
作家の読書道 第212回:呉勝浩さん
2015年に『道徳の時間』で江戸川乱歩賞を受賞、2018年には『白い衝動』で大藪春彦賞を受賞。そして新作『スワン』が話題となり、ますます注目度が高まる呉勝浩さん。小学生のうちにミステリーの面白さを知り、その後は映画の道を目指した青年が再び読書を始め、小説家を目指した経緯は? 気さくな口調を脳内で再現しながらお読みください。
その2「頭の中で連載を抱える」 (2/8)
――自分で物語を空想したり書いたりはしませんでしたか。
呉:空想してましたね。例えば原作・大沢在昌、作画・高橋ツトムで刑事の主人公をイメージして、頭の中でそれを動かすんです。登下校中とか、教室の掃除とかしながら。設定だけ借りパクして、こういう展開でこういうキャラが出てきて、こういうやりとりをしてみたいなものを、ずっと頭の中で進めていくということを、高校生くらいまでやっていたのかな。
面白い話を頭のなかで、何本も何本も作っていたんですよ。この瞬間はこの話をやって、飽きたら次の話をやって、って。
――ふふ。何本も連載を抱えているようなものですね。
呉:そうそう。で、だいたい終わらないんですよ。完結しないで連載終了になっているんですよ。で、完結しないまま別の新しい話が始まり、みたいな。
――刑事とか警察の話が多かったんですか。
呉:基本はジャンプ系。『ドラゴンボール』がベースにあって、あとはスポーツもので野球、サッカー、バスケ、なんでもできましたね。でも、キャラクターは全パクしないんですよ。なんとなく変える。「明らかにこれ、あれやろ」みたいなものはあったけれどそれは目をつぶる感じで。
――書いてみることはしなかったんですか。
呉:小学校の頃は漫画とか描いていたんですけれど、定規を使うのが本当に嫌で。だから手書きでぐにゃぐにゃしたコマ割りしかできなかったんですよ。小学校3~4年生頃かな、「うさかめ物語」という漫画をずっと描いていました。ウサギとカメが出てくるだけの話なんですけれど、結構クラスの友達とかが読んでくれて「面白い」ってなってたんです。その後の、遺作となる『動物戦隊ネコマタン』という漫画は長大な長篇で。
――遺作って、最後の漫画作品ってことですね(笑)。
呉:これが傑作で、最終巻10巻までいったんですよ。でもこれも完結しなかったっていう。大学ノートに描いていて、最後の10巻目だけめっちゃ分厚い100枚くらいのノートを買って、表紙だけ描いて「もういいか」って止めちゃったんですよね。
――ちなみにそれはタイトルからして、動物たちの戦隊が活躍する話ですか。
呉:そうです。もうね、最後のほうは結構ハードボイルドな感じになっていましたね。世界を救う話になって、いろんな漫画のパクリキャラが勢ぞろいして。面白かったな。
――楽しそう。ところで呉さんは青森のお生まれですよね。どんな少年時代だったのかな、と。わんぱくなのか、それとも...。
呉:小学校の頃はわりと外でも遊んで、野球部にも入って、家に帰ったらゲームやったり漫画読んだり、映画を観たりしてました。だんだん外に出なくなっていくんですけれど、まあ、小学生の頃はいいバランスをとっていたと思います。
――その頃、将来なりたかったものは。
呉:おもちゃ屋さんです。おもちゃで遊べるからという、まあ一番オーソドックスですよね。
――作文などを書くのは好きでしたか。
呉:小学校5、6年と同じ担任の先生だったんですけれど、その先生が日記を書かせるのが趣味みたいな感じで、ずっと書かされていたんです、クラス全員。文章を書くようになっていくのは、それがベースにあるのかもしれません。毎日書くっていうのはね、すごく蓄積になったでしょうね。