3月24日(水)死ぬまでにしたい3つのこと

  • 幻獣少年キマイラ (角川文庫)
  • 『幻獣少年キマイラ (角川文庫)』
    夢枕 獏,三輪 士郎
    角川書店
    524円(税込)
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 ピエテル・ニィストレーム&ピエテル・モリーン『死ぬまでにしたい3つのこと』(加賀山卓朗訳/ハーパーBOOKS)という小説を読んだ。なかなか面白いスウェーデンの警察小説だが、今回はその小説の話ではない。死ぬまでにしたい3つのこと。私なら何だろう、と考えたのである。ずいぶん前に「死ぬまでにしたい10のこと」という映画があったので、「死ぬまでにしたい」というフレーズは、今回の小説のオリジナルではないが、それはともかく、真先に浮かんできたのは次のことだ。

「キマイラ論を書きたい」

 周知のように、「キマイラ」とは夢枕獏が書き続けている大河小説のシリーズ名だが、最初の第1巻『幻獣少年キマイラ』が朝日ソノラマ文庫から刊行されたのは、1982年である。なんと今から40年前。それから延々と書きつづけていて、まだ完結していない。完結しないと「キマイラ論」を書けないから、早く完結してほしいのである。

 ずいぶん前、「私が生きている間に夢枕獏のすべてのシリーズは完結しないだろう」と書いたら、作者からその返答がきて、本の雑誌に載ったことがある。そのときの1ページコラムのタイトルは「北上さんあと10年生きていただければだいじょうぶですよ」というものであった。そこでは、さまざまなシリーズの完結までのスケジュールを書いていて、

「キマイラについてはどんなに延びても十年以内、目標は五年です」

 と書いていた。そのコラムが本の雑誌に掲載されたのは、2009年12月号だ。おいおい、もう10年を過ぎてるぞ。

 その「キマイラ」、いまは「一冊の本」に連載中なのだが、手元にあった2021年3月号を見たら、

 夢枕獏「キマイラ」は休載いたします。

 とあった。休んでいるんかい! 

 どうしてそんなに「キマイラ」にこだわっているのかというと、このシリーズが夢枕獏の原点であると思うからだ。この中に、この作家のすべてがあると思うからだ。

 夢枕獏『呼ぶ山 夢枕獏山岳小説集』(角川文庫/2016年刊)に寄せた大倉貴之の解説に次の一文がある。

「夢枕獏の方向性を決めた作品のひとつが、山岳小説と日本神話的世界が融合した「山を生んだ男」(『ねこひとのオルオラネ』所載)である。当時、その新しい視線でエンターテインメント書評に革新をもたらしつつあった北上次郎が、そのリアルな遭難描写を絶賛。北上の推挙によって双葉社から長編書き下ろしの依頼が舞い込み、シッダールタ(仏陀として覚醒する前の釈迦)を主人公にした初の長編冒険小説『幻獣変化』に結実。それを読んだ朝日ソノラマの編集者から書き下ろしの依頼がきて、それが現在でも書き続けられているキマイラシリーズの第一作となった」

 おお、そうだったのか。それは初めて知った。私の推挙がなくても、夢枕獏はいつかは長編を書いただろうし、そしてキマイラシリーズも始めただろう。私はたまたま偶然、その近くにいたに過ぎない。

 しかし、いきがかり上、そういう縁のある作品なので、最後を見届けたいのだ。そして「キマイラ論」を書きたいのだ。

 このシリーズについては完結してから読もうと思い、途中からは読むのを中断しているので、いまは全部で何巻になっているのか、それも皆目わからない。それにこのシリーズ、何度も版を変え、版元も変えて刊行されているので、これから全巻を読む場合、どの版を買い求めればいいのかもわからない。

 全巻読む時間も必要だから、早く完結はしてほしいけれど、いきなり終了するのもやめてほしい。できれば、あと半年で終了、というタイミングで告知してくれ。半年もあれば全巻読んで「キマイラ論」を書くこともできるだろう。

 というわけで、死ぬまでにしたい3つのこと、の1つは、その「キマイラ論を書く」ということなのだが、あとの2つは、長くなってしまったので、いずれ書く。