【今週はこれを読め! SF編】現代版『宇宙の戦士』 〜J・N・チェイニー&ジョナサン・P・ブレイジー『戦士強制志願』

文=牧眞司

  • 戦士強制志願 (ハヤカワ文庫SF)
  • 『戦士強制志願 (ハヤカワ文庫SF)』
    J・N・チェイニー,ジョナサン・P・ブレイジー,金子 浩
    早川書房
    1,738円(税込)
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 現代版『宇宙の戦士』と惹句のついた、新作ミリタリSF。著者コンビのうち、チェイニーはアメリカ空軍の経験があり、ブレイジーはアメリカ海兵隊で大佐まで務めた。

 主人公は惑星セーフハーバーに暮らしていたレヴ。入隊審査では、怠け者で、傲慢、権威にやや反抗的で、怒りっぽく、自己中心的で、自信過剰で、共感性に欠けていると判定される。と言っても、とくに嫌な奴ではない。そこらへんにいそうな若者だ。兵士としての素質はあったらしい。

 兵士なぞになるつもりはさらさらなかった。ちょっとした交通違反で有罪となり、連邦海兵隊へ送りこまれてしまったのだ。人類がケンタウルス人なる異星種族と交戦中なのは知っていたが、自分の惑星に戦禍がおよんでいなければ、しょせん他人ごとだと思っていた。しかし、戦場ではどんどん人が死んでいる。敵のケンタウルス人ひとりを殺すのに、人間側は約二百人が命を落とすありさまだ。兵士補充のため、かなり無茶な徴兵が必要だった。

 海兵隊の訓練は苛酷なものだが、手を抜くことは論外だった。訓練について行けない者は、軍務識別コード99という奴隷労働者の身分に転落するだけだ。いっぽう、訓練をくぐり抜けたとしても、その先には否応なしの身体拡張と遺伝子改変が待っている。おまけに戦場に出れば死亡率78パーセントなのだ。

 物語前半では徴兵システムと海兵隊の理不尽さが描かれているが、いよいよ戦場に赴く直前、一時的に帰郷を許されたレヴは義父との会話のなかで、内心を吐露する。「信じられないだろうけど、いまはわくわくしてるんだ。自分自身を証明したいと願っているんだ。怖いことは怖いよ。だけど、幸せかって? たぶんイエスだ」。

 ああ、あれほど海兵隊での非人道的な扱いに不満を持っていたレヴはどこに。深い考えもなく入隊した青年が自覚的な戦士へ変貌する展開は、たしかにロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』と共通する。それを成長と呼ぶかどうかは、大いにためらうところではあるが。つけ加えておくと、レヴは体制や組織というものを無邪気に信用するわけではない。

 それから先の物語は、宇宙での振りきった戦闘場面がつづく。タフな任務、勇気と幸運、友情と死。量産型ハリウッド映画のように、あまりにもあまりにも王道すぎる展開とはいえ、メリハリのある演出と適度なユーモアが凝らされているため、するする読ませる。これが現実の戦争(つまり人間対人間の)を扱った作品ならば、主人公側の一方的な観点で話が進むことに躊躇を覚えもするが、そこはSFの設定がうまく使われていて、敵方のケンタウルス人は正体が不明なのだ。そのうえ、あまりに強大で凶悪。

 終盤に至って、レヴは決死の作戦のさなか、それまで謎だったケンタウルス人の一端にふれる。それがまた、彼の運命を変えてしまうのだが......。そういう"引き"もなかなか良く計算されている。原著ではすでに十五巻を数える人気シリーズとのこと。

(牧眞司)

  • 宇宙の戦士〔新訳版〕(ハヤカワ文庫SF) (ハヤカワ文庫 SF ハ 1-40)
  • 『宇宙の戦士〔新訳版〕(ハヤカワ文庫SF) (ハヤカワ文庫 SF ハ 1-40)』
    ロバート・A ハインライン,内田 昌之
    早川書房
    1,100円(税込)
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