第260回: 青崎有吾さん

作家の読書道 第260回: 青崎有吾さん

2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受賞してデビュー、以来アニメ化された『アンデッドガール・マーダーファルス』やドラマ化された『ノッキンオン・ロックドドア』、最新刊『地雷グリコ』などで人気を博している青崎有吾さん。小学生時代は海外ファンタジーが好きだったという青崎さんが、ロジカルなミステリを書くようになった経緯は? ハマった作家、作品についてたっぷりおうかがいしました。

その4「ミステリの流れが到来」 (4/7)

  • そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
  • 『そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
    アガサ・クリスティー,青木久惠
    早川書房
    836円(税込)
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  • 『ドグラ・マグラ(上) (角川文庫 緑 366-3)』
    夢野 久作
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    572円(税込)
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  • 『金田一少年の事件簿 File(1) 金田一少年の事件簿 File (週刊少年マガジンコミックス)』
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  • 『名探偵コナン (1) (少年サンデーコミックス)』
    青山 剛昌
    小学館
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――高校時代の読書はいかがですか。

青崎:ようやくミステリの流れが来ます。アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』を読んだことで、ミステリってものすごく面白いのかもしれないぞ、と興味が加速したんです。
そこからミステリばかり読み始めるんですが、やっぱり図書館ユーザーだったので、海外の古典作品から入りました。古典はずっと貸し出中ということもなくて、借りやすかったんです。エラリー・クイーン、ディクスン・カーといった黄金期の作家を読んで、特に好きになったのがクイーンでした。

――青崎さんはデビュー後「平成のエラリー・クイーン」と呼ばれるようになりますよね。

青崎:もう平成も終わったのでその名称は消えましたけれど...(笑)。クイーンを読んで、あ、自分が一番好きなのは「解決までの道筋」なんだな、と気づきました。さきほど言った外的環境の影響ですよね。クイーンを読んだことによって、ロジック好きにさせられるという。「憧れ」枠に入っていた新本格の作家さんたちもこのころから読み始めました。
それと、高校でようやく小説についての情報交換ができる友達が何人かできたんです。ミステリ好きが一人いて、クイーンを手に取ったのもその友達がきっかけでした。いろいろ情報交換する中で東野圭吾さんや、倉阪鬼一郎さんの作品をよく読んでましたし、夢野久作さんの『ドグラ・マグラ』から始まる四大奇書にも手を出したり。はやみねかおるさんの『都会のトム&ソーヤ』にパロディとして「四大ゲーム」が出てくるんですが、元ネタのタイトルよりも「四大ゲーム」のほうを先に知っていましたね。そうやって下地が作られ、一か所決壊したら一気にミステリ好きになるという、はやみねさんにまんまと乗せられた感じでした(笑)。

――ふと思ったのですが、漫画の『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』は通ってこなかったのですか。

青崎:それも自分の欠落している部分で、通っていないんです。『コナン』も『金田一』も同世代だと全巻読んだという人も多いんですけど、自分はアニメを観ていた程度で。その頃はバトル漫画のほうが好きで、あまり漫画にミステリを求めていなかったのかもしれません。福本伸行さんの漫画『賭博黙示録カイジ』や甲斐谷忍さんの『LIAR GAME』といったギャンブル漫画はよく読んでいたので、トリックよりもロジックが読みたい、という気持ちもあったのかも。
欠落でいうと、ラノベの名作も押さえていないんです。これも図書館で常に貸し出し中だったからなんですが。その頃に上遠野浩平さんとかを読んでいたらドハマリしていたかもしれませんが、読んだのは大学に入ってからでした。いろいろ取りこぼしながら大人になってしまいまいました。
でも、ものすごく好きなラノベのシリーズもあって。入間人間さんの『安達としまむら』ですね。2人の女子高生がいて、片方が片方に恋してしまうというお話なんですけど。その前から百合作品は好きでしたが、『安達としまむら』を読んだことでより深みにはまったかもしれません。入間先生ってもともと心理描写が巧みな方なので、百合とすごく相性がいいんですよ。最近シリーズが一段落して、完璧としか言いようのない終わり方をしました。

――バトル漫画で夢中になったものは。

青崎:大暮維人さんの『エア・ギア』ですね。なんと、後に『アンデッドガール・マーダーファルス』の表紙を描いていただくことになります。宇宙一絵が上手い人だと思います。
同世代なら分かると思うんですけれど、中高生くらいで『エア・ギア』を読むと、虜になりますよね。外連味のある科学漫画というか。たとえば炎を操るキャラクターが出てきたとしても、超能力で炎を出しているわけではなく、こういうツールや現象があって、それを利用して発火している、という解説が一応あるんです。理屈を通そうとする作風がすごく好きで、しかも超絶画力のせいで謎の説得力がある。自分の中で魔法万能系の物語が肌に合わなかった部分と合致して、現実世界でも面白いことはできるんだと思えました。もしかするとそこがきっかけで、ファンタジーよりもミステリが好きになっていったのかもしれません。大暮維人先生に人生を変えられました。

――創作はしていましたか。

青崎:絵が上達しないので漫画家になるのを諦め、じゃあ小説家になろうと思ってノートにミステリを書いていました。『短編小説』というタイトルの長編小説で、ある高校で殺人事件が起きるんですが、古い雑誌に載っていた短編小説と手口がそっくりなことに文芸部の生徒たちが気づいて、作者について調べ始め......みたいなお話でした。刑事の視点や犯人側の視点もあったりして、今の作風より硬派だったかもしれません。これも母と近所の人に読んでもらっただけで、封印してます。

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