第260回: 青崎有吾さん

作家の読書道 第260回: 青崎有吾さん

2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受賞してデビュー、以来アニメ化された『アンデッドガール・マーダーファルス』やドラマ化された『ノッキンオン・ロックドドア』、最新刊『地雷グリコ』などで人気を博している青崎有吾さん。小学生時代は海外ファンタジーが好きだったという青崎さんが、ロジカルなミステリを書くようになった経緯は? ハマった作家、作品についてたっぷりおうかがいしました。

その5「大学のミス研で読書の幅が広がる」 (5/7)

  • ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)
  • 『ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)』
    ピエール・シニアック,藤田 宜永
    東京創元社
    1,100円(税込)
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  • ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)
  • 『ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)』
    マイクル・コーニイ,山岸真
    河出書房新社
    935円(税込)
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  • 有栖川有栖の密室大図鑑 (創元推理文庫)
  • 『有栖川有栖の密室大図鑑 (創元推理文庫)』
    有栖川 有栖,磯田 和一
    東京創元社
    880円(税込)
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  • 体育館の殺人 (創元推理文庫)
  • 『体育館の殺人 (創元推理文庫)』
    青崎 有吾
    東京創元社
    858円(税込)
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――明治大学に進学してミステリ研究会に入られたそうですね。最初から入ると決めていたのですか。

青崎:入試より前、パンフレットのサークル一覧にミス研を見つけて、明治に行くことになったらここに入ろうと決めていました。ところが新歓の時、どれだけ探してもミス研がいない。webサイトにだけ活動場所が書かれていたので「大丈夫かな」と思いつつ覗きに行ったら、こっそりやっていたという。当時の先輩たちが、面倒くさがって新歓をしていなかったんです。
週1回程度の読書会が主な活動だったんですが、そこで課題本を無理矢理読まされたのは大きかったですね。司会になった人の趣味を押しつけられるので、いろんな本に触れる機会が増えました。今好きな作家さんは、読書会をきっかけに読むようになった人ばかりです。
 泡坂妻夫さん、舞城王太郎さん、桜庭一樹さん、北山猛邦さん、ロアルド・ダール、エドマンド・クリスピン、エドワード・D・ホックとか...。最初の読書会の課題本は米澤穂信さんの『ボトルネック』でしたね。当時は梓崎優さんが話題をさらってましたし、似鳥鶏さん、相沢沙呼さんもライト文芸の書き手として人気が高かった。広義のミステリならなんでも良かったので、ピエール・シニアック『ウサギ料理は殺しの味』やマイクル・コニイ『ハローサマー、グッドバイ』、赤染晶子さんの『乙女の密告』でも読書会をやりました。そこでどっとミステリに染まったんですが、体系だった読み方はしていませんでした。しいていうなら有栖川有栖さんの『密室大図鑑』に載っている作品を一個ずつ潰していこうとして、途中で挫折したくらいで。
それと、入会した時に「クイーンが好きです」と言ってしまったので、「じゃあ、パズラーの話になったらこいつに振ろう」みたいな空気ができてしまって。これも外側から作られるというやつで、パズラー好きが加速しました。氷川透さんや、結城昌治さんを読んでいました。なんか、アイドルオタクの担当文化みたいなものが自然とできていたんですよ。西澤保彦さんの話はこの人に振ろうとか、ハードボイルドのことならこの先輩に聞こう、みたいな。
創元系のコージーミステリや日常の謎が好きな先輩がいて、その人とダベっていたせいで、僕も創元推理文庫びいきになっていきました。北村薫さん、若竹七海さん、倉知淳さんなどもよく読むようになりました。

――サークルで創作はしていたのですか。

青崎:基本、読み専のサークルだったんですけれど、4人くらい創作もしたい人がいて、サークル内サークルの形で創作誌を作って文学フリマで売ったりしていました。

――大学での専攻は。

青崎:文学部の演劇学専攻というところに籍を置いていました。演劇系の座学が多くて、戯曲などを読む割合が多かったです。チェーホフなんかを読んでいました。

――なぜ演劇を?

青崎:高校3年生の時って一番人生をぶん投げていた時期だったので、どうでもいいやと思って(笑)。文芸メディア専攻という創作用のコースもあったんですけれど、小説は家でも書けるし、演劇のことは全然知らないから学んでおこうかなと思ったんです。

――創作に関わることだから、という気持ちもあったのでは。

青崎:大いにありましたね。それで入ってみたらまわりに演劇系サークルの人しかいなくて、僕は孤立してしまうという。でも実になるものはいっぱいあったと思います。やはり『早朝始発の殺風景』は演劇っぽいシチュエーションものだし、デビュー作の『体育館の殺人』も序盤が演劇っぽいと言われるんです。体育館から場所が動かなくて、人が出たり入ったりしている状況ですから。

――大学時代、新人賞への投稿もしていたわけですよね。

青崎:大学に入ってから投稿していました。ライトミステリを書きたかったので、「じゃあラノベの賞かな」と、ラノベをろくに読んでいないのに電撃大賞とかに送るという馬鹿なことをやっていました。

――あ、クイーンのようなものを書こう、という方向性ではなかったのですか。

青崎:自分の中にふたつ軸があって、クイーンが好きだというラインと、学園ミステリのような日常系が好きというラインが並走していたんです。両方混ぜたものを書きたいという意識は当初からありました。

――デビューしたのは東京創元社の鮎川哲也賞ですよね。在学中の2012年に『体育館の殺人』で受賞されている。

青崎:さっき話した日常の謎好きの先輩が、僕のひとつ前の鮎川賞で最終選考に残ったんですよ。ほぼほぼ9割くらい、その影響で応募しました。

――『体育館の殺人』では、高校の体育館で放送部部長が何者かに刺殺される。密室状態で起きたこの事件の謎を、校内に住み込んでいるアニメオタクの生徒にして学内随一の天才、裏染天馬が解き明かします。これはライトノベルの賞に応募していた作品とはかなりテイストが違うのですか。

青崎:『体育館の殺人』のほうが本格度は上がっていますけど、ラノベの賞に出したものも校内で殺人事件が起きて、生徒が謎を解くという内容だったので、そんなに大きな違いはないかもしれません。

――作中にアニメのタイトル等も沢山出てきますよね。アニメオタクの探偵という設定にしたのは...。

青崎:あれは本当に場当たり的というか...。学校に住んでいるという設定が先にあったので、バレないのは引きこもりがちだからだろう、ならアニメとか好きかな、というくらいの発想です。僕自身アニメも好きですがそこまで詳しくないので、「ここに何かアニメネタを入れたいけれどちょうどいいタイトルはなんだろう」と思った時は友達に訊いたりしていました。

――その時の選考委員ってどなたでしったっけ。

青崎:芦辺拓先生と辻真先先生と北村薫先生です。芦辺先生と辻先生がアニメネタを許してくれる方だったからデビューできたんじゃないか、と先輩には分析されています。
ちなみに、僕の前に最終選考に残っていた先輩は結局鮎川賞は獲らなかったんですけれど、ちょっと前にtwitterで「ない本」というアカウントを作って、めちゃめちゃバズって1年くらい前に『ない本、あります。』というタイトルで書籍化しました。

――え、画像を送るとそれを表紙にしてあらすじも作ってくれる、あの「ない本」のアカウントの方なんですか。

青崎:そうなんです。昔から面白いことばかりしている人でした。読書の話に戻すと、全然ミステリの下地ができていない状態でデビューしてしまったので、あれも読まなきゃこれも読まなきゃみたいなプレッシャーがありました。「大坪砂男は読んでるくせに山風は読んでねえ!」となって、慌てて買い集めたりとか。

――学校生活を送りながら、新作を書きながら、ですよね。ところで『体育館の殺人』を書いた時はシリーズ化するって思ってました?

青崎:思ってなかったです。シリーズ化しましょうとなって、タイトルに「館」がついているから次も「館」にせざるを得ないだろうと考え、2作目の『水族館の殺人』と並行してシリーズとしての縦軸を作っていきました。破綻生活を送っている今振り返ると、たしかに大学に通いながら2作目を書いていたなんて信じられない...。

――サークルで「デビューしたなんてすごい!」などと言われたのではないですか。

青崎:それはよくある誤解でして。ミステリ研でデビューした奴って、扱いがいちばん下になるんです。作家は批評される側の人間だから。全然地位は向上しませんでした。

――『体育館の殺人』の読書会とかあったんですか。

青崎:ありました。ボロクソに言われました。『水族館の殺人』が出たときも読書会をしたんですけれど、こっちはもう何が起きるか分かっているから、鋏を持ち込んで、自分の手首に刃を当てて「さあ語れ、少しでもつらくなったら俺は切るぞ」と脅したので、みんな「すごく面白かったよ」って言ってくれました。まあ、だいたいミス研の人は僕も含めて、いいところより悪いところを見つけたがるんですよ。そういう厳しい目があったほうが成長できるんじゃないかとも思います。

  • 水族館の殺人 (創元推理文庫)
  • 『水族館の殺人 (創元推理文庫)』
    青崎 有吾
    東京創元社
    968円(税込)
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