【今週はこれを読め! SF編】『最後のユニコーン』の続篇~ピーター・S・ビーグル『旅立ちのスーズ』
文=牧眞司
モダン・ファンタジイの傑作『最後のユニコーン』の続篇。「二つの心臓」と「スーズ」の二中篇を一冊に収めている。
「二つの心臓」では、村が怪物グリフィンに襲われる。騎士が一群となって挑むがグリフィンは退治できない。九歳の少女スーズは最後の頼みの綱として、かつて勇者として名を馳せた王リーアに助けをもとめるべく旅立つ。それこそが王の仕事だと、スーズは考えているのだ。
しかし、道中で出逢った二人連れの男女のうち、女のほう(彼女の名はモリー・グルーだ)は言う。リーアは一番の勇者かもしれないが、もう年を取ったのよ。
いっぽう、男のほう(彼は魔術師シュメンドリックと名乗る)は、こう主張する。リーアは昔と少しも変わらず、賢く、力強く、善良で、ユニコーンにこよなく愛されている。
設定や道具立てを見れば冒険ファンタジイそのものだが、本質的にはきわめて象徴的な作品だ。老王が人生を成就する物語であり、幼い少女が人生の真実をはじめて垣間見る物語でもある。そのふたつの物語がたどる円環の焦点に、ユニコーンが現れる。ビーグルはこの作品によって、ヒューゴー、ネビュラの両賞を獲得した。
もうひとつの作品「スーズ」は、十七歳になったスーズの物語である。「二つの心臓」の結末で、彼女はモリー・グルーから「十七歳の誕生日に誰かがやってくる」と告げられていた。その予言どおり、スーズは夢のなかで誰かと出会う。もしかすると夢ではなく、それは現実世界であって、ただ誰かははっきりした実体でなく気配のようなものだったのかもしれない。
いままで会ったことがない、しかし、抜き差しならぬ縁でつながっている誰か。その誰かを探して、スーズは旅に出る。その途中で、彼女は石の身体を持つ女ダクハウンと仲間になった。ダクハウンは"死神"を探しているという。
スーズもダクハウンも具体的な相手を探して旅するのだが、それは自身のアイデンティティを求める遍歴でもある。
(牧眞司)