【今週はこれを読め! SF編】〈季節〉を終わらせる力を目ざして。三部作完結篇。
文=牧眞司
《破壊された地球》三部作の完結篇。なんとこのシリーズ、第一部・第二部・第三部(本書)、そのすべてがヒューゴー賞を受賞している。三年連続という離れ業の達成だ。
物語の舞台は、数百年ごとに破局的な天変地異〈第五の季節〉に見舞われる世界スティルネス。これまでに何度も文明が滅び、遠い過去の歴史はあやふやな伝説でしかない。たとえば、ずっと昔、〈父なる地球〉には子どもがいたが、その子どもがいなくなってしまったので、〈父なる地球〉は怒り狂い、〈第五の季節〉をもたらした――そんな話が残っている。
三部作を通しての主人公エッスンは、思念で大地やエネルギーを動かす能力を持つ造山能力者(オロジェン)だ。オロジェンは世間から畏怖・憎悪され、激しい差別を受けている。ある者は制度的な管理の対象となり、ある者は能力をひた隠しにして暮らす。エッスンは子どものときから波瀾万丈の凄まじい人生を歩んできた。
エッスンの娘ナッスンもオロジェンである。彼女は、父親によってエッスンの元から引き離され、数奇な道を進むことになる。
この『輝石の空』では、母と子がそれぞれの動機によって、世界の裏側にある古代絶滅文明の遺跡をめざしていく。〈第五の季節〉を終わらせて平穏をもたらそうとするエッスン。この憎しみに満ちた世界を徹底的に破壊しようと目論むナッスン。ふたりの拮抗を軸として、時間的にも空間的にも壮大な物語が立ちあがる。
魔法と科学が入り交じるたいへん複雑な世界設定であり、いくつもの伏線が張りめぐらされ、語りにもSF的な仕掛けがある。第一部から順番に読むことをお薦めする。
しかし、凝った設定よりも、この三部作が評価されたのは、登場人物たちの葛藤に映しだされる問題意識だろう。物語後半にこんなくだりがある。
そしていま、もしなにもしなければ、シル・アナジストはふたたび人々をいくつかの集団に分断し、互いに争い合う理由をつくりださねばならない。もう植物や遺伝子技学で生みだした動物の魔法だけでは足りないのだ――大勢が贅沢を享楽するためには、誰かが苦しまねばならないのだ
ここにアーシュラ・K・ル・グィン「オメラスから歩み去る人々」の残響が聞こえる。ちなみにシル・アナジストというのは都市の名だ。この都市がどういうものかが『輝石の空』を貫く大きな謎にかかわってくる。
(牧眞司)