【今週はこれを読め! エンタメ編】あの頃の記憶がよみがえる短編集〜姫野カオルコ『くらやみ小学校』

文=高頭佐和子

  • くらやみ小学校
  • 『くらやみ小学校』
    姫野 カオルコ
    小学館
    1,870円(税込)
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 小学校を舞台にした四篇の小説が収められている。自分が小学生だった頃を思い出さずにいられない小説だ。四十年以上前のことだが、今考えるとおかしいと感じることはたくさんあった。当時もぼんやりそう思っていたけれど、正面からそう訴えればお前の方が間違っていると言われるだけなのだということを、私も他の子どもたちも良くわかっていたのだと思う。読んでいると嫌な記憶が次々によみがえってくるし、自分の中にある黒いものを見せつけられているような気持ちにもなる。それでも、最後まで読んで良かったと思う小説だ。

 四篇の中で最も長い「ランドセルを持った女」は、奇妙な一文から始まる。

「なぜああしたことが起きたかといえば、宇佐美由香里がまだランドセルを持っていたからだろう。」

 何が起きたのか、ランドセルがどう関係あるのかはまだわからない。明るくて純なかわいい人という印象を多くの人に与えていたこの女性が、何か問題を起こしたらしいということだけがわかる。

 1990年、小学六年生の由香里は学級委員で、作文もリコーダーも上手な「一番の女子」だった。「ヘルシーでチアフル」な家庭で生まれ、小学校校長の父親に「かわいい」と溺愛され兄たちに守られて育った由香里は、自己肯定感が強くきらきらしていた。中学に進学すると状況は変わってくる。成績はハナマルではなくなった。男子生徒たちがこっそり行った人気投票では、自分より劣っていると思っていた女子がルックスの良さで一位になり、由香里には「ブス」という言葉投げつけられた。共に学級委員を務めていた仲良しのはずの「一番の男子」は、人気投票一位の女子とデートをしたらしい。

 無遠慮な男子生徒のいない女子高校を選び、そのまま付属の女子大に進学した由香里は、卒業すると生まれ育った市の教員として、自分が最も輝いていた場所である小学校に戻った。子どもたちからは人気で父母にも信頼され、教育委員会での評価も高い。ベテラン教師となり、新卒の男性教師から頼りにされ、由香里はまたきらきらと輝いていたのだが......。

 愛情深く育てられた優等生の小学生が教師となり、やりがいを持って働いている。周囲からも認められている。何も問題はないように見える。だが、いくつかの出来事をきっかけに、由香里はあることをやってしまう。

 読み終えた人の多くは、数年前に報道されて話題となった出来事を重ねずにはいられないだろう。小学校の教員たちによる醜悪で不可解な行動に、私も強い嫌悪感を覚えた。いい大人が、なぜそんなことをやったのか。どうして誰もやめようとしなかったのか。精神的に未熟な人たちが起こした特殊な出来事に過ぎないのか。一人の女性の成長と心の変化を細やかに描きながら、著者はその疑問に迫っていく。

 きらきらした自己肯定感の後ろ側に歪んだ心を隠し持ち、肥大させてしまう由香里のような人物はどこにでもいる。私の中にも、彼女が心のうちに持っていたものとよく似た何かが、きっとあるのだ。そう思うと、うっすらとした闇に包まれて出口を見失ったような怖さを覚える。

(高頭佐和子)

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