第254回: 一色さゆりさん

作家の読書道 第254回: 一色さゆりさん

2015年に『神の値段』で『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞し、以来、美術とエンタメを掛け合わせた作品を発表してきた一色さゆりさん。芸大を卒業し、ギャラリーに勤務していた彼女は、どのような本を読み、なぜ美術ミステリーでデビューすることになったのか? 絵本や国内外の小説はもちろん、アート関連書など一色さんならではのお気に入り本も教えてくださいました。

その4「東京で作家のイベントに行く」 (4/6)

  • 動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)
  • 『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)』
    東 浩紀
    講談社
    924円(税込)
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  • ゲーム的リアリズムの誕生~動物化するポストモダン2 (講談社現代新書)
  • 『ゲーム的リアリズムの誕生~動物化するポストモダン2 (講談社現代新書)』
    東 浩紀
    講談社
    1,100円(税込)
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――東京生活は楽しかったですか。

一色:やはり京都は観光地とはいえ地方都市なので、東京は情報が集まってくる量が違うと思いました。東京では今まで読んできた本の作者がトークショーをしているし、美術展にしても、京都には各地を巡ってやっとくる感じだったのに、東京ではいろんな大型展覧会が同時にやっている。それが嬉しくていろんなところに足を運んでいました。
 すごく憶えているのが、表参道の青山ブックセンターで平野啓一郎さんのトークショーがあったことです。聞きに行こうとエスカレーターに乗ったら、目の前に平野さんがいらっしゃったんですよ。もう、心の中で「きゃー!」みたいな(笑)。東京に行くと芸能人に会えるってよく言うけれど、本当だなって。平野さんは芸能人ではないですけれど、自分が今まで読んできた本の作者にリアルで会えるなんて。たしか『ドーン』を出された頃だったと思います。
 当時、東浩紀さんもよく読んでいました。今も東さんはいろいろイベントをなさっているけれど、当時からそうで。私は京都にいた頃から『動物化するポストモダン―オタクから見た日本社会』を読んでいて、東京に出てきた頃に『ゲーム的リアリズムの誕生』と出会って、これはすごいなと驚きました。というのも、兄とコミケに出店した経験や、その兄から摂取したサブカルや、自分が二次創作をしてきたことを言語化してくれたというか、批評してくれている文章だったからです。その頃は東さんのイベントには何度も行きました。たしか「今twitterやっている人いる?」みたいな質問をなさっていて、東さんは始めたばかりだと言っていました。それくらいの時期です。

――大学時代に小説は書いていましたか。

一色:書いていました。上京して、作家さんや出版社との距離が近くなった感覚があって、もしかすると自分もプレイヤーの一員になれるんじゃないか、という期待を抱くようになりました。それでちょっとやってみようかな、と。インプットするものがすごくたくさんあるからアウトプットしておこう、というような、ブログを書く時と似た動機でした。その流れで、実は、すばる文学賞で最終選考まで残ったことがあります。選考委員だった江國香織さんから「ビビットな作品だった」という選評をもらって、すごく嬉しかったです。そのときデビューできていたら、まったく違うタイプの作家になっていたかもしれません。

――ちょっと不思議なのが、一色さんはその後『このミステリーがすごい!』大賞からデビューされますが、あまりミステリー作品が挙がっていないような......。

一色:あ、読んではいるんですよ(笑)。中高生の頃は、それこそ『このミス』ご出身の海堂尊さんのファンでした。兄が話題の本として『チーム・バチスタの栄光』を教えてくれたのがきっかけだったと思います。作品同士に繫がりがある「桜宮サーガ」なので、他の作品もたくさん読みました。東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』や『流星の絆』も単行本が出た頃にリアルタイムで読んで、面白すぎてびっくりした記憶があります。ほかには松本清張なんかも読みましたし。
 ただ、私は本格ミステリーというよりは、ミステリーとエンタメ小説の中間にあるような作品が好きかもしれません。海堂さんの本も本格的な推理小説というよりは、エンタメに謎が絡んでいる印象がありますよね。私は、好きな作家といえば桐野夏生さんを最初に挙げるんですけれど、『OUT』や『柔らかな頬』も、サスペンスだけれどそれだけじゃない部分がある。
 それでいうと、純文学とエンタメの間にあるような作品に惹かれるのかもしれません。先に挙げた川上未映子さんや柴崎友香さんもそうですし、それと、吉田修一さんもほぼすべて読んできました。とくに『パレード』とか『東京湾景』が好きで、何回も読み返しました。『国宝』も圧倒されました。

  • 新装版 チーム・バチスタの栄光 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
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    海堂 尊
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  • 国宝 (上) 青春篇 (朝日文庫)
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    吉田 修一
    朝日新聞出版
    880円(税込)
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