『島はぼくらと』辻村深月

●今回の書評担当者●天真堂書店甲府国母店 天谷要一

 太陽の光は、4人の高校生へやさしく降り注ぐ。すべてがキラキラと光る青春物語。

 舞台は瀬戸内海の小さな島。同じ高校に通う4人の高校生。明るい朱里、美人で気の強い衣花、ぶっきらぼうなイケメン源樹、内に秘めた思いを持つ新。仲の良い4人ですが、きっと一緒に過ごせる最後の夏になるだろうとわかっているのです。

 ある日、島を訪れた男に有名な作家が書いた【幻の脚本】を探していると告げられます。【幻の脚本】とは何か?島に住む者、島を訪れる者、島を出る者、Iターンで島に住み着いた者。それぞれの状況が複雑に絡み合い、ミステリー要素を含みながら展開していく青春物語です。

 読み始めて、【幻の脚本】を探すある男がうさん臭いなぁと思ったのです。個人的には近づきたくないタイプの人間です。ここから始まった! よし、これはあれだな。その脚本に関わって事件が起きるってことか? この男は巻き込まれるのか、4人でその真相に迫るってことだな。よーし、と腕まくり。

 うん、見事に裏切られました。いい意味で。そんな単純な話ではありませんでした。299ぺージから始まる大冒険への序章。

 大学で上京した私にとって、「東京」は憧れでした。そのすべてが輝いてみえたことを今でも覚えています。そして、同時に怖さもありました。特に電車! PCやスマホが普及した今ならば何とかなるかもしれませんが、路線や駅・人が多すぎて、当時はもう何が何だか...。

 しかし、彼らは大義名分があったものの、修学旅行中に抜け出すという離れ業を成し遂げます。こういった計画(悪だくみ?)も楽しいんですよね。バレたらマズいというドキドキ感とワクワク感。宝探しのような、ひと夏の冒険。
このとき、私の脳内で流れていた曲は「STAND BY ME」。

 後半は怒涛の展開。それぞれにスポットライトが当たり、事情や思いが語られ、ついに【幻の脚本】の正体がわかります。

 そして、衣花の思いに涙。強気な彼女が決して見せなかった弱さ。絆が強ければ強いほど、淋しさも比例するように思います。それは年をとっても変わりません。胸が張り裂けそうな思いで、ラスト5ページ。

 辻村さん、やっぱりすごいなぁ。
 目の前がぼやけました。太陽の光を浴びた彼らは、物語の最後にその光を届けてくれました。青春・冒険・ミステリーというスパイスを使い分けて、見事に調理された小説が本作です。

 今、まさに中高生のみなさん、夏休みの課題図書にいかがでしょうか。
 そんな年頃のお子さんをお持ちの大人のみなさん、懐かしいあの頃の思い出に浸るのはいかがでしょうか。

 二度とない夏。最高の青春を。

« 前のページ | 次のページ »

天真堂書店甲府国母店 天谷要一
天真堂書店甲府国母店 天谷要一
1979年東京生まれの山梨育ち。怪盗ルパン・ホームズシリーズからミステリにハマり、受験期にもかかわらず本を読み漁り、担任の先生に叱られました。学生時代は、家→図書館・書店・サッカー→アルバイト→家をループするという、最高に充実した日々を過ごしました(学業はどうした!)。山梨へ戻り、フラフラした後、同社塩山店を経て現在に至る。特技は初対面でも仲良くなれること。辻村深月、横山秀夫が特に好き。あとはサッカーとビールがあれば…。