第242回:藤野千夜さん

作家の読書道 第242回:藤野千夜さん

1995年に「午後の時間割」で海燕新人文学賞を受賞してデビューして以降、現代人の日常の光景と心情を細やかに、時にユーモラスに描いて魅了してくれている藤野千夜さん。元漫画編集者でもある藤野さんの読書遍歴とは? お話の流れで最近の話題作『じい散歩』や『団地のふたり』の意外なモデルも判明して…。飛び入り参加(?)ありの楽しいインタビュー、リモートでおうかがいしました。

その6「最近作のモデルは...」 (6/6)

  • おしゃべり怪談 (講談社文庫)
  • 『おしゃべり怪談 (講談社文庫)』
    藤野千夜
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――これまでにさまざまな主人公を描かれてきましたが、最近の『じい散歩』と『団地のふたり』では主人公たちの年齢が高くなりましたね。『じい散歩』の主人公は明石新平、89歳、日課は散歩。妻に認知症の兆しが見えたり3人の子供たちはみな独身で、長男は引き籠っているなど問題山積ですが筆致はユーモラス。『団地のふたり』は実家の団地に暮らす50歳の友人同士の女性2人の日常が実に丁寧に楽しく描かれます。

藤野:『じい散歩』の高齢のご夫婦は、実はアダっちのご両親で、結婚していない息子3人はうちの話という、実はハイブリッドです(笑)。今、『じい散歩 妻の反乱』という続篇を書いていて、夫婦がさらに年を重ねてじいさんも我がままになっているけれど介護を一所懸命やっています。

――『じい散歩』、続篇があるんですね! 『団地のふたり』も幼馴染みの奈津子とノエチの関係がとっても楽しくて微笑ましくて、ぜひ続篇を読みたいです。

藤野:『団地のふたり』を書く頃は嫌な出来事が重なっていたので、どんな感じなら楽しく暮らせるかなと考えたんです。のんびりできる場所があって、仲のいい友達がいたらいいかな、と思って。締切ギリギリで大変でしたけれど楽しく書けた話です。

――もしかして、奈津子とノエチって、藤野さんとアダっちさんがモデルですか。

藤野:あれは完全に、この部屋で書きましたし...。

――えっ(笑)。

アダっち:毎日人んちにいるんですよー(笑)。

藤野:書いている間、「一回こたつから出ろ」と言われていた気がします。

アダっち:動かないんだもん。

藤野:小説に書いたように釣り堀にも行きましたし、メルカリで売った品物も値段もそのまんまだし。売れたら何か買って食べていたのも、断捨離の番組を見て悪口言ったのもそのままです。
 だから、書いている時はこんなの誰が読みたいんだろうって言っていたんです。「ちゃんと働け」って言われて終わりじゃないかって。でも第一話を書いて編集者に送ったら思いのほか喜んでもらえたので。

――おふたりがモデルってことは、いくらでも続篇が書けますね(笑)。ただ、藤野さんとアダっちさんは幼馴染みではなくて、『編集ども集まれ!』でも書かれているように、社会人になってからのお知り合いですよね。

藤野:そうです。そんなつもりはなかったんですが、思った以上にそのまんまを書いたので、創作した部分もそのままだと思われそうです。よくあることなんですけれど。

――以前、『おしゃべり怪談』でも「そのまんま」と言われたとおっしゃっていましたね。

藤野:あれは雀荘に行った女4人が男に包丁を突き付けられて延々と麻雀を続けることになる話で完全に創作なのに、「そのまんまだね」って言われるんです。包丁を持った男なんていなかったのに(笑)。

――さきほど「動かない」とのことでしたが(笑)、一日のルーティンってどんな感じですか。

藤野:書いている時はずっと書いていて、書かない時は全然書かないんです。わりと根詰めちゃうほうで、休むという方法がわからないんです。小説に取り掛かっても最初の3時間くらいは何もできず同じ1行を直し続けてしまうので、進み出したら書き切っちゃわないと終わらないタイプです。5時間書いたら休みましょう、ということができないんです。

――では、執筆期間中は読書もできない感じですか。

藤野:書いている時は全然読まないか、逆に自分の文章のリズムを壊したくなる時に読むか、ですね。書いていない時は一日中読んでいたりします。あとはU-NEXTで見逃した映画を観たりして。

――って、一日中そこから動かないじゃないですか(笑)。

アダっち:動かないんです! エコノミークラス症候群になるんじゃないかってくらい。

藤野:そんなことないって。まあ、家で原稿書く時もずっとベッドの中だけど。

――ベッド? どんな姿勢で書くんですか?

藤野:ラッコみたいな姿勢です。もう10年くらいそれですね。疲れるとたまに机に向かいます。腹ばいで書いていた時期もあったんですけれど、あれは結構疲れますね。

――肩や首が凝りそう。それに確実に運動不足なのが心配です。

藤野:『じい散歩』の続篇を書くために、一応散歩はしているので。

――他に今後のご予定は。

藤野:JAの出版部門の家の光協会が出しているお子さん向けの雑誌「ちゃぐりん」で、「おにぎりミミカ物語」を連載しています。ミミカが「裸の大将」みたいに全国各地で美味しいものを食べるので、楽しく書いています。あと、こちらも児童向けなんですが、理論社の方に書き下ろしの原稿をちょっとずつ読んでいただいています。

(了)