願いいたします。好きな作家さんは池波正太郎先生。