作家の読書道 第247回:高瀬隼子さん

2019年に『犬のかたちをしているもの』で第43回すばる文学賞を受賞してデビュー、今年、3作目の『おいしいごはんが食べられますように』で第167回芥川賞を受賞した高瀬隼子さん。現代が抱える違和感や悩みを丁寧に描いて支持を得る高瀬さんの読書遍歴、作家になるまでの経緯とは? 貴重な私物の本もたくさん持参してお話してくださいました。

その1「少女小説に夢中だった」 (1/6)

  • 楽園の魔女たち ~賢者からの手紙~ (集英社コバルト文庫)
  • 『楽園の魔女たち ~賢者からの手紙~ (集英社コバルト文庫)』
    樹川さとみ,むっちりむうにい
    集英社
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  • 【復刻版】なんて素敵にジャパネスク (コバルト文庫)
  • 『【復刻版】なんて素敵にジャパネスク (コバルト文庫)』
    氷室 冴子
    集英社
    704円(税込)
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  • 海がきこえる 〈新装版〉 (徳間文庫)
  • 『海がきこえる 〈新装版〉 (徳間文庫)』
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  • 翼をください
  • 『翼をください』
    橘 もも
    PHP研究所
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――いちばん古い読書の記憶を教えてください。

高瀬:小さい頃、寝る前に父母が絵本を読んでくれた記憶はうっすらあるんですけれど、あまり憶えていなくて。それよりは、自分で読めるようになってからの読書が楽しかった記憶があります。幼稚園の頃、近所のおじいさんの硬筆の教室に通い始めて、自力でひらがなが読めるようになり、本も自分で読むようになったんです。
 それで憶えているのはピノキオの絵本です。たぶんディズニーのアニメの絵の本で、すごく好きでした。ピノキオの映画も好きでした。嘘をついて鼻がのびちゃったり、おじいさんと離れてロバになったりクジラに呑み込まれたり、ハラハラドキドキした感じが好きでした。

――硬筆の教室って、ボールペン字みたいなものですか。

高瀬:そうです。おじいさんが自宅で焼き芋を焼きながら小さい子には硬筆、中高生には毛筆を教えてくれていました。私も高校生くらいまで毛筆を習っていました。

――ご出身は。どんな環境で育ったのかな、と。

高瀬:愛媛県の新居浜市の出身です。私が中学生の時に大きなイオンモールができたんですけれど、小学生の頃はなにもなくて。小さい頃から本は好きだったんですけれど、本屋さんも、今は建て直して大きくなったんですが当時は小さくて、CDと文房具と漫画と雑誌と映画化した本の棚はあるけれど、小説の単行本や文庫の棚は少ししかなかったです。そいう環境だったこともあって、川や海や山でよく遊んでいました。犬を飼っていたので、小学校から帰って犬の散歩のついで...というか、私が犬に散歩されるような形で(笑)、川に行って遊んで日が暮れたら帰って、本を読んでいた記憶があります。
 テレビはあまり見ませんでした。親に禁止されていたわけではなくて弟はよく見ていたんですが、私はあまりテレビが好きじゃなかったんです。

――小学校に入ってからは、その町の小さな本屋さんか、学校の図書室で読む本を見つけていたのでしょうか。

高瀬:学校の図書室もそこまで充実はしていませんでした。でもシャーロック・ホームズのシリーズがあったので、高学年の頃にそれを1冊ずつ読みました。絵もあまりなくて文字も小さめで格好よかったので、大人向けのシリーズだったと思います。
 近所に年上の幼馴染みの女の子がいて、その子とよく本の貸し借りをしていました。いつも、お互いに相手の本棚から勝手に本を取って帰っていました。

――本の趣味が合ったのでしょうか。

高瀬:当時は講談社のX文庫ティーンズハートと集英社のコバルト文庫をたくさん読んでいたんです。その子も少女小説が好きだったんですが、好きなジャンルはちょっと違ったので、お互いの本棚が被らないのがよかったです。
 私はファンタジーでは、魔女が出てきたり、精霊使いになったり、ドラゴンを倒す話が好きで、コバルト文庫を舐めるように読んでいました。樹川さとみさんの『楽園の魔女たち』のシリーズがすごく好きです(と、本を取り出す)。

――今日、私物の本をたくさん持ってきてくださったんですよね。ありがとうございます。それにしてもものすごく保存状態がいいですね。

高瀬:でもたいぶ紙が茶色くなっていますよね...。あまり手元に残っていないけれど、その頃はコバルト文庫とX文庫ティーンズハートだけですごい量を持っていたんです。100冊以上はあったと思います。お小遣いの範囲内で、古本屋さんなどで買っていました。コバルト文庫では他に、氷室冴子さんの『なんて素敵にジャパネスク』のシリーズや『海がきこえる』、水社明珠さんの『ヴィシュバ・ノール変異譚』のシリーズや、日向章一郎さん「星座」シリーズ、「放課後」シリーズも大好きでした。友達は金蓮花さんのファンタジーが好きだと言っていました。
 ティーンズハートは、ファンタジーというより現代日本を舞台にした小説が多くて、私は折原みとさんが大好きでした。少女漫画の恋愛より、少女小説で描かれる恋愛のほうがぐっときていました。
 そうしたなかで、ティーンズハートから出た橘ももさんの『翼をください』を読みまして...。いま、ライターもされている方なんですけれど。

――あ、漢字が違いますが、もしかしてライターの立花ももさんですか。よく作家インタビューなどのクレジットでお名前をお見かけします。

高瀬:そう、同一人物なんですよ。一度ご取材いただいたんです。お名刺をいただいても立花さんと橘さんが結びつかなくて、家に帰ってから「え、橘ももさんじゃん!」と気づいて「あああああ!」となって、本好きの幼馴染みに「橘ももに会った!」って連絡したら「マジで?」って返事がきました。
『翼をください』は、橘さんが15歳の時に書いたデビュー作なんですよ。刊行された時に私は小学生だったんですが、自分とそんなに年齢が変わらない女の子が小説家になったと知って、めちゃくちゃびっくりして「すごいすごいすごい」となって、憧れていて...。

――第7回ティーンズハート大賞の佳作に入選してデビューされたんですね。確かにすごいですね。

高瀬:しかも今、ライターをされながら小説の執筆も続けてらっしゃるんです。めちゃくちゃ活動時期長くて、それもすごく格好いいなと思っていて。そんな方と作家になって3年目で直接お会いできるなんて、なんという世界線だろう、って。

――『翼をください』を読んだ頃、高瀬さんはすでに小説家になりたいと思っていたのですか。

高瀬:小学生の頃から、ずっと物語を書く人になりたいと思っていました。その時々に読んでいるものに影響されて書きたいものも変わるので、当時は、自分はティーンズハートかコバルト文庫で小説家になるんだと夢見ていました。でも応募するためには原稿用紙300枚近く書かなくてはいけなくて、そんなには書けず、応募はできませんでした。小学生の頃は原稿用紙30枚以内の子供向けの童話コンクールに応募しては落選していました。

――物語を空想するのが好きだったのでしょうか、文章を書くのが好きだったのでしょうか。

高瀬:書くほうが好きでした。ノートとか手帳とかプリントの裏側に物語っぽい書き出しを書いたり、今こんなことが起きたらどうなるかなってことを書いたり。頭の中で組み立てるというよりも、書きながらどうしようと考えていました。テストの最中、テスト用紙の裏に、今私がこの用紙をビリビリに破いて叫んだら先生はどんな反応をするだろう、とか、いま大地震が起きたらどうしよう、とか、夏なのに雪が降ってきたらどうだろう、とか書いたりして。目に入ったもの、身近なものから想像を膨らませていました。

――学校の作文などは好きでしたか。

高瀬:自分では楽しく書いているんですが、入賞などは全然しませんでした。読書感想文のコンクールも他の子が入賞していました。水道局が主催するような、地域の水を綺麗にしましょう、みたいな物語のコンクールにも一生懸命書きましたが落選しました。
 国語の授業も大好きだったんですけれど、そんなに評価には繋がっていなかったです。算数や理科よりは国語の点は良かったんですけれど。

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