第247回:高瀬隼子さん

作家の読書道 第247回:高瀬隼子さん

2019年に『犬のかたちをしているもの』で第43回すばる文学賞を受賞してデビュー、今年、3作目の『おいしいごはんが食べられますように』で第167回芥川賞を受賞した高瀬隼子さん。現代が抱える違和感や悩みを丁寧に描いて支持を得る高瀬さんの読書遍歴、作家になるまでの経緯とは? 貴重な私物の本もたくさん持参してお話してくださいました。

その5「社会人になってからの執筆と読書」 (5/6)

  • 温泉妖精 (集英社文芸単行本)
  • 『温泉妖精 (集英社文芸単行本)』
    黒名ひろみ
    集英社
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  • 静かに、ねぇ、静かに (講談社文庫)
  • 『静かに、ねぇ、静かに (講談社文庫)』
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    講談社
    649円(税込)
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――卒業後は、就職しつつ小説の応募を続けていったわけですか。

高瀬:はい。就職して、そのタイミングで東京に来ました。投稿は年1回頑張ろうと決めて、3月締切の新人賞に応募していました。それなら働きながらも出すことができました。
 私はデビューが31歳の時だったんですけれど、20代後半くらいまでは傾向と対策を考えずに、1年かけて書いて、3月までに出来上がったら「すばる」とか「新潮」とか「文藝」とかの新人賞に送る、という感じでした。「文學界」も何回か出したかな。「群像」の新人賞は秋が締切なので出さなかったんです。島本理生さんの出身の賞で、ずっと心にはあったのに。
 それ以外に、短篇の賞に出したこともあります。林芙美子文学賞とか。地元である愛媛の坊っちゃん文学賞も今はショートショートの賞ですが、昔は中長篇を募集していたので、先ほど言いましたように登山の話を書いて出したりしていました。太宰治賞も原稿用紙50枚から応募できたので出したことがありました。全部落ちていましたが。
 登山の話は青春小説ですが、他は純文学と思われるものを書いていました。ただ、賞に応募するつもりもなく、書きたくて書いて同人誌に載せたものには、SFっぽいものもありました。二日酔いになるほどお酒を飲んだらタイムリープできるという話で、タイトルは「しらふではいられない」っていう(笑)。そうしたエンタメっぽいものは、書いたら気がすむというか。今でもずっと書きたくなるのはたぶん純文学です。「たぶん」とつけてしまうのは、純文学とは何なのかよく分かっていないからですけれど。

――社会人になってからの読書生活は、新人賞を意識しての読書でしたか、それとも趣味の読書でしたか。

高瀬:ずっとずっと趣味の読書です。新人賞の受賞作も読みましたが、それも勉強するぞ、というよりは、「さあ今年も出ました新人賞」みたいなお祭り気分で、本当にただの読者として楽しみに読んでいました。
 私はすばる文学賞を第43回の時に受賞したんですが、4回前の第39回の受賞作が黒名ひろみさんの『温泉妖精』で、これも出た時にお祭り気分で読んで「めっちゃ面白い、めっちゃ面白い!」となって、それがきっかけですばる文学賞に応募することが多くなったんです。

――『温泉妖精』の本もお持ちくださったんですね。帯の惹句が「美容整形を繰り返す27歳の女。無職クレーマーの中年男。温泉宿で出会ったふたりを待つ、驚きの入浴体験!」......って、なんだろう面白そう。

高瀬:美容整形でアメリカ人っぽい顔にしてカラーコンタクトを入れて、外国人のふりをして温泉宿に泊まるのが趣味の女性がいるんです。彼女は温泉マイスターのゲルググのファンで、ゲルググがブログで紹介している宿に行ったら......という話です。すごく面白いんです。でも2作目を出されてなくて、この作品だけなんです。

――他に、好きだった作家や作品は。

高瀬:村田沙耶香さんは、『地球星人』も『生命式』も好きだし、こないだ『信仰』を読んで「めちゃくちゃ面白い!」となりました。本谷有希子さんは、社会人になった頃に『ぬるい毒』を読んで「やばい」と思い、『静かに、ねぇ、静かに』も大好きで。今村夏子さんはデビュー作の『こちらあみ子』の頃から大好きです。今年出た『とんこつQ&A』も最高でした。それと、大好きなのが宇佐見りんさん。宇佐見さんと遠野遥さんと私は同じ時期にデビューして、おふたりともあっという間に遠いところに行ってしまって、私はただのファンとして好きです。『推し、燃ゆ』も好きですし、『くるまの娘』は本当にもう最高です。エンタメだと、澤村伊智さんのホラー小説が好きです。

――澤村伊智さんといいますと、『ぼぎわんが、来る』から始まる比嘉姉妹シリーズとか?

高瀬:そうですそうです! 今度新刊が出ますよね?

――出ますよね! 比嘉姉妹シリーズの長篇『ばくうどの悪夢』。このインタビュー記事がアップされる時にはもう刊行されてます。

高瀬:シリーズ全部、大好きです。ノンシリーズの短篇集も好きで、『ひとんち』とか『ファミリーランド』とかめちゃくちゃ面白くて。澤村さんは、森博嗣作品にハマっていた時と同じ感じです。新刊情報が出たらスクリーンショットを撮って、発売日に書店に行って買っています。
 それと、小川哲さんの『ゲームの王国』が大好きで。フィクションだけれどもノンフィクションみたいで、"ノンフィクションフィクション"のような気持ち。上下巻ですけれど、自分で4セットくらい買って人にあげていました。いま『地図と拳』を読んでいます。
 それと、古谷田奈月さんも大好きです。『神前酔狂宴』と、「無限の玄」が好きです。「無限の玄」は、お父さんの玄さんが死んでも死んでも戻ってくるんですよね。暗いし怖いし、なのに明るくて。自分の嫌な気持ちが刺激されるんでけれど、「嫌でしょう~~?」ではなくて、「ヤでしょ?」「ヤでしょ?」って、軽いジャブでやられている気持ちになります。めちゃくちゃ好きです。
 それと、2021年、コロナ禍で小野不由美さんの『十二国記』シリーズをはじめて読みました。今まで読んでいないなんてそんな馬鹿な、という感じですよね? まわりがみんな読んでいたのに、なぜか私は読んでこなくて、でもいつ本屋さんに行ってもあるじゃないですか。読まなきゃいけない時がきたと思って、とりあえず3冊くらい買って読んだら、もう、なんで私は中高生の時にこれを読んでいなかったんだろうと後悔しながら、でもその頃に読まなかったから今こうしてはじめて読めて幸せだと思いながら、結局一気に読みました。最高でした。やはり量があるので、読んでいる間自分の小説は全然書けなかったんですけれど、でもどうしても読みたくて、書かずに読んでいました。

――海外小説とか、ノンフィクションはいかがですか。

高瀬:韓国文学の翻訳が増えてありがたい、という気持ちです。ハン・ガンさんの『菜食主義者』とか、キム・グミさんの『あまりにも真昼の恋愛』とか。最初図書館で借りたんですけれども、面白過ぎると思って買いに行きました。
 小説以外では、社会人になってほんのり読み始めたのが武田砂鉄さん。『マチズモを削り取れ』は毎回、編集者のKさんが武田さんに今この社会にあるマチズモに関する檄文を送って、そこから武田さんが考察を重ねていく。Kさんは私の最初の担当者だったので、本屋さんで見つけた時に「あ、Kさんが言ってたやつだ」と思って買ったら、1行ごとに唸りをあげたくなる気持ちになり、一気に読み終えました。いろんな人に読んだほうがいいよと言いたくなって、今、家に2冊あります。

――気に入った本は人に配るという習慣なんですね。

高瀬:はい。それと、上野千鶴子さんと鈴木涼美さんの『往復書簡 限界から始まる』。櫻木みわさんに薦めていただいて、往復書簡のリズムにあわせて読んでみることにして半年くらいかけてゆっくりゆっくり、3、4ページずつ読んでいたんですが、最後のほうになるとやはり一気に読んでしまいました。ゆっくり読んだせいか、勝手に上野さんと鈴木さんと知っている気になりました(笑)。
 ノンフィクションは他に、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』とか、担当者さんに薦められた『中動態の世界』とか。なぜか打ち合わせの時に薦められたんです。

  • ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)
  • 『ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)』
    澤村伊智
    KADOKAWA
    748円(税込)
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  • ひとんち 澤村伊智短編集 (光文社文庫)
  • 『ひとんち 澤村伊智短編集 (光文社文庫)』
    澤村伊智
    光文社
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  • ファミリーランド (角川ホラー文庫)
  • 『ファミリーランド (角川ホラー文庫)』
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  • 『ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)』
    小川 哲
    早川書房
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  • 魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)
  • 『魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)』
    小野 不由美,山田 章博
    新潮社
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  • 菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)
  • 『菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)』
    ハン・ガン,川口恵子,きむ ふな
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    2,420円(税込)
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  • あまりにも真昼の恋愛 (韓国文学のオクリモノ)
  • 『あまりにも真昼の恋愛 (韓国文学のオクリモノ)』
    グミ, キム,すんみ
    晶文社
    1,980円(税込)
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  • 往復書簡 限界から始まる
  • 『往復書簡 限界から始まる』
    上野 千鶴子,鈴木 涼美
    幻冬舎
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  • ハイパーハードボイルドグルメリポート
  • 『ハイパーハードボイルドグルメリポート』
    上出遼平
    朝日新聞出版
    1,921円(税込)
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  • 中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)
  • 『中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)』
    國分功一郎
    医学書院
    2,200円(税込)
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