『虚空蔵の峯』飯島和一
●今回の書評担当者●BOOK’NBOOTH 中村優子
私が初めて飯島さんの作品に触れたのは、「神無き月十番目の夜」だった。装丁と帯に惹かれて手に取ったのを覚えている。ただ、小説の内容は全然覚えていない。粗筋を読んでも思い出せない。なのに、【猛烈に面白い】と思った記憶だけが強烈に残っている。とにかく飯島さんの作品を読みたくて読みたくて仕方がないのだが、なんせ寡作。デビューからすでに40年を超えているが、その間に出版された作品は10作品にも満たないためファン(特に私)はいつも次の作品を渇望している。
そんな飯島さんの『南海王国記』(小学館)を、たまの楽しみである本屋巡りをしていた11月に大手書店で発見。7月に刊行されていたようだが、見逃していた。おお、新刊でてたんやないか!! 7年待ったぞ!と飛びつき即購入。さっそく電車の中でごそごそ本をめくると、なんと舞台は1600年代の中国で、明の時代から清の時代への変わり目に現れた、近松門左衛門の「国性爺合戦」で有名なあの鄭成功(人の名前です)が主人公ではないか!おおー、めっちゃ好きな時代と舞台だ! ......けど中国歴史ものは読むのに時間がかかる。人の名前が覚えにくいことと地理がよく頭に入っていないためだ。いつも小説の場面や背景を空想しながら読む私としては、これは電車ではなく家で子どもが寝た後にちゃんと腰を据えて読む本だと判断。いったん家の本棚にある「次に読む本」コーナーに陳列した。
そしてある日、自分の書店でこれからでる新刊を確認していたところ、なんと小学館から2月に飯島作品『虚空蔵の峯』という本が刊行されるというお知らせが!! びっくりしすぎて二度見してしまった。
ええー、そんなはずはない、だってまだ前作出たばっかりやし、いつもならここから5年は待って待って待ち焦がれる予定なのに!
ところがどうだ。本当に刊行されたのだ。しかもこれもまた私の好きな"困窮する百姓を守るため立ち上がった人々の物語"ではないか。こうなると必然的に先にこちらを読む、という判断になる。
この小説は、宝暦年間に金森氏が治めていた郡上藩で実際に起こった一揆を描いた作品で、相変わらずというかさすがというか、資料を存分に読み込んだと思われる詳細な一揆の流れと裁きの完結までを、実に丁寧にわかりやすく、しかも市井ものとしても読める人情味を盛り込んでしんしんと描いてくれている。いつもよりやや枚数が少ないように思ったが、いえいえ、内容はいつものように濃くて硬派。読みながら背筋が伸びていく。
いつも、「生きることに真面目に向き合いたい」と思っているので(本当だ)、駕籠訴人代表の河辺善右衛門や秩父屋の主人・半七のように、自身の持つ信念(根拠があり誠実な信念)を貫く生き方をみせられると、そうありたいと願っている自分の生き方を肯定してもらえるようで安心する。人が生きることに対して不誠実になることを戒めてくれる、だから私はこういう小説を愛してやまないのだ。
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- BOOK’NBOOTH 中村優子
- 大阪府八尾市在住。BOOK’NBOOTH を2025 年8月に大阪市阿倍野区にて開業。主に小説を扱い、町の本屋を目指すために雑誌や児童書、コミックや実用書も取りそろえている。どんな小説も大好きだけど、特に歴史ものには目がない。本業は社労士で、書店店舗は元書店員仲間2名が担ってくれている。休みの日は電車オタクの息子との冒険を楽しんでいるが、実は電車の中で本を読むことが最大の目的だと息子は知らない。


