第4回 古本戦線、異常なし

 古本屋を始めてこの四月で五周年を迎えることができた。深夜営業という阿保な開店時間にも関わらず、沢山のお客さんに支えられて無事に死にぞこなった。ありがたい、同時に申し訳ない気持ちでいっぱいだったりもする。期待はずれな店ではなかったか、つまらない店と思われていないか、品揃えがおもんないと思われてないか、不安になったりする。それとはお構いなく、いろんなメディアで取り上げていただく機会は多い。「深夜の尾道、文学青年が営む真夜中の古本屋」という趣だろうか。少しでも多くの方に知っていただいて、一人でも未来の常連さんになっていただくのなら、と思っている。取材をしてくださる方々も仕事であるし、一人の人間であり、お客さんでもある。だから、なるべく取材は断らないようにしている。それでも、ネット上にあがっている内容を事前に確認もせずに聞かれたりすると悲しくなってくる。テレビの取材などで、本をぞんざいに扱われたりすると店を犯されたような気持ちになったこともあった。(送られてきた放送回のDVDは封も開けずにゴミ箱に投げた)

 雑誌で取り上げられたりすると、少しお洒落な感じに映るので、普段は本を読まないお客さんも増える。本を手に取りながら「値段はどこに書いてありますか?」と素朴な質問が来たりする。なんとなく暗黙の了解で、裏表紙の見返し部分に書いてあるものと思い込んでいた自分の普通は、他人の普通ではないと気づかされる。「ここはどういうシステムですか?」と聞かれたこともあった。あっけにとられながら「欲しい本があったら...買うですかね...。」という阿保な返答をしてしまう。そもそも古本屋、本屋だと思われていない可能性がある。

 いささか棚が渋すぎるのか、店には来ても何も買わずに帰る若いお客さんも多い。雑誌で取り上げられる温度感と実際の本棚のラインナップに多少のズレがあるのかもしれない。毎度、写真撮っていいですか?とは聞かれながらも、何も買わないお客さんに悔しい思いをする。なんとしても、そのお客さんに本を買ってもらおうと思うも、媚びすぎた棚にはしたくない。なので、時々ブックオフに行くついでに(古本の在庫が増えて、店では扱いにくく組合の市会にも出品しづらいものはブックオフに持っていくことにしている)新しいお客さん向けの本を選び、さりげなく本棚に指しておく。選んできた本たちは棚にさしていると、なぜだかすぐに売れていく。大事なのは、さりげなく。そして少しクサく。

 常連のお客さんの好みもある程度把握して、本を仕入れてくる。気持ち的には専門書店というよりも、町の商店的な思いで棚を作る。ゆりかごから墓場まで、絵本からエロまで。店では一割ほど新刊を扱っている。最近は新刊で料理本をいれてみたりすると、コンスタントに売れていく。素朴に嬉しい。あるいは、ソフトオンデマンドのカタログも常連のおじいさん向けに仕入れると、隔週で店に来てくれて何冊か買って帰る。

 店はつくづくひとりだけでは完成しないと思う。店主の自己表現というよりも、お客さんとの共同作業で共に弐拾㏈という料理を作っている気がする。僕としては昔ながらの古本屋と独立系書店のあいがけご飯のような店になればいいと思う。少々、味が濃くなるのはお客さんの癖が強いから。決して店主のアクが強いからではない。