『天地明察』冲方丁

●今回の書評担当者●有隣堂アトレ新浦安店 広沢友樹

  • 天地明察
  • 『天地明察』
    冲方 丁
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    5,976円(税込)
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12月21日(月)渋谷金王八幡宮→フライングブックス、東塔堂

新年明けましておめでとうございます。今年も8万点を超す流通の現場で頑張ります。毎年元旦は初詣に行くようにしています。一年のうちでこの日ぐらいなのですが、神社に行くとなんだか清清しいワクワクするような気持ちになりますよね。新しいことへのチャレンジを願う人もいると思います。そんな気持ちに寄り添える本を今回はご紹介します。
冲方丁の天地明察です。

四代将軍徳川家綱の時代。碁によって将軍に仕える碁打ち家の若き長男渋川春海は、真剣勝負のない定石の披露に留まるその人生に少々飽きを感じつつありました。かわりに熱をおびてきたのが趣味であった算術です。問題を知るやいなやどこでも手製の算盤と算木をひろげ夢中になって思考するその姿を、年下の碁打ち本因坊道策に叱られる始末。しかしながら、ときの老中酒井忠清は、普段と変わらぬ春海との指導碁の際になにげない調子で一言問いかけます。「退屈でない勝負が望みか」と......。
これがのち23年間、春海が自身の力のすべてを傾けることになる改暦事業の始まりであったのです。

新しい暦を打ち立てるために必要なことはどれひとつとっても難問中の難問。天の運行の把握と測量、高度な算術式の構築、既存の暦の検討、神道祭事の深い理解、朝廷および幕府の思惑の調整など、真摯な姿勢をもってその難問に臨む春海の周りには、偶然必然あわせて日本のトップクラスの人材が集合していきます。それでもなお、計画の過程は苦悩と失敗と挫折の連続であることがこの物語の大きな魅力です。予測どおりいかない、想いが通じない、真剣であるからこそ、その苦悩の谷底も深い。プロジェクトXさながらの奮起はまったく壮絶のひとことです。全国民注目の「蝕」予測5番勝負は1番1番、手に汗握る緊迫感で思わず一緒に「明察!!」と声を挙げてしまいます。

まさしく天地を明察する男、渋川春海。ひとりの人間の一生はこんなにも熱い!!
そして先人が先逝くことも自然のことわり。想いのバトンを受け取ることはとても寂しい。

今回は物語冒頭の要所、渋谷の金王八幡宮を最初に訪れました。渋谷にもこんなに落ち着く場所があったのかと驚きます。残念ながら算額絵馬は見当たりませんでしたが、色づく銀杏の落ち葉がとても綺麗です。そして渋谷にはフライングブックスと東塔堂という隠れ家的で居心地の良い書店があります。ともに好きなジャンルで選書しているという楽しさと造詣の深さが伝わってきます。前者にはコーヒーの飲めるカウンター、後者には小さなギャラリースペースがあります。こういう場所で待ち合わせができるような関係は素敵だなあと感じます。

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有隣堂アトレ新浦安店 広沢友樹
有隣堂アトレ新浦安店 広沢友樹
1978年東京生まれ。物心ついた中学・高校時代を建築学と声優を目指して過ごす。高校では放送部に所属し、朗読を3年間経験しました。東海大学建築学科に入学後、最初の夏休みを前にして、本でも読むかノと購買で初めて能動的に手に取った本が二階堂黎人の「聖アウスラ修道院の惨劇」でした。以後、ミステリーと女性作家の純文学、及び専攻の建築書を読むようになります。趣味の書店・美術展めぐりが楽しかったので、これは仕事にしても大丈夫かなと思い、書店ばかりで就活を始め、縁あり入社を許される。入社5年目。人間をおろそかにしない。仕事も、会社も、小説も、建築も、生活も、そうでありたい。そうであってほしい。