【今週はこれを読め! SF編】メタフィジカルなコントSF~宮澤伊織『ときときチャンネル 宇宙飲んでみた』
文=牧眞司
ウェブ配信のスタイルで綴られた連作集。主人公の十時(ととき)さくらが、同居人であるマッドサイエンティスト・多田羅未貴(たたらみき)の発明品を紹介する。それがチャンネルのコンセプトだが、毎回、実況中にハプニングが起こる。さくらと未貴がトンチンカンな振る舞いをして、視聴者がリアルタイムでツッコミを入れる展開だ。
軽快なドタバタSF。とは言え、各エピソードで披露される発明品というのが、高度な物理理論(フィジカルとメタフィジカルを跨ぐ領域の)にかかわるものなのだ。ある意味ではグレッグ・イーガンの系譜と言えなくもない。実際に、作中でイーガンへの言及もある。
開幕篇である「宇宙飲んでみた」では、マグカップに宇宙を入れて飲んでしまう。宇宙というのは比喩ではない。超弦デバイスで、宇宙の一部(5%の既知物質とエネルギー、27%のダークマター、68%のダークエネルギー)を汲みあげているのだ。それを食レポさながらに味わってみるのである。ひとえにチャンネル登録者を増やすための話題づくりのためだ。
第二篇「時間飼ってみた」では、時間を結晶化してペットにする。第三篇「家の外なくしてみた」では、家を空間ごと自動生成して部屋が延々とつづく状態にする。第四篇「近所の異世界散歩してみた」では、平行世界をランダムにザッピングするスクランプラーを持って散歩する。第五篇「エキゾチック物質雑談してみた」では、通常の物質とは異なる物性を持つエキゾチック物質の詰め合わせが、突如、宅配便にて届く。第六篇「登録者数完全破壊してみた」では、量子もつれを応用して過去を書き換え、チャンネル登録者数を増やそうとする。
未貴が繰りだす理論的説明に、さくらが素朴に首をひねったり、揚げ足を取ったりする。絶妙にズレているのだが、しかし実況としてはなかなか息が合ったふうになってしまうところが面白い。
(牧眞司)