第221回:高山羽根子さん

作家の読書道 第221回:高山羽根子さん

この夏、『首里の馬』で芥川賞を受賞した高山羽根子さん。これまでも一作ごとにファンを増やしてきた高山さん、多摩美術大学で日本画を専攻していたという経歴や、創元SF短編新人賞に佳作入選したことがデビューのきっかけであることも話題に。読んできた本のほか美術ほか影響を受けたものなど、高山さんの源泉について広くおうかがいします。

その4「何度も眺める美術本」 (4/7)

  • 【第163回 芥川賞受賞作】首里の馬
  • 『【第163回 芥川賞受賞作】首里の馬』
    高山 羽根子
    新潮社
    1,375円(税込)
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――学生時代、美術関係の本もいろいろ読まれたのでは。

高山:その頃の本棚を見ていると、やっぱり画集とか美術評論が多いですね。その人を論じているものとか、その文化の全体的なものを俯瞰して論じる本とか。本棚を整理していると、10代後半とか20代の頃はそういうものをよく買っていたんだなと分かります。

――「この本が良かった」というものをいくつか教えていただけますか。

高山:えっと...。瀧口修造さんという作家がすごく好きなんです。詩人で美術評論家なんですけれど、デカルコマニーという手法で絵も描いていた方なんです。富山出身で、富山県美術館にはアトリエまで再現されていたりして。子どもの頃に連れて行ってもらって、瀧口さんの作品とか、瀧口さんのコレクションを見ていたんですよね。瀧口さんは現代美術のコレクターでもあるので、デュシャンの作品なんかも持っていて、それが展示してあるんです。そういうものを見てきたことが、『首里の馬』なんかも影響を受けているだろうなって勝手に思っているんですけれど。
 その瀧口さんの本や作品集が好きですね。画集とか展覧会のカタログは増えちゃうのであんまり表に出しておかないんですけれど、作品集はずっと手元に置いています。『夢の漂流物』は彼自身の作品というより彼が集めてきたものが収録されている本。展示会のカタログなんですが『《海燕のセミオティク》2019』は彼自身の作品とそれについての文章が載っていて、それも手元にあります。スケッチブックと文章が対みたいな形で展示されていたんです。
 瀧口さんもそうですけれど、他にも画家であり詩人であったりする方ってたくさんいらっしゃいますよね。みなさん文章も絵も美術作品も作っている。それこそ赤瀬川源平さんとか。そういった方たちの作品集を読むのは学生時代から好きだったかもしれない。
 最近の、詩人の平出隆さんの『鳥を探しに』も好きで読んでいます。平出さんは基本的に詩人と呼ばれていると思うんですよ。そう考えると、どのあたりまでを美術家と言ってどのあたりからを文筆家というのか微妙だなと思うんです。瀧口修造さんも含め、若かった私にとってすごく大事な作家さんだと思います。

――ところでがらっと質問は変わりますが、ベイスターズのファンになったのはいつからなんですか。

高山:それは、年間どんだけ試合に行けばファンといえるかという。子どもの頃はテレビでプロ野球中継を見たり、父親に連れられて年に2、3回球場に行ったり、よみうりランドのジャイアンツの二軍の球場に行ったりというのはあったけれど、自分でユニフォームを着て応援するという感じではなかったんです。でも神奈川県って高校野球が盛んで、私の高校時代も横浜高校や、Y校(横浜商業高校)がすごく強くて、「そんなに野球好きだったっけ」という女の子も選手のことをきゃあきゃあ言っていたんですね。松坂大輔は私の代ではなく妹と同い歳くらいなんですけれど。まあ、そんな感じでチラチラ生活の中には入ってきていたんです。
 ファンになったのは大人になってからですね。1998年に横浜が日本一になったんです。もう、神奈川県の横浜側にいる人が全員横浜ファンなんじゃないかと思うくらいで、パレードとかもすごくて、車とかがひっくり返されんばかりの勢いで。「そんなに野球好きじゃない」と言っていた人までもう大騒ぎで。それくらいからです。

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