第277回:矢樹純さん

作家の読書道 第277回:矢樹純さん

漫画原作者として活動するなか、2012年に『Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件』で小説家デビュー、19年に短篇集『夫の骨』が話題となり、翌年その表題作で日本推理作家協会賞短編部門を受賞した矢樹純さん。ホラー、ミステリ、サスペンスで読者を震撼させる作家は、どのような読書生活を送ってきたのか。デビュー後、ブレイクまでの道のりも含めてたっぷりお話うかがいました。

その5「小説家デビュー、読書」 (5/6)

  • Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件
  • 『Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件』
    矢樹 純
    アドレナライズ
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  • 珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
  • 『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)』
    岡崎 琢磨
    宝島社
    712円(税込)
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  • 公開処刑人 森のくまさん (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
  • 『公開処刑人 森のくまさん (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)』
    堀内 公太郎
    宝島社
    712円(税込)
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  • 保健室の先生は迷探偵!? (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
  • 『保健室の先生は迷探偵!? (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)』
    篠原 昌裕
    宝島社
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――2012年に『このミス』の「隠し玉」として出された『Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件』がはじめて書いた長篇だったわけですね。応募作のなかで受賞には至らなかったものの編集部推薦で刊行されるのが「隠し玉」です。

矢樹:その時に一緒に「隠し玉」に選ばれたのが岡崎琢磨さんの『珈琲店タレーランの事件簿』、堀内公太郎さんの『公開処刑人 森のくまさん』、篠原昌裕さんの『保健室の先生は迷探偵!?』でした。私の本はぜんぜん売れなくて、2冊目を出すのが厳しい感じになってしまって。
それで、kindleで個人出版をしつつ、再デビューしようと思って別の短篇賞に送ったところ最終候補に残った上で落ちてしまって。デビュー後に新人賞的なものに落ちると、「自分がデビューしたのは間違いだったんじゃないか」という気持ちになって結構精神的にきついんですよ。また新人賞に応募するのは心がもたないと思って、エージェント会社に作品を見てもらうことにしたんです。
自分でエージェントをいろいろ調べて、アップルシードエージェンシーさんに連絡したら、会ってお話を聞いていただけることになって。書き溜めていた短篇から家族をテーマにしたものを選び、書き下ろしを加えて出すことになった短篇集が『夫の骨』なんです。

――『夫の骨』は2019年に刊行されて、翌年表題作が日本推理作家協会賞の短編部門を受賞しましたね。受賞作以外も、どれもひねりの効いた展開ですごく面白かったのですが、短篇は得意だったのでしょうか。

矢樹:いえ、むしろずっと書いたことがなくて。再デビューを目指していた時期に、書いたものに意見してもらいたくて、漫画の編集さんにお願いして小説の編集者さんと繋いでもらったんです。そうしたら「練習のために短篇を書いてみたら」と言われ、そこからは月に1作短篇を書いていました。ただ、だんだん原稿を送っても返事がこなくなって、連絡つかなくなっちゃったんです。すごくお世話になった方なので、最後にそんな形になってしまったのが心苦しいんですが、そうしたこともあってエージェントに相談しようと思ったんです。
その編集さんに「短篇を書いてみたら」と言われて「新本格しか読んだことがない」と言った時、「こういう人を読めばいい」と教えていただいたのが、小池真理子先生と連城三紀彦先生でした。読んでみて、「なるほど短篇ってすごいんだな」と思いましたね。短篇の格好よさを知りました。連城先生は最初に『戻り川心中』を読んではまって、『変調二人羽織』や『夜よ鼠たちのために』といった短篇集を読んでいって、最終的に作家コンプリートしました。小池先生はたしか、最初にちょっと怖い短篇集を読んだんです。『記憶の隠れ家』、『妻の女友達』などを憶えています。
その編集の方が、お薦めの短篇集とは別にお薦めの作家さんとして教えてくださったのが沼田まほかる先生でした。それで沼田先生の『痺れる』という短篇集を読んだら、全部すごくよかったんですけれど、特に「林檎曼荼羅」という短篇がすごく刺さって。自分もこういうものが書きたいと思って書いたら全然違うものができた、というのが「夫の骨」だったんです。
その前から桐野夏生先生や宮部みゆき先生は読んでいたんですけれど、この時期からいろいろ新本格以外のミステリも読むようになって、読書の幅が広がっていきました。

――「夫の骨」で推協賞を受賞されて、お仕事の環境は変わりましたか。

矢樹:そこからはわりとお仕事をいただけるようになり、原稿を編集さんに読んでもらって意見をいただいて直して、という作業ができるようになりました。意見をもらいながら書くことで力がついていくものなので、そこからやっと作家人生が始まったように感じています。

――その後は2020年に短篇集『妻は忘れない』、2021年に初の単行本での短篇集『マザー・マーダー』、2022年に長篇『残星を抱く』、2023年に『幸せの国殺人事件』、2024年に『血腐れ』と『撮ってはいけない家』と、順調に本を出されていますね。

矢樹:推協賞を受賞したのが2019年なので、まだまだ作家歴が浅い気がしています。

――矢樹さんは短篇を書く時、トリックとシチュエーション、どちらが先に浮かぶほうですか。

矢樹:最初のうちはトリックが先でした。だから、トリックが先行して人物が書けていなかったんです。でもだんだん登場人物を掘り下げることが先になってきて、今は半々くらいで書けるようになってきました。

  • 夫の骨 (祥伝社文庫)
  • 『夫の骨 (祥伝社文庫)』
    矢樹純
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  • 戻り川心中: 傑作推理小説 (光文社文庫 れ 3-4)
  • 『戻り川心中: 傑作推理小説 (光文社文庫 れ 3-4)』
    連城 三紀彦
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    682円(税込)
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  • 変調二人羽織 (光文社文庫 れ 3-7)
  • 『変調二人羽織 (光文社文庫 れ 3-7)』
    連城 三紀彦
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  • 夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)
  • 『夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)』
    連城 三紀彦
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  • 『妻の女友達 (集英社文庫)』
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  • 『痺れる (光文社文庫)』
    沼田 まほかる
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  • 『妻は忘れない (新潮文庫)』
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  • マザー・マーダー (光文社文庫 や 40-1)
  • 『マザー・マーダー (光文社文庫 や 40-1)』
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  • 『残星を抱く』
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  • 幸せの国殺人事件 (一般書)
  • 『幸せの国殺人事件 (一般書)』
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  • 血腐れ (新潮文庫 や 83-2)
  • 『血腐れ (新潮文庫 や 83-2)』
    矢樹 純
    新潮社
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  • 撮ってはいけない家
  • 『撮ってはいけない家』
    矢樹 純
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