『踊るジョーカー 名探偵 音野順の事件簿』北山猛邦

●今回の書評担当者●東山堂 外販セクション 横矢浩司

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  • 『踊るジョーカー―名探偵 音野順の事件簿』
    北山 猛邦
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盛岡を巣立った「新本格」の継承者、北山猛邦氏への手紙

 はじめまして。盛岡の書店に勤務する愛読者(日は浅い方ですが......)でございます。
 盛岡を離れ、東京で迎える初めての(じゃなかったりして)年末年始、いかがお過ごしですか? (帰省中だったりして)東京は、北山さんを変えていませんか?
 新作『踊るジョーカー』、早速拝読いたしました。というか連載中から読んでました。表題作にもなった第一回を読み、今までと明らかに違う北山作品(異世界ではない日常と地続きの舞台設定、シリーズキャラクター、コミカルなやりとりや会話の導入、等々)の登場に、「こういうの読みたかったんだよー」と狂喜し、思わず挟み込みのアンケートハガキに短い感想を書いて投函していました(「ミステリーズ!」Vol.25の最後のページ、〈読者の声〉に載った岩手県のYは僕です)。
 あの時、「北山さんの新たな第一歩」と書きました。作品集として纏まったこの本を読み終え、改めてそれを確信したところです。北山さんらしさはそのままに、誰もが気楽に入っていける親しげな作品ですよね。北山さんを読み始めようとする新たな読者への、『アリス・ミラー城』とはまた別方向からの入り口が出来たと思います。サイン会も盛況だったようですね。嬉しいかぎりです。

 北山さんが本格ミステリに嵌まりだしたのは、インタビュー等でのご発言から推察するに、98年の夏あたりでしょうか? 実は僕も、それまで文学一辺倒だった読書傾向が変わったのがその頃なのです。本格、新本格の傑作群を、次から次へ、熱に浮かされたように読みまくりました。一冊一冊、すべてが面白かった。あんな幸福な体験はそうそうありません。僕の読書人生の中でも、特別な夏でした。
 その後、職業柄いろんな本を読みまくるうちに、いつしか本格ミステリに触れる機会が減っていることに気付きつつも、その流れに抗おうとはしませんでした。が、しかし。昨年、本当に偶然、北山さんのブログ(リニューアル前のやつ)に辿り着き、盛岡在住(当時)の作家さんであることを知った僕は、一気に本格読者へと逆戻りです。そこからはもう、追っかけ(作品の、ですが)の日々。既刊の本はすべて揃え、「ファウスト」のバックナンバーを取り寄せ、対談や雑誌掲載の短編もフォローするようになりました。だって、全部面白いんだもん(古野まほろ氏や村崎友氏を読み出したのも北山さんのおかげ)。本格を読みまくっていたあの頃の情熱が、北山作品との出会いによって甦ってきたのです。他のジャンルと比べても、やっぱり本格の面白さは格別です!
 盟友・辻村深月さんが「自分と同い年の人で島田荘司先生のようなことを考えている人がいることが嬉しい」と言っていましたが、僕の場合「自分と同じ盛岡に住む人で新本格に影響を受けたプロの作家さんがいるのが嬉しい」という感じです。岩手にも多くのミステリ作家さんがいらっしゃいますが、その方たちとは違う、今どき珍しいくらいまっとうな物理トリックを中心にすえた本格ミステリを発表し続けている、たしかな作家的個性を持った方だと思います(地方メディアの方、もっと北山さんをとりあげて!)。

 『石球城』も楽しみにしています。健康に注意しつつ、頑張ってくださいね。
 それでは、よいお年を......。

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東山堂 外販セクション 横矢浩司
東山堂 外販セクション 横矢浩司
1972年岩手県盛岡市生まれ。1997年東山堂入社。 東山堂ブックセンター、都南店を経て本店外販課へ配属。以来ずっと営業畑。とくに好きなジャンルは純文学と本格ミステリー。突然の指名に戸惑うも、小学生時代のあだ名“ヨコチョ”が使われたコーナータイトルに運命を感じ、快諾する。カフェよりも居酒屋に出没する率高し。 酒と読書の両立が永遠のテーマ。