第9回 旧統一教会の「合同結婚式」に参加して「生マザームーン」を見てきました(中編)

合同結婚式の前に開催、教祖・文鮮明氏と韓鶴子総裁の結婚65周年式典

「見ず知らずの相手と強引に結婚させられるカルト儀式」と批判されている「合同結婚式」。それが執り行われる韓国の大型イベント施設「清心平和ワールドセンター」の中に今回、私は日本のメディアで唯一入ることを許されました。

 ただ、実際に会場の中をくまなく歩き回り、参加者らに話を聞いてみても、マスコミや一部のジャーナリストらが盛んに喧伝している"闇"や"カルト性"というものがまったく感じられませんでした、というのは前編でもお伝えしたとおりです。

 世界90カ国から集まったさまざまな国の人たち、さまざまな人種の人たちでごった返し、会場が「人種のるつぼ」になっていること以外は、我々が家族や友人の結婚式に参加した時に見かける、今日の幸せを喜び合う人々がそこかしこにいるだけだったのです。

 もちろん、だからといって「合同結婚式」がまったく問題のないイベントだと判断するのは早計です。世界中から集まった5000人のカップルがこれからどんな儀式を行って、どんな形で夫婦の誓いを立てるのかということを、この目で見てみないことには評価のしようがありません。

 信者が「当たり前だ」と思ってやっている儀式だとしても、私のような外部の人間から見ると、「ああ、こんな異常なことを平気でやっちゃうなんて、やっぱり洗脳されてるな」とドン引きするようなものもあるかもしれないのです。

 

 会場全体を包む"幸せムード"に惑わされず"洗脳カルトっぽい"ところがないか見極めなくては――。スタンド席で会場を見渡しながら、そのような決意をあらたにしていたところ、スタージ上のMCが開会を宣言して照明が変わりました。ただ、よく聞いてみると、始まるのは合同結婚式ではないようです。

 どういうことかと会場の入り口でもらった紙袋の中にあったパンフレットで確認すると、今日のイベントは2部構成になっていました。第1部が「天地人真の父母様 天宙聖婚65周年記念式」で第2部が「孝情天宙祝福式」。つまり、合同結婚式の前に、教祖の文鮮明氏と韓鶴子総裁の結婚65周年を祝う式典をやるようなのです。

 ちなみに、このパンフレットと一緒に長い紙の箱が入っていたので開けてみると、中には美味しそうなロールケーキが入っていました。これはいわゆる「結婚式の引き出物」ということなのでしょうか、と信者の皆さんに質問をすると、「なんかうちの教団、ロールケーキが好きなんですよ」と笑っていました。理由はわからないけれど、韓国の教団本部が主催するイベントでは、ロールケーキが配られることが多いそうです。

マザームーン登場に対する信者の意外な反応

 開会宣言後、歌の斉唱などが終わると、20人ほどの青い制服に身を包んだ人々がやってきて、ステージの奥の壁に投影されている米連邦議会によく似た建物の前に2つの列をつくりました。この建物は「天正宮博物館」といって、韓鶴子総裁が住んでいる邸宅も兼ねていて過去に私も内部を取材したことがあります。ということは、これは国家元首が王族が公式な場にあらわれる際、兵士などが花道のように通路をつくる「儀仗」(ぎじょう)ではないのか......。そう思っていたところ、「天正宮博物館」が投影されていた壁が中央から開き、中から緑色の服に身を包んだ女性があらわれました。

 マザームーンこと、世界平和統一家庭連合の韓鶴子総裁です。

 傍にいる女性に支えられながら、一歩一歩確かめるようにゆっくりと歩く韓総裁の姿をスマホで撮影していると、私の口からは自然に「おおっ〜」という興奮の声が漏れてしまいました。

文鮮明氏との結婚65周年記念式に登場した韓鶴子総裁。"生マザームーン"に会場は割れんばかりの拍手が起きた

 ご存知のように、韓総裁は、信者からは「真のお母様」と呼ばれて尊敬の対象である一方で、「被害者」の救済をしている弁護士やジャーナリストからは「人々を洗脳して大金を貢がせて贅沢の限りを尽くすカルト教祖」と厳しく糾弾されています。つまり、信仰にしろ洗脳されているにしろ、この人には多くの人々に影響を与える「何か」があるということです。

 ステージの両脇にある大型モニターに映し出された今年で82歳になる高齢女性を見つめて「この普通のおばあさんに見える人のどこにそんなカリスマ性があるのだろうか」とその動きをつぶさに観察していました。

 

 ただ、そんな調子で初めての"生マザームーン"にテンションが上がっている私に比べて、信者の皆さんは思っていたよりも落ち着いています。

 周囲を見渡してみると、韓総裁の方を向いて、目を瞑って祈りを捧げているような敬虔な信者もいましたが、スマホをいじっている信者もいました。また、まるで久しぶりに近所のおばあちゃんを見かけた時のように「前は車椅子だったけれど、お元気になられてよかったわね」「そうねえ」なんて会話に花を咲かせている御婦人もいました。

 この反応は私的にはちょっと意外でした。

 ワイドショーなどで旧統一教会の解説をしていた専門家やジャーナリストは「日本の信者は田中会長を筆頭に全員、韓総裁に洗脳されているため、どんなに理不尽な命令も逆らうことができない」と言っていたからです。

 そこまで絶対的な存在が目の前にあらわれたわけですから、感激で泣き出したり、嬉しさのあまり卒倒したりという人がいてもおかしくありません。しかし、実際はそこまで狂信的に心酔している人は私の視界の中にはいませんでした。

 そんな信者たちのリアクションを見て、私はある古参信者の言葉を思い出しました。某県の教会で教会長を務めた経験もあるその方と、食事をしながら「旧統一教会信者の洗脳」についてあれやこれや意見交換していた時、こんなことを言ってきたのです。

「うちの教団では韓鶴子という人を『真のお母様』としていて、みんな自分の母親と同じように大切に思っているということになっていますけれど、信者の中で本当に心の底からこれを受け入れて、自分の母親だと思っている人というのはほとんどいませんよ」

 

 これまで多くの現役信者にインタビューしてきましたが、教会組織や幹部信者などへの不満を口にする人はたくさんいますが、教義を否定する人は多くありません。意外な発言に身を乗り出す私に、その古参信者はこう続けました。

「外部の人には理解できないでしょうが、私たちは文鮮明という人の唱えた統一原理というものに魅せられて、自分たちの人生を捧げようと思っています。私も文鮮明という人を"オヤジさん"と呼んで自分の父のように慕っていました。でも、韓総裁はあくまでその"オヤジさん"の妻でしかない。もちろん、尊敬はしていますが、自分の母親とどっちが大切かと言われたら、そりゃ自分の母親ですよ」

少なからずの信者の信仰対象は、文鮮明氏と彼の唱えた「統一原理」

 もちろん、これはあくまでこの人の考え方であって、信者の中には全否定する人もいるでしょう。「洗脳カルト」と呼ばれている団体なので意外に思われるかもしれませんが、旧統一教会信者の信仰の向き合い方は十人十色で、熱量も人それぞれなのです。

 ただ、現役信者たちに信仰について伺うと、その中に登場するのは韓総裁より文鮮明氏のほうが圧倒的に多いというのは紛れもない事実です。「文先生はこの時......」「......というようなことを文先生もおっしゃっています」など自然に口をついて出てくる人はたくさんいますが、「韓総裁は......」という人はそれほど多くありません。

 実はこれは私が「旧統一教会信者は洗脳されている」という主張にモヤモヤを感じているポイントのひとつでもあります。

 マスコミは韓総裁に洗脳されたと言っていますが、信者の熱心に信じている対象は、韓総裁という個人ではなく、2012年に亡くなった文鮮明氏であり、この人が唱えた「統一原理」なのです。

 この構図は、キリスト教徒が熱心に信じている対象が、ローマ法王や神父ではなく、2000年前に亡くなったイエス・キリストや、神の言葉を伝えたという「聖書」であることと変わりません。つまり、旧統一教会の信者も「洗脳されている」のではなく、「信仰している」という状態なのではないでしょうか。

 「いかがわしい新興カルト宗教と伝統宗教を一緒にするな!」というお叱りがクリスチャン界隈から飛んできそうですが、キリスト教であろうがなんだろうが、立ち上がった当初はどれも「怪しげな新興宗教」だったはずです。

 しかも、宗教団体というのは急速に信者数が増えると「異端の儀式を行なっている」「国家を転覆させる邪教」などと叩かれて、国が弾圧に動くというパターンは人類の歴史上、何度も繰り返されてきました。日本でも戦前、大本教がジャーナリストから「迷信で人を惑わせる邪教」と批判したことがきっかけで弾圧を受け、信者987人が検挙され、特高警察の拷問で16人が亡くなっています。

 こういう歴史に目を向けると、60年間、刑事犯がゼロの教団を「元信者」が訴える献金トラブルのみで、「反社会的団体」と一方的に決めつけて、国家が宗教団体を解体させようというのは、どうしても私には「大本事件の繰り返し」にしか見えないのです。

トランプ米大統領宗教顧問・ホワイト牧師が祝辞

 そんなことを考えているうち、記念式典がどんどん進行していきます。花束贈呈、ケーキカット、そして礼物奉呈。これは世界各地にある教会の代表者が、韓総裁の結婚65周年のお祝いに記念品をプレゼントするというものです。日本の教会はニュース等でもお馴染みの田中富広会長が登壇して、長さ10メートル以上はあろうかという巨大な「衝立」を奉呈していました。黒地に金の鶴が大きく描かれているもので、近くにいた日本人信者人によれば「輪島塗」だそうです。

トランプ大統領の宗教顧問も務めるポーラ・ホワイト牧師。韓総裁を「マザームーン」と呼んでプレゼントを渡していた

 続いてMCが「政治・宗教指導者からの祝辞」と案内すると、黒い服に身を包んだ白人女性がステージ上にあらわれます。

 彼女はキリスト教福音派のポーラ・ホワイト牧師。アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏の宗教顧問であり、今年に入ってから「信教の自由を守る」ということを目的にホワイトハウスに新設された「信仰局」のトップでもあります。そんなホワイト牧師は祝辞の中で韓総裁のことを「マザームーン」と呼び、これまでの功績を讃えていました。

 ちなみに、ホワイト牧師は宗教関係のイベントで「安倍晋三元首相銃撃事件以降、旧統一教会が差別キャンペーンの犠牲者になっている」というビデオメッセージを送ったことでも注目を集めた人物です。 続いで登場をしたのは、アメリカ共和党の重鎮で、下院議会議長も務めたニュート・ギングリッジ氏でこちらも祝辞の中で当たり前のように、韓総裁のことを「マザームーン」と呼んでいました。

 もし日本の政治家が旧統一教会の関連団体のイベントに出席をして、韓総裁のことを「マザームーン」などと呼んだら100%大炎上です。実際、教団関連団体のイベントで韓総裁に直に会って「マザームーン」を連呼した山本朋広前衆議院議員は、マスコミやジャーナリストから「旧統一教会シンパ」と糾弾されたことで、選挙も落選しています。

 しかし、トランプ政権幹部や米共和党の政治家は、そういう日本人の感覚とだいぶかけ離れているようです。しかも、これはアメリカ人だけではありません。

国連総会議長もビデオメッセージを寄せた「ワールドサミット2025

 実はこの式典の前日、旧統一教会の関連団体「UPF」(天宙平和連合)が、ソウルのロッテホテルで、「ワールドサミット2025」というイベントを開催し、私もそこを見学しに行きました。

 会場にはホワイト牧師やギングリッジ氏だけではなく、コロンビアのアンドレス・パストラ元大統領、ナイジェリアのグッドラック・ジョナサン元大統領など世界のVIPが多数参加しており、地元・韓国の政治家も多数のビデオメッセージを寄せていました。

 つまり、日本国内のメディアでは「洗脳された信者がさまざまな悪さをしている」と大問題にして国が解体に乗り出すような反社会的団体という扱いなのに、国際社会では誰もそんな風に見ていないということなのです。

 それを象徴するのが、カメルーン元首相で現在、国連総会議長を務めているフィレモン・ヤン氏がビデオメッセージを送っていたことです。今年1月に訪日して石破首相のもとを表敬訪問してニュースになっていたので、顔を見れば「ああ、あの人ね」とわかる方もいらっしゃるでしょう。

安倍元首相と同様、韓総裁に「ビデオメッセージ」を送ったフィレモン・ヤン国連総会議長(左)。隣はアメリカ共和党の重鎮、ニュート・ギングリッジ氏(WORLD SUMMIT2025 パンフレットより)

 ちなみに、日本の政治家の中には、このヤン国連総会議長と同じ立場で、このイベントにビデオメッセージを送ったことが原因で殺された人がいます。そう、安倍晋三元首相です。

「ワールドサミット2022」にトランプ元大統領(当時)と共にビデオメッセージを送った安倍元首相は、一部のジャーナリストに「統一教会とズブズブ」「カルトの広告塔」などと批判されました。そして、それを信じた山上徹也被告によって殺害されてしまったのです。

 事件後、山上被告に対して「やったことは悪いことだけれど、自民党と旧統一教会の闇を暴いた功績もある」という擁護論が盛り上がった日本の感覚では、現役の国連総会議長が「多くの被害者を生んでいる洗脳カルト」のイベントにビデオメッセージを送るなど大スキャンダルです。しかし、国際社会でそういう騒ぎになっていないことからもわかるように、世界と日本国内の世論にはかなり大きな「ギャップ」があるのです。

韓国・ロッテホテルで開催された「ワールドサミット2025」には少女民族芸樹団「リトル・エンジェルス」も登場。今年2月、「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系)でこの団体が放映される予定だったが直前に教団関連団体だと指摘があり、局側が「お蔵入り」にしたことで注目を集めた
「ワールドサミット2025」には各国の元大統領や著名な人権活動家などが多数参加。ホワイト牧師も講演を行なっていた

 記念式のステージ上では「功労者特別表彰」が始まりました。教団の発展や世界平和に貢献した信者らが、韓総裁から表彰され、記念撮影をしています。ただ、私はその様子を眺めながらも、頭の中ではこんな疑問がずっと浮かんでいました。

「旧統一教会を叩いている側も、実はかなり洗脳っぽいことしているんじゃないの?」

 安倍元首相と教団の関係を「ズブズブ」だと「闇」だと大騒ぎしている人たちは、この教団が世界中の政治指導者、宗教家、市民活動家らと親密な関係にあるという事実を伏せています。ネットで全てをわかったような気になっている人たちは、「あれは信者集めの広告塔にしているだけ」などと揶揄していますが、実際に現地で取材すると、教団の社会貢献活動を評価している人々がたくさんいるのです。

 つまり、「安倍元首相は旧統一教会とグルで一緒に悪事を働いていた」という自分たちが思い描くストーリーに合致するように意図的に偏った情報だけを発信して世論を誘導しているのです。それがよくわかるのが、安倍元首相の「信仰」です。旧統一教会とズブズブ以前に、安倍元首相は別の新興宗教団体の「信者」でした。

 それは"手かざし教"として知られる「崇教真光」です。2009年、同教団の「50周年大祭」が行われ、そこに出席した安倍元首相はこんな祝辞を述べたと教団の広報誌に載っています。

《主の大御神様、救い主様、聖珠様、教え主様、立教五十周年大祭がこうして盛大に開催されましたことを心からお喜び申し上げる次第でございます》

《今日もご出席の石原伸晃先生と山本有二先生にお導きを頂き初級研修を受講し、神組み手の末席に名を連ねさせていただきました。爾来、御指導を賜って参りました》

 ここでいう「神組み手」とは信者のことです。この50周年大祭には当時、自民党総裁だった谷垣禎一氏、自民党副幹事長だった村田吉隆氏、金子一義氏などのほか民主党議員(当時)だった古賀一成氏も参加しています。

 自民党は日本会議や神道政治連盟などとさまざまな右派宗教に支えられている政党ですので、こういう話は山ほどあります。つまり、安倍元首相としても旧統一教会は数多とある「自民党支持宗教団体」のひとつに過ぎず、特別扱いをされていたわけでもないのです。

 しかし、「旧統一教会と安倍元首相の闇」を追及されている人たちはこういう話にはまったくふれません。自分たちのストーリーが崩れる余計な情報は「黙殺」しているのです。

 しかも問題は、ストーリーを補強するような「デマ」もふれまわっているところです。その代表が、先ほどふれた「ワールドサミット2022」へのビデオメッセージについて、「旧統一教会側から安倍元首相に5000万円の裏金が支払われた」ということを盛んに広めている人たちがいることです。

 先ほど崇教真光のイベントに多くの議員が出席していたように、政治家は支援してくれる宗教団体から依頼あれば、会場で挨拶もするし、祝電も送るし、ビデオメッセージも送るものです。実際、安倍氏は首相在任中に日本会議の集会にビデオメッセージを送っています。

 そんな「政治家の通常業務」をわざわざ5000万円の裏金を受け取ってやる、というのはかなり常軌を逸した行為だと言わざるを得ません。払う側にも、受け取る側にもすべてを失うリスクしかありません。他教団・他業界団体にはタダでやっている「たかがビデオメッセージ」に、なぜ旧統一教会関連団体だけがそんな高額を支払うというのも、政治家の実態を知らない素人の発想です。

 ただ、「死人に口無し」で安倍元首相側からの反論がないことをいいことに、このストーリーを「真実」だとネットやSNSでふれまわっている人たちがたくさんいます。そして、これを真に受けた人たちが山上被告のように「国賊の安倍元首相と旧統一教会を許すな」と憎悪を強めている構図があるのです。

 事実を曲げて自分たちの都合のいい話を信じ込ませて攻撃性を高めていく。これは一種の「洗脳」と言ってもいいのではないでしょうか。

「洗脳」は敵を貶め自分の正義をアピールする時に使う言葉

 断っておきますが、旧統一教会側の主張が正しくて、教団を批判している人たちが間違っているなどと言いたいわけではありません。「教団の被害」を訴えている元信者の皆さんからすれば、旧統一教会は憎むべき「巨悪」であることは間違いないでしょう。

 私が指摘したいのは、互いに「お前らは間違っている」と批判し合っていますが結局、互いにやっていることは瓜二つ、ということです。

 人間というものは「敵」を徹底的に潰すためには、その「敵」がいかに非人道的で、卑劣な悪事を働いていきたのかということを実態以上に盛って話することで、自分は正義なのだと周囲にアピールするところがあります。

 ロシアとウクライナ、イスラエルとハマスなどが、敵の軍隊が無関係の市民を虐殺したかなどを伝え、いかに国際世論を味方につけるのか、という「情報戦」が盛んに行われているのは、ご承知のとおりです。

 よく見れば、旧統一教会と教団を批判する弁護士やジャーナリストの間で行われていることもまったく同じです。互いに相手がどれほど非人道的なことをやっているのか、ということを競うように主張しており、その中に「洗脳」という言葉も出てきています。

 以前、マインドコントロールの専門家である西田公昭教授にお話を伺った際、「洗脳」という言葉が生まれたのも、西側諸国とソ連・中国という共産圏との冷戦構造の中だと教えていただきました。相手の国が捕虜に対して非人道的な拷問をしているとか、自国の兵士を殺人マシーンへと変えているという話と共に世界に広まったそうです。

 つまり、「洗脳」という概念にはもともと、敵を貶めて自分たちこそが「正義」だと周囲に知らしめるプロパガンダのような機能もあったのです。

 記念式典が終わって、韓総裁は再びゆっくりとした足取りでステージから去っていきます。それを会場の2万5,000人の信者が割れんばかりの拍手で見送っています。中には、満面の笑みで手を振っている人もいます。

 この光景だけを切り取って伝えられたら、教団に批判的な人々は「ほら、やっぱり韓総裁に洗脳されているじゃん」と嘲笑するでしょう。しかし、そのような教団批判は、信者側は「共産主義者の攻撃」だと反論しています。彼らと話をすると、マスコミが教団を攻撃しているのも、この業界内に左翼思想が蔓延しているからだという考えがかなり浸透しているのです。

 両者の言い分を一歩引いて俯瞰すると、それぞれ自分たちの考えと相入れない者を「洗脳」や「左翼」という言葉で「人格攻撃」をしているようにも見えます。

 いや、でもこういう考えが頭によぎること自体、私が旧統一教会に「洗脳」をされてしまっているということなのかもしれません。「安倍元首相と旧統一教会はズブズブ」をネットでふれまわっている人たちが、私のような考えを聞いたら100%、「カルトのシンパ」だと思うはずです。彼らからすれば、自分たちは理性的で正常な判断ができる人間で、私の方が「洗脳された愚かな人」です。どこまでいっても歩み寄ることはできず、互いの考えを主張するほど「溝」が深くなっていくのでしょう。

 「洗脳とは何か」――。合同結婚式に来たことで、私の中でこの答えはさらにこんがらがってきました。(後編に続く)