【本屋大賞20回記念】"当たり前に存在している本屋大賞"であり続けるために

文=本の雑誌特派員

記念すべき20回目を迎える本屋大賞。その運営に携わってきた実行委員が、これまでの本屋大賞を振り返りながら、どんな想いで本屋大賞を運営してきたのかを綴っていただきました。第1回目は、本屋大賞実行委員の礒部ゆきえさんです。


 私が本屋大賞実行委員になったのは3年前、ちょうどコロナ禍になる少し前で、何かの会合の二次会で居酒屋に入るなり高頭さんと内田さんに囲まれ、実行委員会に誘われたのがきっかけでした。
 そのときはあまり時間がなかったこともあり、まさか本気で私を実行委員会に誘っておられるとは思わず、お二人の本屋大賞への熱い想いを酔った頭で私にはどこか遠い話のように思って聞いていたのを覚えています。

 私は、書店に入社してから大阪の店舗で10年以上勤務したのち、数年前に東京都内の池袋へ配属となりました。
 入社したときにはすでに本屋大賞は存在しており、あるのが当たり前で、本屋大賞について深く知ることもなく、毎年発表される受賞作品を粛々と販売する日々でした。
 特に地方の書店員からすると、なんだか東京は華やかな世界に見えるし、新人の頃は、本屋大賞に投票している書店員というのは皆さん有名な方ばかりでキラキラと仕事してるのだろうとぼんやり想像していたくらいです。

 今ならわかるのですが、どこにいようと、書店員ひとりが投じる1票は等しく重く、ひとりひとりがプライドを持って参加できる賞。それが本屋大賞です。
 さらに、本屋大賞は書店員なら誰でも投票できるという開かれた賞でもあります。
 これは実行委員になってわかったことではありますが、実行委員会では、投票に参加した書店員の気持ちにも応えるべく、毎年繰り返し公正な運営をしようと奮闘しています。
 だからこそ、投票する書店員には1票の重みを知ってほしい、出版社には書店員の思いを受け止めて本屋大賞の在り方を理解してほしい、そして、書店へ来られるお客様には年に1度のこのお祭りを楽しんでもらいたい、そう思っています。

 以前の私のように誤解されている方もいるかもしれませんが、本屋大賞実行委員は皆、決してキラキラしているわけではありません。むしろヨレヨレかもしれない。
 皆、無給で勤務外の時間に運営活動をしています。
 投票する書店員も、皆そうでしょう。
 特に、ノミネート作品が決まったあとには怒涛の日々が待ち受けていて、出版社との調整や会議があり、毎日メールが飛び交い、あれれ、気付いたら春がやってきていた。と散り始める桜を見て思う。
 これを、表彰されたり、有難がられるわけでもなく、だけれどもそれぞれの熱い想いを持って運営している人たちばかりで、私は実行委員になってからこれまで、そんな人たちに引っ張ってきてもらいました。

 1度だけ、SNSで本屋大賞が批判された動画投稿を見たことがあり、悲しさのあまり実行委員の皆にメールしたことがあります。
 そのときは、気にするなと励ましてもらいましたが、その受け止めかたを見て、きっとこの人たちは今まで様々な心ない言葉や、事実と異なることを言われてきたんだろうと思いました。
 私は、悔しくてたまらなかった。
 その言葉に怒ったり、反論したりせず、受け止めていつも通り運営にあたる皆を見て、理解されない苦しみを初めて感じました。

 たくさんの方々に書店に足を運んでもらいたい、本の持つ魅力を一人でも多くの方に知ってもらいたい。
 実行委員会には、純粋にひたむきに、本屋大賞を創り上げてきた人たちがいます。
 出来上がった土台に乗り込んだ私には計り知れない、創設時からの努力や苦悩があったと思います。私にはその経験を共有することができませんが、本屋大賞の持つ意義や想いは受け継いでいきたい。
 大切に紡いできた19年間を、これからも守っていきたい。

 そして、これが一番大切なことですが、これまで本屋大賞を支えてくれたのは、本を買ってくださるお客様、本を届ける書店ならびに投票書店員、出版社、著者を含めた多くの人々であり、感謝を忘れてはいけないと思っています。
 私が入社時から感じていた"当たり前に存在している本屋大賞"であり続けることは、とても大変だけれども、20年目にして、これはかけがえのないものだと改めて思いました。

 今年4月12日の第20回本屋大賞発表会、コロナ禍後初の通常開催となります。
 このお祭りを、皆様に存分に楽しんでもらえますように。

本屋大賞実行委員会 礒部ゆきえ

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