【今週はこれを読め! コミック編】穏やかな優しさに満ちたSF人間ドラマ〜永田礼路『まどいのいきもの』

文=田中香織

  • まどいのいきもの -銀河生物観察記- (1) (ビッグコミックス)
  • 『まどいのいきもの -銀河生物観察記- (1) (ビッグコミックス)』
    永田 礼路
    小学館
    770円(税込)
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 25年前、遠い星の爆発により、銀河風(テンペスタ)と呼ばれる嵐が起きた。多大な影響を受けた地球上では、その後、「星の落とし子」という名の新たな生物種の発見が相次いだ。時に人体へ害を及ぼすこともある彼らを、町医者の薄羽(うすば)はこよなく愛し、患者の体内に発見しては収集してきた。

 そんな変わり者の元へ、会社員の富沢(とみざわ)が来院する。診察の結果、彼の肝臓から星の落とし子である「モグリヒトデ」が見つかった。ヒトの肝臓を食べながら寄生する種で、ある程度の大きさを超えると、宿主を肝不全にしてしまう。治療方法は、手術による除去だ。

「術後の肝臓は再生する」と聞き、安心する富沢。だが、続く薄羽の説明に、表情を曇らせる。いわく、モグリヒトデの分泌物はヒトの中枢神経に作用し、記憶力や情報処理能力を向上させる──つまりヒトデを除去することで、これまで彼が積み上げてきた、ビジネスマンとしての優秀な成績を手放すことになる可能性がある、と。

 地方出身者として苦労を重ね、努力と才能で成り上がってきたと自負する富沢は、部下にも家族にも厳しく接してきた。そのため、立場を失うことを恐れた彼は手術を拒否し、見て見ぬふりを決めこむが、身体の異変はごまかせなかった。

 本作は一話完結の読み切り連作で、『ビッグコミック』(小学館)増刊号で連載されている。どこにでもいそうな人々の生活に、架空の生き物が違和感なく共生する描写は、「もしかしたら今この瞬間も、実はどこかで生息しているかも」という想像をかきたてる。各話の後には、実在の生物に関する解説や参考文献も載っていて、読者の世界を広げてくれる。

 著者は兼業マンガ家で、現役の医師でもある。2022年に開催された同人誌即売会・コミティアでは、日本医学外総会(通称・医総会)の委員に声をかけられ、広報用の「医総会マンガ」を執筆。コミカルな描写が話題をさらった。

 また、かつて青年誌『アフタヌーン』(講談社)で発表した『螺旋じかけの海』は、出版契約を解除したのち、続編を個人で執筆し、同人誌として頒布した。全5冊で完結した際には、VALUE BOOKSが運営する「積読チャンネル」での動画配信をきっかけに、同書店で1,000セット以上の予約を集めたことも記憶に新しい。

 そうした活躍を続ける著者の最新作は、SFであり、人間ドラマだ。術後の富沢は、自らの限界を感じて忸怩たる思いを抱くが、周囲の人々は彼の変化を好意的に受け止め、手を差し伸べる。そして彼の経過観察に当たった薄羽も、自分を卑下するばかりの富沢に対し、ヒトデの生態を語りながら、その思い込みを解きほぐす。

 星の落とし子と出会った人々は、思いがけない人生の岐路に立つ。己の欲や現実と向き合うことは厳しくも切ないが、結末には穏やかな優しさが満ちている。だからこそ登場人物たちだけでなく、読者である自分の肩の力もすっと抜けていくのだろう。その心地よさを、続巻でも味わいたい。

(田中香織)

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