
作家の読書道 第226回:酉島伝法さん
2011年に「皆勤の徒」で第2回創元SF短編賞を受賞、造語を駆使した文章と自筆のイラストで作り上げた異形の世界観で読者を圧倒した酉島伝法さん。2013年に作品集『皆勤の徒』、2019年に第一長編『宿借りの星』で日本SF大賞を受賞した酉島さんは、もともとイラストレーター&デザイナー。幼い頃からの読書生活、そして小説を書き始めたきっかけとは? リモートでお話をおうかがいしました。
その3「伝奇小説を読む」 (3/8)
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- 『吸血鬼ハンター1 吸血鬼ハンター“D”』
- 菊地秀行,天野喜孝
- 朝日新聞出版
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- 『家畜人ヤプー(1) 宇宙帝国への招待編 (石ノ森章太郎デジタル大全)』
- 沼正三,石ノ森章太郎
- 講談社
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――さて、中学生以降はどんな読書生活を?
酉島:中学校の頃は、菊地秀行とか、夢枕獏あたりの伝奇小説ばかり読んでましたね。最初に読んだ菊地秀行は『風の名はアムネジア』でした。ロードノベル風のポストアポカリプスもので、感化されて似たような小説を書いたりも。『吸血鬼(バンパイア)ハンターD』とか「エイリアン」シリーズにもはまりました。菊地秀行の発想って、もう、なんでしょうね。『エイリアン魔界航路』にはノアの方舟が出てくるんですが、どうして今まで人類に見つからなかったのかという説明が「あまりに巨大すぎて見えなかった」という。『エイリアン妖山記』では、トレジャーハンターの八頭大が山に登って、洞窟の奥に石板みたいな宝を発見するんですが、いざ山を下りようとするといろんな罠に阻まれる。やっとのことで麓まで下りたと思ったら、そこが迫り上がって山の上になってしまうんですね。石板を持ってる限り山から出られないという。そういうぶっ飛んだ奇想が好きでした。で、中学の終わり頃かな、『家畜人ヤプー』の漫画版を、たまたま書店かどこかで立ち読みしたんです。
――沼正三の小説が原作の。
酉島:そうです。石ノ森章太郎がこんな漫画を、と驚いたんですが、そのあと、中学の終わりか高校に入った頃に、文庫版で原作を見つけて、読みはじめるなり仰天しました。エロティックであったりマゾヒスティックである部分よりも、言葉だけで現実認識を変えてしまう方法論に衝撃を受けたんですね。日本人は遺伝的に家畜とされていて、いろんな種類のヤプーに改造されるんですが、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ......とそれぞれ開発番号があって、シータ、イオタときてカッパは河童なんですよ。馬鹿馬鹿しいけれど妙な説得力があるじゃないですか。雪隠の由来が英語の「セット・イン」だとか、1個だけならただのギャグだけど、そういうものを大量にちりばめることで、我々には異常に見えつつも、その社会の住人には当たり前の世界が徹底的に作り込まれていて驚愕させられます。脳に焼き付きすぎたのか、ほとんど読み返してないんですが。
――あ、好きな本は本来は何度も読み返すほうですか。
酉島:わりと読み返しますね。気づいたらアントニオ・タブッキの『供述によるとペレイラは......』を読んでいて、レモネードの飲み過ぎを心配してしまう。あの本はすごく好きなんです。ポール・オースターの 『孤独の発明』とか、W・G・ゼーバルトの『アウステルリッツ』あたりも。『アウステルリッツ』は建築史家から聞いた話という体で時間と空間が多重的に構成されていて、間接話法を過剰に使った語り口がすごくいいんですが、そのせいか読んだ後に輪郭がつかめなくてすぐに読み返したくなるんですね。
日本の作家だと、「新青年」系というか、夢野久作や小栗虫太郎、久生十蘭あたりはたまに字面を見たくなります。あとは安部公房とか。