【今週はこれを読め! コミック編】安楽死をめぐる対話と葛藤〜北村みなみ『終末パートナー』
文=田中香織
19年前、他国で運用されていた制度が、日本でも合法化された。以来、年間およそ7500人が、医師の介助により、自らが決めた最期を迎えるようになった。安楽死──その審査には、厳正な手順が定められている。
不治の病に罹った者が、心身に耐え難い苦痛を訴えた時、主治医は診断書を作成する。その書類とともに、本人の確かな意志が面談で証明されると、申請段階へとたどりつく。
だが申請を行ったとしても、それが受理されるかは別の話だ。審査を通る基準は明示されておらず、不承認となるケースも少なくない。合法化されたとはいえ、安楽死は手軽に選べる手段ではなかった。
そういう社会で、夢を叶えた小桜要(こざくらかなめ)は、安楽死プランナーとして働いている。顧客の望みにできる限り寄り添い、より良い終わりを迎えられるよう、常に励んでいる。彼女の仕事ぶりは確かなもので、勤務する支店では「No.1」の呼び声も高い。むしろ客に肩入れしすぎる要に対し、彼女の上司は心配しながら釘を刺すほどだった。
本作は『月刊コミックビーム』で連載されたのち、上下巻が同時に発売された。2冊を合わせると500ページを優に超える厚さだが、連作短編のように主役が入れ替わる展開も手伝ってか、その長さを感じることなく、結末まで一気に読まされる。
すっきりとした線と柔らかい絵柄、そして時折混じるユーモアが巧みであるからこそ、読みながら何度も真顔になった。架空の物語のはずが、いつの間にか現実的な重さをまとって、ずしりと響く。先の見えにくいこの国で、いつか実際にその制度が成立する可能性が、頭をよぎる。もしそうなったら、私は、私の大事な人たちは、いったいどうするのだろう──。
同じような不安と迷いは、要の心にも秘かに浮かんでいた。彼女の夫・小桜纏(こざくらてん)もまた、安楽死を望む一人だからだ。夫の希望に添うべく嘆願書を作成し、申請を幾度も手伝ってきた要。審査が通り喜ぶ夫を前に、思わず彼の安楽死プランナーを買って出るものの、その本心は複雑だった。
本作は安楽死という制度を前に、互いの思いを言葉で伝えあうことに、何度も焦点を当てる。葛藤や矛盾を抱えることは、人らしさの表れでもある。言動が裏腹になり、時に自分自身ですら、その本音に目をつむる。それでも、わかりあうことの限界を見つめながら、自分とも、他人とも、言葉を交わし続ける。そうすることでしか、たどりつけない答えがある。
(田中香織)


