作家の読書道 第257回: 井上真偽さん

本格ミステリ大賞の候補になった『その可能性はすでに考えた』、2度ドラマ化された『探偵が早すぎる』、現在話題の『ぎんなみ商店街の事件簿 Sister編』『同 Brother編』など、話題作を次々発表している覆面作家、井上真偽さん。ロジカルな世界観を構築するその源泉はどこに? 好きだった小説やデビューのきっかけなどたっぷりうかがいました。

その1「ゲームを考案する子供だった」 (1/6)

  • オバケちゃん ねこによろしく (オバケちゃんの本2)
  • 『オバケちゃん ねこによろしく (オバケちゃんの本2)』
    松谷 みよ子,いとう ひろし
    講談社
    1,320円(税込)
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  • 赤毛のアン 赤毛のアン・シリーズ 1 (新潮文庫)
  • 『赤毛のアン 赤毛のアン・シリーズ 1 (新潮文庫)』
    ルーシー・モード・モンゴメリ,Lucy Maud Montgomery,村岡 花子
    新潮社
    825円(税込)
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  • ドラえもん (1) (てんとう虫コミックス)
  • 『ドラえもん (1) (てんとう虫コミックス)』
    藤子・F・ 不二雄
    小学館
    499円(税込)
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  • 三国志 (1) (吉川英治歴史時代文庫 33)
  • 『三国志 (1) (吉川英治歴史時代文庫 33)』
    吉川 英治
    講談社
    880円(税込)
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  • 水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)
  • 『水滸伝 1 曙光の章 (集英社文庫 き 3-44)』
    北方 謙三
    集英社
    660円(税込)
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――いちばん古い読書の記憶を教えてください。

井上:絵本をよく読んでいました。具体的なタイトルはあまり憶えていないんですけれど、『ねむれないねむれない』という、眠れない犬が出てくる絵本が好きでした。それと、『おこりっぽいやま』という火山の絵本や、松谷みよ子さんの「オバケちゃん」シリーズも好きでした。『ねこによろしく』とか。オバケちゃんが、挨拶の最後に必ず「ねこによろしく」という話ですね。印象に残っているのはそのあたりです。

――そうした絵本は家にあったのでしょうか。それとも図書館で借りたりとか?

井上:家にあったものもあるし、図書館で読んだものもありました。親はそんなに読書家というわけではなかったんですが、家の本棚には世界全集みたいなものがありました。本棚を買ったから本を入れておこう、くらいの感覚だったと思います。家にあった本でいうと、アガサ・クリスティーとか『赤毛のアン』とか。それは母親の趣味でした。
 小さい頃にいちばん読んだのは『ドラえもん』です。幼稚園の頃に怪我をして入院したんですが、その時に父親の友達が「暇だろうから」といってどっさり持ってきてくれたんです。基本的な世界の知識は『ドラえもん』で知りました(笑)。地球は丸い、とか。

――小学校に上がってからの読書はいかがでしたか。

井上:小学生の頃はいつ本を読んでいたのかあまり記憶がないんです。学校の図書室もそれなりに使っていたと思うんですけれど...。どちらかというと外で遊んでいました。近くに防空壕のある山があって、そこで探検をしたり、自転車で出かけてサイコロを振って出た目の方向に行く遊びをしたり。崖みたいなところから下がっているツルを使ったターザンごっこという、リスキーな遊びもしていました。釣りもしたし、野山で遊ぶのが好きな子供でした。
 ああ、でも、本も読みました。親戚のおじさんが本をいっぱい持っていたんです。おじさんに古書店をやっている知り合いがいたらしく、「売上がないから買ってきてあげた」と言っていて。本好きな人が見たら怒るんじゃないかと思うくらい雑な感じで押し入れに本が積みあがっていました。おじさんの家に行くたびにそこから適当に本を選んでごっそり持って帰っていました。

――それで読んだ本で印象に残っているのは。

井上:『三国志』です。子供向けの本ではなく、大人でも読みづらいんじゃないかと思うような、電話帳くらいの大判の本でした。読みだしたら面白くて。その流れで『水滸伝』も読みました。

――何がどこまで面白かったのでしょうか。キャラクターとか?

井上:キャラクターと活劇ですね。次はどんな豪傑が出てくるんだとワクワクしましたし、めちゃくちゃなエピソードもたくさんあって。
漫画も好きで、「ジャンプ」っ子でした。中学の時は毎週誰かしらが買ってくるので回し読みしていました。『ジョジョの奇妙な冒険』のキャラクターや、言い回しが大好きでした。自分の小説に傍点が多いのは、「ジョジョ」の影響があると思います。

――ごきょうだいはいらっしゃるのですか。

井上:姉が一人います。姉の影響でコバルト文庫も読みました。『クララ白書』など氷室冴子さんの作品を読んだ記憶があります。

――今思うと、どんな子供だったと思いますか。

井上:結構、騒いでいるほうの子供だったとは思います。小学生の頃はクラスで何か流行らせるのが好きでした。じゃんけんゲームなどを考えましたね。じゃんけんで勝つと「ドラクエ」みたいな呪文が使えて相手にダメージを与えられる、みたいなシンプルなゲームを考えてみんなでやっていました。そういうことをしていたので、昔はゲームクリエイターになりたいと思っていました。

――国語の授業は好きでしたか。

井上:あまり勉強で嫌だったとか楽しかったという記憶はないんです。ただこなしていただけというか。作文や読書感想文も、求められていることがなんとなくわかるので、「こういうのを書けばいいのかな」ということをそつなく書いていたように思います。嫌な子供ですね(笑)。

――文章を書くのは好きでしたか。

井上:お話を作るのが好きでした。さきほどゲームを作っていたと言いましたが、漫画も描いていたんです。子供の描く下手な漫画ですけれど、A4のノート何冊分も描いて、みんなに回し読みしてもらっていました。内容は基本的に「ジャンプ」のパロディみたいなバトルものです。
 漫画家になりたかった時期もありますけれど、そんなに頑張れませんでした。一度中学生の時に、ハリガネ漫画――人の顔を〇で、体を棒で描いただけの漫画を「ジャンプ」のギャグ漫画大賞に送ったんです。そうしたら当時の副編集長から電話がきて「頑張れ」みたいなことを言われました。それが漫画についての最大の思い出です。

――棒人間の漫画で電話がかかってくるとは(笑)。ギャグが秀逸だったのでは?

井上:今思うと、何を評価したんだろうって感じですよね(笑)。でもどうしても絵が上達しなかったので、それで漫画ではなく文章の方向にいったところがあります。
文章を書き始めたのは中学生の時からですね。剣道部に入っていたんですが、練習場に黒板があって、練習前の30分くらいで黒板1枚におさまるショートショートを書いたら、周りの反応がよかったのを憶えています。

――どんなお話を書いていたのですか。

井上:映画のワンシーンを切り取ったような内容です。今思うと本当にくだらないんですけれど、スパイが追い詰められるけれど最後に大逆転してキメ台詞を言って終わる、みたいな。あとは、誰にも見せない小説を執筆衝動の赴くままに黙々と書いていました。
当時は、何か作りたくてしょうがなかったんです。自分の中にあるものを吐き出したいというか。ゲームも好きだったので、その流れでゲームブックも書いていました。テーブルトークRPGのシナリオですね。パソコンでゲームづくりもしていました。シンプルなプログラミングですが、文章で「ドラクエ」みたいに闘っていくゲームです。

  • ジョジョの奇妙な冒険 1 (ジャンプコミックス)
  • 『ジョジョの奇妙な冒険 1 (ジャンプコミックス)』
    荒木 飛呂彦
    集英社
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  • クララ白書I (集英社コバルト文庫)
  • 『クララ白書I (集英社コバルト文庫)』
    氷室冴子
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