『傷だらけの店長』伊達雅彦

●今回の書評担当者●忍書房 大井達夫

  • 傷だらけの店長 〜それでもやらねばならない〜
  • 『傷だらけの店長 〜それでもやらねばならない〜』
    伊達雅彦
    パルコ
    1,404円(税込)
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 副題が「それでもやらねばならない」、帯の後ろに「店長、平気ですか?」の惹起。どうも違和感が残る。「やらなければならない」のは何か。店長に言葉をかけるのは、ヒラの店員かバイトだろうが、「平気ですか」というのはどういう場面を想定しているのだろうか。

 本を売る喜びを知った男が中規模チェーン店の書店員になり店長になる。しかし、給料はあがらず人員も増やしてもらえない。本を売ることは商売だから、儲からなければカットできる部分をカットすることになる。それはそうなんだが、かつて天職だと思った本屋という職場に、魅力を感じなくなってしまったのは何でなんだろうと男は苦悩するのだ。

 本書を読み終えて、「それでもやらねばならない」ところを探してみる。ふさわしいと思えたのは二箇所。万引き学生を執拗とも思える情熱を傾けて追いかける場面と、ベテランバイトの首を切るところだ。「それでも」というからには、忸怩たる思いを抱いているのだろう。しかし、それもこれも書店員を続けるために、心を鬼にしてしたことだったのではなかったか。ならば結局書店員を辞める彼には、後悔のみを促す言葉ではなかったか。

 新文化に連載しているときから読んでいた。ことさらにイラついたり怒ったりする姿に、痛々しさを感じたものだ。街の本屋さんを潰したのは、著者の伊達さんがいたような中規模チェーン店である。その店長がこんなに悩んでいるのだもの、街の本屋が潰れるのは当たり前だ。元新文化編集長の石橋さんが解説に書いている通り、書店業界はこの20年間、より床面積の大きな店舗を有力地域に集中させる不毛な消耗戦に明け暮れた。一方でその不毛さが功を奏して、伊達さんのような魅力的で優秀な書店員を生み出したというのが石橋さんの見立てだが、いやいや優秀な書店員は昔もいただろうと思う。書店員が勉強していないというのは偏見だ。勉強する人はするし、しない人はしない。いずれにしろ、ポプラ社創業者の田中治男さんが全国の書店を訪ねて『書店人国記』を書き継いでいた頃(街の本屋さん全盛期時、そういう本があったのである)、書店員は売りたい本を売って給料を貰い、それなりに幸福だったのではないか。今や優秀な書店員はその優秀さゆえ、悲痛な心情を吐露する以外にその思いを清算することができない時代なのかもかもしれない。......一言で言えば、無惨である。あえていう。本が売れないことなど問題ではない。本を売る仕事に誇りを持つこと、それで食っていくことが、できないことが問題なのだ。

 副題についてだけど、私なら「でも、やるんだよ。」にするな。ご存知、根本敬『因果鉄道の旅』に出てくる、ドッグブリーダーの名言だ。ときどき私も口にする。書店の現場は今や、根本敬的に不条理なのだ。私はそう思う。帯の惹起は「店長、ダイジョブですか?」でどうだろう。一度は書店員になりたいと思ったことのある人にオススメです。

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忍書房 大井達夫
忍書房 大井達夫
「のぼうの城」で名を挙げた、埼玉県行田市忍(おし)城のそばで20坪ほどの小さな書店をやってます。従業員は姉と二人、私は社長ですが、自分の給料は出せないので平日は出版社に勤めています(もし持ってたら、新文化通信2008年1月24日号を読んでね)。文房具や三文印も扱う町の本屋さんなので、まちがっても話題の新刊平台2面展開なんてことはありません。でも、近所の物識りバアちゃんジイちゃんが立ち寄ってくれたり、立ち読みを繰り返した挙句、悩みに悩んでコミック一冊を持ってレジに来た小中学生に、雑誌の付録をおまけにつけるとまるで花が咲くみたいに笑顔になったりするのを見ていると、店をあけててよかったなあ、と思います。どうでえ、羨ましいだろう。