
作家の読書道 第260回: 青崎有吾さん
2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受賞してデビュー、以来アニメ化された『アンデッドガール・マーダーファルス』やドラマ化された『ノッキンオン・ロックドドア』、最新刊『地雷グリコ』などで人気を博している青崎有吾さん。小学生時代は海外ファンタジーが好きだったという青崎さんが、ロジカルなミステリを書くようになった経緯は? ハマった作家、作品についてたっぷりおうかがいしました。
その7「話題作『地雷グリコ』と今後の予定」 (7/7)
――でも、新刊の『地雷グリコ』はどうやったら勝てるかすごく考えながら読みました。
青崎:確かにあれは「自分だったらどうするか」を考えながら読んだほうが楽しめるかもしれませんね。
――一見ちゃらんぽらんに見えるけれど実は頭脳明晰な高校生、射守矢真兎がさまざまな勝負に挑戦する連作集です。その勝負事というのが、お馴染みの遊びにオリジナルルールを加えたもので、第一話「地雷グリコ」は、文化祭の場所取りを競って、生徒会役員と階段を使うあの「グリコ」で勝負する。お互いに好きな段に地雷を仕込むことができるというルールを加えただけで、ものすごくスリリングな頭脳戦になっていますよね。この「地雷グリコ」はもともとは単発の短篇として書いたそうですが。
青崎:あれは学園もののアンソロジーに収録する前提で、2017年に雑誌に発表したものです。そのアンソロジーの企画は流れてしまったんですが、その後、「続きを書いてください」と依頼があったんです。連作にするとは考えていなかったので、射守矢さんのキャラクターも強い相手とのギャップを狙ってちゃらんぽらんな感じにしただけだったんですけれど。ただ、一話目から設定としてあったのは、射守矢さんは相手の性格や環境に合わせて戦略をカスタマイズするタイプということでした。
――毎回、絶対絶命と思われるところからの逆転劇がたまりませんでした。二話以降では、百人一首で神経衰弱をする「坊主衰弱」、新しい手を加えることができる「自由律ジャンケン」、制限の多い「だるまさんがかぞえた」、複数の部屋を使う「フォールーム・ポーカー」に挑戦する。毎回、射守矢さんは勝負前に審判にいくつかルールを確認する質問をしますよね。それが後になって効いてくるところが、伏線回収のような面白さがありました。確かにギャンブルのような勝負事とミステリの謎解きって密接なんだなと感じました。
青崎:自分の中ではそういうイメージでした。特殊設定ミステリみたいだという感想もありましたね。どのゲームも独自のルールを設定して、そのルールを利用してトリッキーなことをやるので特殊設定ミステリと同じだ、と。なるほどなと思ったりしました。
――射守矢さんと友達の鉱田ちゃんとの友情も心くすぐるものがあるし、ちゃらんぽらん系の射守矢さんがなぜ真剣勝負に挑むのか、その理由にもぐっときます。生徒会役員の椚先輩をはじめ、他のキャラクターもみんな魅力的で。
青崎:よかったです。2017年の自分を褒めてあげたい(笑)。
――「オリジナルゲームを考えるのはそれほど難しくなかった」とおっしゃっていましたね。
青崎:『嘘喰い』や『カイジ』を読みながら、自分でもいろんなゲームを考えていたので、ストックやノウハウめいたものが頭の中にありました。ただ、ギャンブル漫画だと命を懸けた過酷な勝負をするのが定番ですが、『地雷グリコ』に出てくるのは高校生たち。彼らが真剣勝負をする理由とはなんだろう、と悩みながら書きました。
――高校生たちが小さな子供でもできる「グリコ」や「だるまさんがころんだ」をアレンジして真剣にやっているところがいいですよね。
青崎:『嘘喰い』では大人がそういうゲームを真剣にするんですよ。日本全土へのミサイル攻撃を賭けてテロリストとババ抜きをしたりする。
――なんか、青崎さんと『地雷グリコ』について話していると、『嘘喰い』が読みたくなってきます(笑)。
青崎:影響を受けているのはもう隠しようがないので。『地雷グリコ』を読んで『嘘喰い』に興味を持った方はそちらもぜひ、という(笑)。迫稔雄先生は今、「ヤンジャン!」で『バトゥーキ』というカポエイラ漫画を描かれています。迫先生のすごいところは、ご自身でも実際にカポエイラを習得されているんですよ。そちらは完全に格闘漫画ですが、やはり面白いです。
――青崎さんは現在「週刊ヤングジャンプ」で連載中の松原利光さんの『ガス灯野良犬探偵団』の原作を担当されていますよね。あれはどういうきっかけだったのですか。
青崎:ワセミス出身の学生さんが、新卒でヤンジャン編集部に入ったんですよ。もともと僕の小説を読んでくださっていたらしく、「『ヤンジャン』でミステリ漫画をやりませんか」と声をかけていただきました。それで、3年前くらいから打ち合わせをしていたんです。
――19世紀末のロンドンで、浮浪児の少年が諮問探偵シャーロック・ホームズと出会うという話です。小説と漫画の原作では、執筆の際どんな違いがありますか。
青崎:やっぱり台詞量ですね。小説と同じ感覚で書くとまったく入りきらないので、とにかく短く短く切り詰めて、でもちゃんとパワーワードを置かなくてはいけない。もともと漫画を描いていたので、なんとなく分かる部分ではあったんですけれど。
――今後のご予定はといいますと。
青崎:今話した『ガス灯野良犬探偵団』が「週刊ヤングジャンプ」で連載中で、コミックス第1巻が発売中です。それと、以前実業之日本社さんから出た『彼女。百合小説アンソロジー』に「恋澤姉妹」という短篇で参加したんですが、今度その百合アンソロジーの第2弾が出る予定です。僕は「首師」という単発の短篇を書いています。
(了)