第15回 オウム真理教研究で知られる気鋭の宗教学者に聞く――「実はマインドコントロール理論の方が陰謀論ってホントですか?」①
「洗脳カルト」「陰謀論団体」と偏った政治信条を持つ人々の違いは何か
「洗脳」とは何か。その謎を突き止めるため、「洗脳カルト」や「陰謀論団体」と呼ばれる人々に直接会って、彼らの主張や反論に耳を傾けてきました。しかし、そんな取材を続ければ続けるほど、「洗脳」や「マインドコントロール」というものがよくわからなくなってしまいました。ストレートに言ってしまうと、これらの概念自体がかなり「胡散臭い話」のような気がしてきたのです。
確かに、これまで私が会って話を聞いてきた人々は、社会の一般常識に照らし合わせると、かなりぶっ飛んだ思想信条にのめり込んでいました。神やサタン、宇宙人、闇の政府......いずれも「常識的日本人」が聞くと、「あちゃー、この人たち完全に洗脳されちゃってんな」と感じるような類の話ばかりだったでしょう。
ただ、これまで30年近く取材でいろんな思想信条の人たちに会ってきた私からすれば、正直、そんなに驚きはありませんでした。むしろ、「わりとよく会うタイプ」です。
例えば、私は政治分野の取材もしているのですが、強烈な反自民党という思想を持つ「左派」と呼ばれる人たちと会うことがあります。その中には明らかに事実ではない「妄想」のような話をネットやSNSでふれまわっている人もいます。自民党や時の首相への憎悪が強くなりすぎて、風説や陰謀論こそが「真実」だとのめり込んでしまっているのです。
その逆も然りで、「反中」や「嫌韓」を掲げる「右翼」「保守」という人たちの中にもそういう人がちらほら目にとまります。彼らは、中国や韓国への憎悪が強すぎるあまり、両国に対する事実無根の話をふれまわります。そして、「なぜそう思うのですか?」と質問をすると、「反中」や「嫌韓」を掲げる著名人を崇拝していて、その人の著書に書いてあった、YouTubeで語っていた、などという答えが返ってくるのです。
しかし、これらの人々を「洗脳されている」「マインドコントロールされている」とは言いません。中には、暴力的な事件を起こしたり、ネットやSNSで誹謗中傷をしたりするという反社会的なアクションに出てしまう人もいますが、「イデオロギーや政治信条に心酔した」という説明で片付けられるのが一般的です。
こういう人たちと日常的に接している私からすれば、旧統一教会信者や神真都Qのメンバーが言っていることも偏った政治信条を持つが言っていることも、基本的には同じように感じます。
私は、人は「自分の信じたいことを信じる生き物」であり、その人が考える「真実」と、私の考える「真実」は違うということを肝に銘じながら、「取材」という仕事を30年近く続けてきました。だからこそ今回、「洗脳カルト」や「陰謀論団体」と呼ばれる人々に取材をして、彼らだけが特別視されることに強烈な違和感を覚えるのです。
連載スタート直後にお話を伺ったマインドコントロールの専門家である西田公昭教授によれば、詐欺商法、ブラック企業、体育会系運動部、そして戦前の日本社会もマインドコントロールされていたと言えるそうです。つまり、現代社会のありとあらゆる人間関係で、マインドコントロールがあふれているというのです。
だったら、なぜ特定の人々へのマインドコントロールだけが問題視されるのでしょうか。「信じているもの」の中身によって、「マインドコントロールされている危険人物」呼ばわりされたり、されなかったりという意図的なレッテル貼りに問題があるのではないでしょうか。これでは、中世ヨーロッパの「魔女狩り」のようなことができてしまいます。
例えば、特定の政治勢力が、敵対する人々を「あいつらはマインドコントロールされている」と断罪し始めれば、反社会的で危険な人々だというイメージをつけることができるので、社会からスポイルすることができてしまうということです。
オウム真理教研究をする宗教学者・大田俊寛さんをたずねる
そんな風に「マインドコントロール」という概念自体に疑念を抱き始め、次の取材先をどうしようかと悩んでいた時、ある専門家に突き当たりました。
埼玉大学の非常勤講師である大田俊寛さんです。
大田さんは、近著『一神教全史』などで「宗教とは何か」を探究している気鋭の宗教学者です。オウム真理教の研究でも知られ、2011年に公刊された『オウム真理教の精神史』は話題を呼びました。その後も、元信者らに面会したり、元幹部の上祐史浩氏が代表を務める「ひかりの輪」の調査を行ったりなど、研究を続けています。


オウム真理教といえば「洗脳」や「マインドコントロール」という概念を日本社会に広めた団体と言っても過言ではありません。教祖の麻原彰晃が信者たちを洗脳して、地下鉄サリン事件など「狂気」としか思えない無差別テロに走らせたというのは有名な話です。サティアンと呼ばれる施設で共同生活を送る信者たちが奇妙なヘッドギア("麻原の脳波データを注入する"とされる器具)をつけている映像もかなりショッキングでした。
ただ、そんなオウム真理教を研究してきた大田さんは当時、マスコミで注目をされた「洗脳」や「マインドコントロール」というものに非常に否定的だというのです。さっそく私は大田さんに取材を申し込みました。 (②に続く)
