『2013年のゲーム・キッズ』渡辺浩弐

●今回の書評担当者●中目黒ブックセンター 佐藤亜希子

  • 2013年のゲーム・キッズ (星海社文庫)
  • 『2013年のゲーム・キッズ (星海社文庫)』
    渡辺 浩弐
    講談社
    8,200円(税込)
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 ショートショートが書ける人は天才だと常々思っている。
 天下のウィキペディア様には、ショートショートとは"特に短い短編小説のこと。長さに規定はないが、一般的には原稿用紙10枚に満たない作品を指す"とある。原稿用紙1枚が400字×10枚、つまり4000字以内で物語を完結させねばならない。

 余分な描写は削り、かといって骨と皮だけの小説なんて誰の心にも残りはしないから、彩りに必要なエッセンスを必要な分だけ加えてやる。多くても少なくてもいけない。実に絶妙かつ繊細な取捨選択が"たかが"4000字を"されど"4000字へと変える。自分が短い文章を書けないせいか(おかげで私が作ったポップ類は非常に文字文字しい)、その神が起こした奇跡の如き変化を起こせる人物を天才と思わずにはいられないのだ。

『2013年のゲーム・キッズ』は、そんな変化っぷりを存分に味わえる、渡辺浩弐氏によるショートショート集である。渡辺氏は、ゲーム制作会社(株)GTVの代表を務め、たまにニコ生で見かけたりもする。まぁとにかくいろんなことをやられているのであろうお方で、なおかつ、以前、幻冬舎文庫から発行されていた『1999年のゲーム・キッズ』(現在は星海社文庫)で私のショートショートバージンを奪った作家でもある。

 本書には星海社のウェブサイト『最前線』内のコンテンツで公開された作品が収録されている(書き下ろしもあり)。同コンテンツの記念すべき第一回目『謎と旅する女』に施されたネットならではの仕掛けが話題になったそうなので、ご存知の方も多いかもしれない。私は友人に教えてもらったのだが、前知識なしで読み終わったあと、ごくごく自然に「おまえ! まじふざけんなっ!」とその友人を罵った。そういった感じの"なにか"が起こるため、これからご覧になる方は覚悟を決めた上で挑んでほしい。私は罵られたくない。

 この作品集では、ips細胞や3Dプリンタなどといった、ウェブでの公開当時にはそこまで耳になじみのなかった題材を用いた物語が多々見受けられる。渡辺氏は大体こんな調子で"今よりちょっと先の未来"を舞台に、現実に起こりうる可能性と、ブラックジョークという言葉がなまぬるく感じられてくるほどの毒を多分に含んだ物語を生み出す。

 遠い未来の話ならフィクションだからと割り切ることもできるだろう。だが、"今"と地続きになった、手を伸ばせば触れられるような場所にある未来の話となるとそうもいかない。聞き覚えのなかった単語が世間を跋扈するようになり、氏の物語を読んだ者がそれらを耳にすると、自分とよく似た架空の人物たちが迎えた笑えない結末を条件反射で思い出してはゾッとする。あの物語が、たった今どこかで現実に変わったのではないかという不安に怯える。こんなトラウマめいた影響をたった数ページで与えてくるのだ。たまったもんじゃない。短いからと侮っていると必ず痛い目にあう。

 さらに困ったことに、著者のショートショートには中毒性がある。一話数分で読めるものだから、毒されていることに気づかず、次をどんどん求めてしまう。しかも渡辺氏のずるいところは、後味悪いのはもういいやーとなりかけたときに、すかさず泣ける話を持ってきたりする。卑怯だ。なんて卑怯な男だ、渡辺浩弐。そう思い、涙と鼻水を一緒に飲み込みながらも(でも次の話ですぐ乾く)、結局一冊あっという間に読み切ってしまった。神というよりもはや悪魔の所業だ。

 ところで、この文庫には先に書いた『謎と旅する女』の新バージョン(こちらには本ならではの仕掛けがある)も収録されている。どうしても罵られたくないため先に書いておくが、とにかく(物理的に)痛いのでお読みの際はご注意を。

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中目黒ブックセンター 佐藤亜希子
中目黒ブックセンター 佐藤亜希子
自他共に認める熱しやすく冷めやすい鉄人間(メンタルの脆さは豆腐以下)。人でも遊びでも興味をもつとす ぐのめりこむものの、周囲が認知し始めた頃には飽きていることもしばしば。だが、何故か奈良と古代魚と怪奇小説への愛は冷めない。書店勤務も6年目にな り、音響専門学校を卒業してから職を転々としていた時期を思い返しては私も成長したもんだなと自画自賛する日々を送っている。もふもふしたものと チョコを与えておけば大体ご機嫌。