
作家の読書道 第237回:小田雅久仁さん
2009年に『増大派に告ぐ』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞、2012年に刊行した『本にだって雄と雌があります』が本好きたちの間で圧倒的な支持を受け、昨年、久々の新作作品集『残月記』を刊行して話題を集める小田雅久仁さん。幼い頃から国内外のさまざまな作品を読み、時に深く考察してきた小田さんの読書遍歴とは。気になるタイトルがたくさん出てきます!
その2「ファンタジーを愛読」 (2/6)
――小田さんは以前から、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』のような話が好きだとおっしゃっていますよね。いつ頃読まれたのでしょうか。
小田:『はてしない物語』は小学生の時に読みましたし、映画も観ました。最初に読んだ時は、現実と物語の世界を行ったり来たりするイメージがすごく強くて、小説を書き始めた時に自分もそれをやりたいと思わせてくれた作品です。ただ、ある程度大きくなってから読み返した時、後半に話ががらっと変わってからは子供の頃に思っていたものとちょっと違うと感じたんです。でもファンタジーの王道的なアイデアをこれで知ったのは確かです。C・S・ルイスの『ナルニア国物語』を読んだのも小学校高学年の時やったかな。ル・グィンの『ゲド戦記』を読んだのは高校になってからかなあ...。あれは2作目は面白かったけれど、みんながあそこまで騒ぐほどの小説とは思いませんでした。
トールキンは『ホビットの冒険』を小学生のうちに読んで、中学生に入ってから『指輪物語』を「長いな」と思いながら読破しました。他に中学生に入ってから読んでいたのは、田中芳樹さんの『アルスラーン戦記』とか。天野喜孝さんの挿絵が好きでした。
――大長編が好きだったんでしょうか。
小田:僕が中高生の頃は『アルスラーン戦記』はまだ7冊くらいしか出ていなかったんです。僕は読み手としても書き手としても、飽きっぽいんです。栗本薫さんの『グイン・サーガ』も最初は読んでいたんですが、中学生の頃にすでに20巻以上出ていたんですよね。高校生になっても読んでいましたが、ある時、「長いわ!」と思って止めてしまいました。結局、あれは外伝も合わせて百何十巻もありますよね。すごいなと思います。あれだけひとつの話を書き続けることができる栗本薫さんの体力も執念もすごいし、書く速さもすごい。僕にないものを全部持っていらっしゃると思います。
他には藤川桂介『宇宙皇子(うつのみこ)』、新井素子『......絶句』、『グリーン・レクイエム』、『緑幻想』なんかを憶えています。
――中学時代、漫画は何を読みましたか。
小田:『キン肉マン』、『北斗の拳』、『ハイスクール!奇面組』、『ついでにとんちんかん』、『BASTARD!!』......。『ジョジョの奇妙な冒険』は連載が始まった頃からリアルタイムで読んでいました。漫画は姉から借りることも多かったです。大島弓子の『綿の国星』とか、成田美名子の『CIPHER』と『ALEXANDRITE』とか。吉田秋生の『BANANA FISH』はもうちょっと大人になってから読んだのかな。『風の谷のナウシカ』も漫画で読みましたし、『AKIRA』は高校の時に映画を観に行って、最後の「僕は鉄雄」が強烈に印象に残って「なにこの終わり方」と思って漫画を読みました。すごかったです。
あとは、『ファイブスター物語』、『MASTERキートン』、『MONSTER』、『YAWARA』、『ザ・ワールド・イズ・マイン』......。『ベルセルク』も好きでずっと読んでいたんですが、作者の三浦建太郎さんが亡くなってしまって残念です。それと、木城ゆきとさんの『銃夢(ガンム)』というSFバトル漫画が好きでしたね。
――昔からバトルものは好きでしたか。小田さんの新刊作品集『残月記』の表題作が剣闘士が出てくる話なので、どうだったのかな、と。
小田:好きだったんでしょうね。『キン肉マン』と『北斗の拳』で育ってますから。今はどうか分かりませんが、当時の漫画って連載が続くうちにバトルものになるんですよ。『キン肉マン』も最初はギャグ漫画だったのがだんだんプロレスものになって人気が回復したし、『ドラゴンボール』も最初は冒険ものだったけれど途中から天下一武道会の話になるし。結局、読者もみんなバトル大好きなんやなっていう。
――高校時代、他によく読んだ作家はいますか。
小田:男子校やったんですけれど、部活もせずにいろいろ読んでいたと思います。ひときわ憶えているのが村上龍『トパーズ』。内容を知らずに図書館で借りたらエログロで「とんでもねえ」と思って、隠れるようにして読んでいました。あれはショックでした。その後で『コインロッカー・ベイビーズ』も読んだんです。その時はぜんぜん気づいていませんでしたが、後から調べてみたらあれは1980年、村上さんが28歳の時に出した本なんですよね。天才やん、と思いますね。『愛と幻想のファシズム』はその頃の自分には難しかったのでもう一回読み返したいです。村上春樹さんの作品も読みました。『羊をめぐる冒険』とか『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』とか。椎名誠さんの『アド・バード』も憶えていますね。
その頃読んだもので自分にとって一番重要やなと思うのが、第1回日本ファンタジーノベル大賞の大賞を獲った酒見賢一さんの『後宮小説』です。アニメ化されてテレビで放送されていて、それも面白かったです。こんなオリエンタルなファンタジーもあるんやと思って目からウロコでした。そこから日本ファンタジーノベル大賞受賞作は読むようになりましたし、後に自分がこの賞からデビューしたのも『後宮小説』との出会いがあったからだと思います。第3回の大賞受賞作が佐藤亜紀さんの『バルタザールの遍歴』で、これもすごく面白くて。ファンタジーってなんでもありやなと思わせてくれたというか。僕が受賞した『増大派に告ぐ』は厳密にいうとファンタジーではないと思うんですけれど、そうしたものを読んでいたから、ちょっとでもファンタジー的な要素があれば受け入れてもらえると思えたんです。
ミステリを読み始めたのも高校の時ですね。島田荘司さんの『占星術殺人事件』など御手洗シリーズを読みました。遠藤周作の『悪霊の午後』もサスペンスとして読んだ記憶があります。他には、夢枕獏『上弦の月を喰べる獅子』とか。
――映画で印象に残っているものは。
小田:高校の時か大学の時か忘れましたが、東京に来た時に暇つぶしで、高田馬場の映画館で『蠅の王』を観て、愕然としたことをいまだに憶えています。原作は大学の時に読みました。その頃からあんまりハッピーエンドで終わる話とかに興味がなかったのかもしれません。自分が小説を書く上でも最後に愕然とする終わり方が好きなんですが、その頃からそういうのが好きやったのかなあと思います。ハッピーエンドのものも読んでいて楽しいけれど、記憶から流れていってしまうんです。愕然とするもののほうが、棘みたいなものが残るんでしょうね。小説でも映画でも。
――映画でも小説でも、そういうエンディングで忘れられないものといえば?
小田:小説だとなんやろう。社会人になってから読んだジョージ・オーウェルの『1984年』かもしれませんね。映画では、スティーヴン・キングの短篇「霧」が原作の「ミスト」はもう、最後に愕然としましたね。ああいうことを自分でもやりたいなという気持ちがあります。それと、「ディセント」という映画があるんです。数人の女性が洞窟の中に入ってしまって、地底人と血みどろの大バトルを繰り広げるという。あれは本当にひどい終わり方で......。
――怖い話は好きですか。
小田:好きなんでしょうね。緊張感のある話が好きなので。映画は怖いなと思って観るんですが、小説のホラーは怖くないんです。キングとかを読んでも怖がらずに普通に面白いなと思って読みます。だから自分で怖い話を書いていても、全然怖くないんですよ。まあ、自分で怖がりながら書く人はいないでしょうけれど。だから、読んだ人から「怖かった」と言われると意外なんです。臨場感というものがほしいから、なるべく肌身に迫るような感じで書こうとはしています。自分が作品世界から振り落とされないように、言葉を費やして書いたものが、たまたま読んでいる人にとって怖かったんだろうなという感じです。
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