
作家の読書道 第242回:藤野千夜さん
1995年に「午後の時間割」で海燕新人文学賞を受賞してデビューして以降、現代人の日常の光景と心情を細やかに、時にユーモラスに描いて魅了してくれている藤野千夜さん。元漫画編集者でもある藤野さんの読書遍歴とは? お話の流れで最近の話題作『じい散歩』や『団地のふたり』の意外なモデルも判明して…。飛び入り参加(?)ありの楽しいインタビュー、リモートでおうかがいしました。
その1「繰り返し読むのが好きだった」 (1/6)
――いちばん古い読書の記憶を教えてください。
藤野:最初はたしか、保育園で読み聞かせてもらった『いやいやえん』だったと思います。面白かった記憶があるのは岩波書店の絵本シリーズの『ひとまねこざる』や『ちびくろ・さんぼ』とか。それと、親が読み聞かせてくれた『幸福な王子』がすごく好きでした。本で泣いたのはこれが最初だったのかな。繰り返し何度も読んでもらいました。
――本が好きな子供でしたか。
藤野:同じ本を繰り返し読むタイプで、気に入った本があるとそれをずっと読んで、旅行にも持っていっていました。そのなかでひとつ憶えているのは、『目をさませトラゴロウ』。童話なんですけれど(と、画面越しに本を見せる)。
――ああ、今でもお持ちなんですね。
藤野:持っているのには理由があるんです。小さい頃、親戚の家に行く時にこの本を持っていったら、同い年の従妹に「貸して」と言われ、置いて帰ったらその後返ってこなかったんです。作家になって理論社の方とお仕事をした時にその話をしたら、「うちで出した本です」と言って1冊くれたんです。読み返してみたら、ぐうたらしたトラが食べ物のことばかり考えている内容で、とても皮肉で面白かったんですが、小さい頃になぜそこまで好きだったのかという(笑)。
――従妹さんとは仲がよかったんですか。ご兄弟は。
藤野:兄と弟がいますが本の話はしたことがなくて。従妹は近くに住んでいるわけではなかったんですが、私が本を読むのにつきあってくれたんです。今でもおばさんに、二人で静かにしていると思って見に行ったら本を読んでいた、と言われます。
――藤野さんはプロフィールに福岡県生まれとありますよね。中学校は東京だそうですが、いつ引っ越されたのですか。
藤野:福岡で生まれて、3、4歳で横浜の団地に越しました。そこに住んでいたのは10歳くらいまででしたが、その後はほぼ横浜で、あとはちょっと千葉に住んだことがあったくらいです。
――団地に住んでいらしたんですね。藤野さんの最新作の『団地のふたり』は生まれ育った団地に暮らす50歳の親友同士の話ですが、その頃の団地暮らしがヒントになったのかな、と。
藤野:何年か前に短篇を書く際に「あそこはどうなったのかな」と思って見に行ったら、案外そのままで気になっていたんです。
――小学生になってからの読書はいかがですか。
藤野:小説で読んだのは、オークシイの『紅はこべ』とか。『雨月物語』がすごく好きで、自由研究であらすじと感想文を発表したこともありました。「菊花の約(ちぎり)」なんかが好きでした。怪奇っぽいものが好きだったんだと思います。
――のちに漫画雑誌の編集者となられますが、その頃から漫画は好きでしたか。
藤野:漫画はよく読んでいました。家族で何日間か旅行に行くとなると日数分の漫画を持っていくうえに旅先でも買うので、すごく嫌がられていました(笑)。歯医者さんや耳鼻科によく行く子供で、待合室で読む漫画がとっても好きでした。待合室の一角に楳図かずおさんや日野日出志さんの漫画があって、そこに近寄れないくらい怖かったのに、それでも読みました。楳図さんは『半魚人』や『赤んぼ少女』とか。『漂流教室』も熱中して読みました。『おろち』を読んでいたら、子供が肉団子を食べていたら毛が入っていたから人肉じゃないかと疑う場面があって、それからは肉団子を食べるたびにそのことを思い出しました。日野日出志さんはもっと上をいく怖さでしたね。
楳図さんは『半魚人』や『ねがい』も何度も読みました。『ねがい』は、子供が木の切れ端で作った人形にモクメと名付けて友達にするんですが、人間の友達が出来たら邪魔になって捨ててしまうんです。そうするとモクメが夜中に戻ってくるという。どちらの漫画も泣きながら読んだんですけれど、どちらかというと半魚人やモクメの気持ちに近かったんじゃないかなと思います。
「週刊セブンティーン」に載っていた津雲むつみさんや武田京子さんの少女漫画も好きでした。小学校の図書室には『ベルサイユのばら』と『男一匹ガキ大将』が全巻揃っていたので、どちらも読みました。当時は学校で誰かしらが「少年ジャンプ」を読んでいたので貸し借りしていました。『はだしのゲン』などが連載されていた頃ですね。
「りぼん」は土田よしこさんの『きみどりみどろあおみどろ』をよく読んでいました。これはうちから持ってきたのかな...(と、漫画雑誌を取り上げる)。
――「別冊少女コミック」。めちゃめちゃきれいな状態でお持ちですね。
藤野:これは中学生くらいの時ですね。他には小学生か中学生くらいから大島弓子さんが大好きになって、ずっと読んでいます。岩館真理子さんと高橋亮子さん、くらもちふさこさんも。
――それぞれでお好きな作品は。
藤野:大島さんは『いちご物語』とか『バナナブレッドのプディング』とか。岩館さんは、『初恋時代』とか『森子物語』......『アリスにお願い』とか、後半の作品も好きです。高橋さんは『つらいぜ!ボクちゃん』。私は『おしゃべり怪談』という作品で野間文芸新人賞をいただいたんですけれど、あれはもちろん、くらもちさんの『おしゃべり階段』のもじりでした。
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