【今週はこれを読め! コミック編】互いの思いやりが胸に沁みる〜渡部大羊『おかえり水平線』

文=田中香織

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 19回目の春にして、初めて別の場所での発表となった。何かといえば、マンガ大賞2026の授賞式である。賞の設立以来、有楽町にあるイマジンスタジオで行われるのが常だったが、今年は改装の時期に当たったこともあり、急遽、他の会場を探すことに。その結果、浜離宮朝日ホール・小ホールで開催する運びとなった。

 会場が変わっても、賞の仕組み自体に変化はない。11人の実行委員が、マンガ好きの自分の友達にそれぞれ声をかけ、選考員になってもらう。その数、100人強。選考対象は前年に出版された8巻までのコミックで、電子書籍も含まれる。1月1日から始まる一次選考では、各選考員が自分の好きな5作を選ぶ。集計した結果から、得票上位10作(同率順位含む)が二次選考のノミネート作品となる。

 選考員は、ノミネート作をすべて読んで投票する。今年は12作品で、その総冊数は36冊。自腹で読むことに加え、読むための時間をひねり出すことも、選考員にとっては毎年の難題だ。それでも、自分が読んでいなかった作品に出会えた時の嬉しさや、授賞式後の打ち上げで、集まった人たちと感想を言い合う時間は何より楽しい。

 そんな風に選ばれた今年の大賞作品は、以前ご紹介した『本なら売るほど』だ。1巻には『本の雑誌』も登場しているこの作品は、一足先に「このマンガがすごい!2026」を受賞した。その上、手塚治虫文化賞にもノミネートされている話題作である。最新刊の3巻は2026年4月15日に発売予定で、まとめ買いにもちょうどよい巻数だろう。店頭でぜひ手に取ってほしい。

 ......と、肝心な今回の紹介は、4位に輝いた『おかえり水平線』である。本作は「少年ジャンプ+」のアプリとウェブサイトで連載されている。私は今回のノミネートをきっかけに初めて読み、「どうしてこの作品を本欄で紹介しなかったのか!」と、自分のアンテナの低さを猛省することになった。

 物語の舞台は、とある港町の銭湯だ。高校1年生の柿内遼馬(かきうちりょうま)は、授業が終わるとまっすぐ家に帰る。祖父が経営する「柿の湯」を手伝うためだ。マイペースな遼馬にとって、番台で過ごすひとりの時間は、クラスメイトと過ごす放課後よりもはるかに和むひとときだった。

 そんなオアシスに、ある日、一人の少年がやってくる。柴崎玲臣(しばさきれお)と名乗った彼は、遼馬の父の写真を取り出し「この人に会いにきた」「...この人は」「オレの父親だ」と告げて──。

 突然の来訪に驚きつつも、遼馬は自分のペースを崩さない。「父に会いたい」と懇願しながら無理は言おうとしない玲臣に対し、彼の気持ちを考えた上で、誠実に向き合おうとする。それは祖父も同じだった。遼馬の気持ちを汲み取りながら、まだ保護者を必要とする年齢の玲臣の立場を慮り、大人としての責任を果たそうとする。言葉にせずとも、大人なりに、子どもなりに、互いを思いやる。丁寧な展開が胸に沁みる。

 柿の湯に集う人々は、それぞれに悩みや迷いを抱えている。その関係は、時に厳しくとも、限りなく温かい。最新刊の3巻は、4月3日に発売されたばかり。遅ればせながらの紹介となったが、お湯に浸かりに行く気分で、まずはページをめくってみては。

(田中香織)

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