『あたしの一生 猫のダルシーの物語』ディー・レディー
●今回の書評担当者●福岡金文堂志摩店 伊賀理江子
猫のダルシーとその人間、2人の出会いから、ダルシーがお別れを言う17年4ヶ月と1日のその日々のおはなし。
この本は猫のダルシーの目線で描かれている。
ダルシーは自分の人間と出会う前に、自分たち(生後間もない猫の兄弟)を見に来た人間たちをこう評している。
「だってあんまり無神経なんだもの。
だいたい行儀がわるいわ。
あんなにじろじろみつめたりして。」
ドキリとした。
ダルシーのこの数行だけで感じられるように、彼女は賢く品があって物事をハッキリと言う。
そして
「あたしには彼女があたしの求める人物だということがわかっていた。」
「あたしはもう決定的に彼女を選んだ。」
と、ダルシーとその人間は運命的にお互いをみつける。
ダルシー曰く「あたしの個性を尊重してくれるような誰かが必要だった。」
生き物は同じなのかもしれない。と感じる。
このダルシーの気持ちは人間的、というより生き物の本能なのだろう。
わたし達人間も共感する意見だ。
家族や恋人や友達や、関係の名前なんかどうでもよくて、お互いを尊重し合えるひとと出逢えたらそれはきっと幸せなのだろう。
だからダルシーとその人間が会えたことは、幸せそのもので、奇跡だったのだ。
初めて読んだときも、その後何度も読み返すときにも感じるのだが、この本は愛の本だ。
愛について、惜しみなく伝えてくれている。
シンプルで清潔で完璧な愛だ。
作中ダルシーの歌う言葉は胸が締め付けられるほどの、愛そのものだ。
しかし2人の生活がずっと順調でやさしかったわけではない。
1年以上人間を避けていたダルシーもいたし、何か悩みを抱えて夜中によく泣いていた人間の描写もある。
生きていればいろんな時期がある。
それでも、だからこそと言うべきか、この本には愛が溢れている。
ダルシーが歳を重ねていく様子には涙が止まらなかった。
つまり後半はだくだく涙を流しながら読んでいた。
からだじゅういっぱいの愛を、こぼれる程の愛を感じる。
「あのひとの胸のなかにちゃんと蒔いておいた。
あたしがいなくなったあともその思い出があのひとを、なぐさめてくれるようにね。」
愛とは、なんだろう。
この言葉について考えたことがあるひとは多いだろう。
私は少し気付いてしまった。おそらくこの本とともに理に近付いてしまった。
愛とは、
- 『ここはすべての夜明けまえ』間宮改衣 (2024年5月9日更新)
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- 福岡金文堂志摩店 伊賀理江子
- 福岡県糸島市在住。2020年福岡金文堂志摩店入社。2022年頃から文芸文庫担当。夫がひとり娘がひとりの3人家族。江國香織が好き。大好き。ミステリやコワいものグロいものも大好物。整体ですべての筋肉が眠っていると言われたことがある。だからかよくつまづく。いろんな意味で。