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7月31日(月)

 最近、笹塚駅周辺に行くと、とたんに気分と機嫌が悪くなる。

 なぜなんだろうかと悩んでいたのだが、その理由が本日判明する。なんと商店街にFC東京のフラッグが飾られているのだ。すべて奪い取って焼いてしまおうかと思ったが、もはやそこまでの相手でもないと気づき思いとどまる。

 うう、早く会社をさいたまスタジアムのある浦和美園に引っ越しさせたいぞ。浜本よ! 浦和美園にはあんたの大好きなジャスコもあるぞ!

 通勤読書は本の雑誌社唯一の福利厚生である誕生日プレゼント、図書カード5000円で購入した『四万十川(2)川行き』永澤正好(法政大学出版局)である。待ちに待った第2巻! 四万十川流域に住む97歳の翁の昔話とその語り口がたまらない…と書いても、こんな本を喜ぶのは本当に限られた人だろう。しかしそれこそが「本」というものの良さなのだ。

 秋葉原の有隣堂さんへ。

 このお店、まもなく開店から1年を迎えるわけだが、当初「秋葉原に普通の書店を作って」なんて批判を受けていたが、こうやって1年経ってみると、それで良かったんじゃないかと思えてくる。

 それおは秋葉原はオタクだけがいる場所でなく、多くのビジネスマンが働く場所になっており、本日訪問した午後の時間帯はスーツを着たサラリーマンが大勢お店の棚やレジに並んでいた。もちろん普通であるだけでなくサブカルのフェアを組んだり、ガンダムの商品を並べたりして、この1年いわゆる秋葉原らしさも取り込みだし、近くにある書泉さんほど特化はせずに良い感じの融合が行われていると思う。相棒とおるは、まもなく秋葉原で働くことになるのだが、この有隣堂さんがあることをとても喜んでいた。

 担当のIさんとお話。Iさんはたぶん僕より8つくらい年下なのだが、とても尊敬している書店員さんにひとりである。いやそれは書店員としてだけでなく、人としてもだ。

 どんなときでも前向きでしかも謙虚。そういえばいつだか「本の雑誌」で書店員ガス抜き座談会なんてのを掲載し、今からでも遅くない、若い人は書店で働くのは辞めた方がいいなんて発言に対して、「僕らはもっと夢をもっている」と反論のメールをいただいたことがあった。確かにそうだと思った。

 そのIさんは最近は小説を離れ、内田樹や加藤典洋を読んでいると話す。
「本当はもっと早く読んでいなきゃいけなかったと思うんですけど『僕が批評家になったわけ』(岩波書店)には感動しました。本に携わる僕らは読むべき1冊ですね。内田さんも含めて自分の見方をしっかり持った大人になりたいと思ってます」

 僕はそんなIさんを見て、自分のスタンスを見直すのであった。

7月30日(日)

 早起きの息子を散歩に連れ出す。8時にしてすでに頭頂部を焼くような日差し。息子が「アウッ!」と三輪車を指さしたので今日は乗せて押していくことにした。

 息子は1歳半なのだが、すでにお気に入りの散歩コースを持っている。だから自分で行きたい方向にハンドルを切る。それが面倒なコースだったりすると、無理矢理息子ごと三輪車を持ち上げて方向転換するのだが、着地させると同時に元々向いていた方にハンドルを切る。すでにそれだけの意思を持っている。

 この日は途中、工事用のショベルカーに触らせてやったので、機嫌良く一周し家に戻った。家の中から掃除機の音がした。まだしばらく外にいよう。そう考えたら車があまりに汚いことに気づく。そういえば随分洗っていなかった。もう買い替える金もないんだからこの車を大事に扱わないとならないのだ。息子は機嫌良く目の届くところで遊んでいるようなので、物置から洗車セットを取り出した。

 ホースから吹き出す水を思わずそのままかぶってしまいたくなるような暑さだった。帽子をかぶるのを嫌がる息子の頭からもレンズのような汗が噴き出している。そうか。洗車が終わったらプールに行こう。息子はまだおむつが取れてないから連れて行けないが、娘と二人で行こう。

 玄関を開け、身体に張り付いたTシャツを脱ぎながら「おーい、プールに行くぞ」と声をかける。すると2階で本を読んでいた娘が、駆け下りてきた。「ほんと? ほんと? ママ、プールだって、早く用意して」。僕が手を洗い用意している間に、娘はすでに水着を着、妻に脹らませてもらった浮き輪を身につけ、先日買ってやったゴーグルもかぶっていた。

「お前はほんとにおバカだな」と笑いかけると「なんでよ、去年パパが着替える時間がもったいないから家から着ていけって言ったんじゃない」と膨れてしまった。そうだ、去年の夏もこうやって何度も県営プールに足を運んだのだ。

★   ★   ★

 僕の父親は海が好きだった。それも並大抵の好きではなく、僕が生まれるまでは、ダイビングのために日本中きれいな海を求めて旅するような男だった。「あの頃はウェットスーツなんて売ってなくてさ、生ゴムを買ってきて自分たちで縫ったんだよ」。酔うとさかんに海の話をした。

 だから年に一度の家族旅行は、海と決まっていた。夏休みになると、三浦海岸や伊豆まで近所の家族とともに電車に揺られ、父親が気に入っている海岸に向かった。

 僕自身も、海が好きだった。特に潮だまりの生き物がたまらなくおかしく、イソギンチャクに指を入れたり、ヤドカリを捕ったり、時にはウツボに噛みつかれたりと、潮だまりが本当の海に戻る寸前まで遊んでいた。

 海に着くと父親は、もはや僕らには興味がなく、使い古したまん丸の水中眼鏡と銛を片手に、海に潜っていた。そして昼頃には貝やウニを袋から溢れんばかりにさせ、「うめえぞー」と呟きつつ、大きなナイフでウニを割っていた。僕はなまものが食べられないので、じっと見つめるだけだったが、5歳離れた兄貴は、父親に素潜りを教わり、自分で獲ってきたウニを美味そうに食べていた。

 僕が夏になっても半ズボンを履かなくなった年のことだ。
 海に向かう列車のなかで、山を越え、ぐるっと電車がカーブするところで、真っ青な海が見えた。毎年のことなのだが父親は初めて海が見えると思わず歌を歌い出す。
「海は~広いな~大きいな~」
 それも鼻歌ではなく、心底そう思っているような大きな声で歌うのだ。

 しかしそのとき僕の座っている後ろの座席で若い人の集団から笑い声が起こった。僕は顔が真っ赤になったのが自分でもわかった。それでも父親はまったく気にせず、海を見ながら歌い続けた。父親に辞めてよとは言えず、早く歌が終わってくれと下を向いて願っていた。

 その翌年は、夏休みが近付くのがイヤだった。そしてなるべく海の話が出ないよう気を遣っていた。しかし当然のようにその年も海に行くことが決定事項としてあり、父親はいそいそとガイドブックを取り出していた。

 そんな父親に母親が言った。
「今年はお兄ちゃんは高校受験で夏休みも塾だって。」
「何、言ってるんだよ。夏の2,3日海に行ったって関係ないだろう。塾なんて休ませろよ」
「じゃあ、本人にそう言ってよ」

 父親は兄貴を呼び出し、説得したが、兄貴は兄貴でかなり高望みした高校を目指していたのでかたくなに拒否した。勉強するという子供を強引に旅行へ誘うわけにもいかず、兄貴はひとり家に残って、留守番をすることになりそうだった。勘弁してくれ。僕はあわてて声をあげた。

「じゃあ僕も行かない」

 父親やビックリして僕を見つめた。何も言わなかったが、その目はとても哀しそうだった。
 その年以来家族旅行はなくなった。


★    ★    ★


 プールに飛び込むと娘は大はしゃぎだった。子供プールに、流れるプール、波の出るプールとすべてのプールで遊び、最後は子供プールに戻って、去年の続きで泳ぎの練習を始めた。

「もうあがろうよ」

 すっかりくたびれてしまった僕が先に音を上げたが、娘は「まだ泳ぐ」の一点張り。

「じゃあさ、パパはテントにいればいいじゃない。それで私の泳ぎを見ていてよ」

 プールサイドに張った日よけテントを指さし、娘はそういった。去年までは首まできていた水面が今年は胸の下までしか達していない。

 ここなら大丈夫か。僕は娘のいうとおり日よけテントの下にゴロリと横になった。
 真っ青な空に、真っ白な雲。水を叩く音。歓声。

「パパ、パパ! パパってば。見てよ、今すごい泳げたんだから。手はこうでしょ」

 そう叫ぶ娘の頭上で、太陽が力強く輝いていた。

7月27日(木)

 今春卒業していった助っ人アルバイト・立野から連絡が入り、急遽飲むことに。

 彼はもともと好きだったファッション雑誌の出版社に就職していったのだ。月刊誌に別冊2本が彼の編集部のノルマで、今週やっとほんの少しだけ暇が取れたという。

 彼が在籍していた頃、一緒に働いていた現役の助っ人の鉄平、アマノッチ、本池とともに新宿・海森で夜更けまで酒を飲む。

 すっかり編集者らしくなった立野と本池に「鉄平の日記は最近つまらない」なんてダメ出しをされ、酒の飲めない鉄平は手を振るわせてウーロン茶をガブガブ飲んだ。

 そんな立野は鞄のなかに他社の雑誌を持っていた。
「レイアウトとか写真とかすごい参考になるんですよ」

 ガンバレ! 立野!
 負けるな! 鉄平!

7月22日(土)炎のサッカー日誌 2006.12

「修羅場3」なんて本日の相手、川崎フロンターレはJリーグ再開後の鹿島、浦和、G大阪と続く3試合を名付けたが、なーにお前らほんとの修羅場を知らんだろう。

 ホンモノの修羅場はな、こんなスタジアムにあるんじゃなくて、俺の家にあるんだよ。今日だってよ、こんなシーズン半ばでアウェー観戦は年に1回という妻との協定を行使するわけにはいかず、さいたまスタジアムで試合なんて嘘をついて家を飛び出してきたんだぜ。BS放送見られたら一発でバレルから、アンテナ引っこ抜いて来たんだぜ。今週は水、木、金と飲み会の連チャンでただでさえ機嫌の悪かった妻の顔が、サッカーに行くって言った瞬間、阿修羅そのものになったよ。どうして俺は携帯電話を隠す代わりにシーズンチケットを隠さなきゃなんないんだよ。

 そうはいっても首位相手の試合で、今日勝たなきゃ価値点差がずーっと広がることを考えりゃ、妻に嘘を付いてでも、駆けつけないわけにはいかないだろう。俺がいなけりゃレッズは勝たない、つうか俺=浦和レッズなんだから。

 なんて気持ちは、等々力競技場を埋めた4割以上のレッズサポ全員が持っていた気持ちだろう。特に山田暢久が退場になってからの前半終了時の「WE ARE REDS」コールにはほんと魂が籠もっていて、叫んでいる自分も鳥肌が立ってしまった。俺たちは元々12人で闘っているから、誰か一人かけても、これでちょうど11人対11人のイーブンだ、きっと選手達にも伝わったはずだ。

 しかも俺たちには、ついに怪我から復帰したワンダーボーイ・田中達也がいるじゃねえか。あれだけの怪我に見舞われた選手が、敵を恐れずボールを追い、ドリブル突破を試みる。彼には恐怖心というものがないのだろう。それこそがまさにFWに求められるものだ。まさにスーパーなFWに。

 2対0の勝利。

 さあ、暑い夏が始まった。これから連勝街道といこうぜ! 浦和レッズ!

追記)本当の修羅場は帰宅した家にあった。
「さいスタでやったはずなのに、家の前をさいスタ行きのバスが通らなかったのよね…。バスの通るコース変わったのかな?」

7月21日(金)

 昨夜は遅くまで取引先の印刷会社の営業マンと酒を飲む。

 彼が営業で来たときからどっかで見たことがある顔だなと思っていたのだが、なんと地元が一緒で、学校をサボっていた喫茶店も一緒だったのだ。年はひとつ違いだから、その辺で顔を合わせていたのだろう…と思っていたが、なんとそれだけでないことが本日判明。なんとなんと僕がプータローの頃、毎日通っていたパチンコ屋で彼がバイトしていたというのだ。おお、確かにそこで見ていたよ。僕のドル箱を運んでいただろと大盛り上がり。

 営業マンをやっていて参考にするのは当然他の営業マンだ。彼はそんなに押しが強いわけではないけれど、レスポンスが早く、しかもトラブルが起きたときの対処がしっかりしているのが心強い。そうかそうかお客さんというのは何も多くのことを求めているわけでなく、普通に丁寧に仕事をするというのが大事なのだ。

 その彼が酔っぱらって吐き出した言葉が、翌日になっても忘れられない。

「何がD社だ、T社だって。バイク便って何ですか? データって何ですか? 僕はお客さんのところに自分で行きますよ。」

 そういえば、だからこそ彼を信用しているわけで、そうかしっかり訪問するってことが一番大事なんだよな、やっぱり。

7月20日(木)

 昨日訪問した、とある大手書店の担当者さんと話をしていたら、アルバイトが集まらないという話題になる。例え入ったとしても2,3日で辞めていかれてしまうことが多いそうで、ただでさえ、売り場は人手不足なのに、いやはやどうしましょう、と深いため息。

 アルバイトの人材不足は多くの書店さんが頭を抱えている問題で、いまやほとんどのお店にアルバイト募集の広告が貼られているほど。学生の絶対数が減っているのだから、足りなくなるのは当然なのか、それともやっぱり書店の労働環境や条件が問題なのか? 

 アルバイトの問題だけでなく、社員や契約社員も30歳くらいで辞めていく人が多い。疲労困憊で身体を壊したり、今後の人生を考えたらとてもこれじゃ食っていけないなどがその理由だ。

 このままいくと、本が売れないんじゃなくて、売る人がいなくなるなんてことになるのではなかろうか。

7月19日(水)

 藤原の机の上に『エンターテインメント作家ファイル108 国内編』の束見本とゲラを見つけ、胸がドキンとなる。

 自分の頭のなかにあったイメージが約1年の時をかけて、こうやって本になるのか。レイアウトも藤原と組版担当のカネコッチがしっかりタッグを組み、僕の想像以上の出来。あとは装丁か。山田英春さん、よろしくお願いします。

 というわけで雨も関係なく夢中で営業。しかし営業マンが「絶対売れる」とか「絶対面白い」という本は売れないというジンクスもあり、どうトークしていいのか難しい。でもでもやっぱり気持ちが相手に伝わるのか「面白そうですね、ちょっと増やして発注しますね」なんて多めの注文をいただける。

 そういえば以前とある書店さんで「杉江さんって何でいつも自信なさ気なんですか?こんな面白い本営業しているのに」と叱られたことがあったのを思い出す。それは決して本に自信がないわけでなく、自分に自信がないから弱気なんだと思うけど、営業マンから熱意が伝わらなければ仕入れる方も困るのは当然だろう。

 次に廻ったお店では、突然初対面の店員さんに「確かに面白そうですね。自信ありますか?」と聞かれ、とっさに「あります!」と大きな声で答えてしまった。「じゃあ、この数で」とここでも多めの注文をいただく。

 やっぱり気持ちって大事だな。
 そしてその気持ちが、本に乗りうつるんだよね。
 僕はそう信じているからこそ、本が好きなんだ。

7月18日(火)

 3連休中に部屋の掃除をしていたらかつてやっていたPSのゲームソフトを発見。

『蒼天の白き神の座』

 とても地味な山岳登山ゲームなのだが、突風や雪崩を避けつつテントを張り、頂上に登れたときの快感がたまらない。思わず電源をいれてしまったおかげで、昨夜は徹夜。8000メートルの頂上を目指し、我が浦和レッズ登山隊は、ただいまアタック中。

★    ★    ★

 先週はあんなに暑かったのに、今週はスーツの上着が必要なほど寒い。おまけに大雨で、これじゃ営業もつらいが、売上もツライ。

 そんな営業の移動中、ピヨピヨ音が聞こえてきた。

「誰か俺みたいに子供のたまごっちの世話をさせられているんだな、早くウンコ掃除してやらないと死んじゃうぞ。余計なお世話だけど音は消しておいた方がいんじゃないか?」なんて思っていたら、なんとそれは僕のたまごっちだった。音を消すのも持っているのもすっかり忘れていた。鞄から取り出すのは恥ずかしいので、鞄のなかに手を突っこみウンコを流し、ごはんとおやつ。

 深夜+1を訪問。店長の浅沼さんがただいまずっぷりハマっているカール・ハイアセンを強烈に薦められる。

「ほんとにほんとに面白いんだよ! 絶対読め!」 

 浅沼さんが、こんなにハマっているのは『極大射程』のスティーブン・ハンター以来なのではなかろうか? 扶桑社文庫以外、理論社の『HOOT』や『FLUSH』も積んであり、 いやはやすごい熱の入れようだ。確か自宅に『トード島の騒動』が(扶桑社ミステリー)積ん読になっているはずなので、すぐさま読む約束。

 しかし次に訪問した飯田橋の文鳥堂さんでビックリ! 入り口に何だか張り紙が貼ってあり、あわてて読むと、うん? 7月末で閉店?! あやー。

7月14日(金)

 通勤読書は蜂谷涼著『雪えくぼ』(新潮社)。ついに講談社以外の大手からも蜂谷さんの本が出るようになったのか…と感慨もひとしお。もっともっと読まれていい作家だと思う。ちなみに本書は濡れ場が多く、まさに『中年授業』向き。

 書きたくないけど書かずにおれない。
 暑い、暑すぎる。
 7月半ばでこの状態。果たして僕は無事秋を迎えられるのだろうか?
 
 8月の新刊はやっと本日タイトルが決定した『エンターテインメント作家ファイル108 国内編』北上次郎著。

 これは僕自身が読みたくて思わず作ってしまった1冊だから営業にも力が入る。読んだことのない新しい作家と出会いたいとき、あるいは読む本に困ったときにはとても役に立つ本になること間違いなし。北上次郎と浜本を無理矢理口説いて使った本なので、是非、皆様買ってください。

 もちろんガイドブックとしての要素だけでなく、北上節炸裂の書評を堪能できます。30年間のなかから選りすぐりの書評を集めているので、結構書き方に変化があったりして面白い。

 また作家名五十音順で辞書風にレイアウトし、ベスト10などの付録も付けたりした。面白い本にするために考え得る限りのことはしたと思う。8月末発売予定。

 乞うご期待!というか、ぜひぜひ、よろしくお願いします。

7月13日(木)

 昨夜は出版業界サッカーバカ飲み会に参加。終電ギリギリまでジーコと川淵の悪口を言い合い、まったく客観性のない今後のJの予想をし合う。出版社と書店が集まれば、どんなに遊びといっても仕事の話が出るもんだけど、この飲み会だけは100%サッカーのみの話で盛り上がる。本日も3時間半、すべてがサッカー話。いやはや正真正銘楽しい飲み会。持つべきモノは友である。

 しかしその盛り上がりの最中に、ジュビロサポのS出版社Nさんに真顔で言われた一言が気になる。

「杉江さんってほんと不思議ですよね。ここでのその顔と本屋大賞とかの顔、180度違いますもんね」

 ムムム。

 通勤読書はサッカー流れで『サッカーボーイズ―再会のグラウンド』はらだみずき著(カンゼン)。よもや僕にとっては白水社及びNHK出版と並び良質なサッカー本を出す出版社と認識しているカンゼンが出したサッカー小説。

 どこにでもある少年サッカーチームの1年を描いているのだが、所属していた中学校のサッカー部をまざまざと思い出す。足は速いが3年間オフサイドを理解できなかったテッパン、ダジャレのような名前のタカハシタカシ、そして大宮アルディージャになる寸前までNTT関東でサッカーをやっていたフミドン。みんな元気にサッカーやってるかな? もしかして下手くそだった僕の方が続けていたりして。

 しかしチームというのはこの『サッカーボーイズ』で描かれてように、凸凹で、身勝手で、ムカツク奴がいて、でも勝つために突然まとまったりするんだよね。ドイツW杯に出場した日本代表選手に読んで欲しい1冊。

 朝、起きたときは飲み過ぎでフラフラだったが、外に出たら太陽光線にクラックラッ。
 アヂー。もはや東京は人の住むところではないだろう。いや間違いなく営業マンが活動できる場所ではないだろう。とはいっても売上は必要だから、僕たち営業マンは、追い出されるように外に出る。

 日陰を探しながら、なるべく自動ドアを開けつつ、書店さんに向かう。
 書店さんに辿り着けば、ライフマークがひとつ回復。担当者さんに会う前に、一番クーラーの効いていそうな場所を探す。そしてライフマーク全快になったら担当者さんに声をかける。できるだけ長くお店にいられるようにしたいけれど、それは仕事の邪魔でしかないので、いつもどおり仕事が終わったらお店を出る。ああ、そこは地獄の亜熱帯。また次のお店に向かうために、日陰を探し…の繰り返しだ。

 田町のT書店さんでは、同じくサッカーバカのKさんが休憩中だったので、その休憩先まで押しかけW杯の話で盛り上がる。次に訪問した品川のA書店さんでもちょうど休憩に出るところだったサッカーバカのMさんとサッカー話で盛り上がる。

 結局、僕はサッカーの話題しか出来ないってことだな。

7月12日(水)

 実はこの仕事を辞めたら漁師になろうと考えていて、そのためにポツポツと漁師関係の本を読んでいる。そんななか見つけた『飽食の海 世界からSUSHIが消える日』チャールズ・クローバー著(岩波書店)は、そんな甘い気持ちを打ち砕く衝撃の1冊であった。

 それまで読んできたどの漁師本でも「魚が採れなくなった」という、まるで出版業界の「本が売れなくなった」という同種の嘆きが聞こえてきたのだが、それは僕が考えているような採れない=乱獲と資本漁業(もっと大きな漁業)の採れないではスケールがあまりに違うことを知る。まさに一網打尽。

 しかもいわゆる毛の生えた動物に関するほど海洋生物のデータも保護も進んでいないため、今、日常的に食べている魚(クロマグロや大西洋タラ)が実は「絶滅危惧種」だったりして、おいおいトキを食べているようなもんだったのかと思わず吐き気を憶えたほどだ。

 そして漁業によって殺される海洋生物のうちで、実際に人や動物の食べものになっているのは捕獲全重量の10%足らずだそうで、残りの90%は雑魚として捨てられている(殺されている)というだから、もう目から鱗というか、無知を恥じる以外ない。その雑魚のなかには珍しい海洋生物も多数紛れ込んでいるそうで、この本を読むとなぜエチゼンクラゲがあれほど大騒ぎになったのか?とか、最近スーパーの魚売り場に聞き慣れない名前の魚(深海魚)が多いのはなぜ?なんて疑問が解ける。しかし解けて満足するのではなく、恐ろしくなる一方だ。まさにこの本は海版『沈黙の春』である。

 こういう本は、ついつい目くじら環境本でしょう?なんて勘ぐってしまうが、著者はイギリスの『デイリー・テレグラフ』紙のベテラン記者で、もっと冷静で、批評的だ。だからこそ読後は背筋が凍えるほど冷たくなってしまう。

 とにかくひとりでも多くに人に読んで欲しい1冊。そして今年のノンフィクション・ベスト1間違いなし! 「本の雑誌」も小説ばかり取り上げず、こういう硬派な、それでいてページをめくるのがやめられなくなる本もどんどん紹介して欲しいぞ…って僕が紹介すればいいのか…。

7月11日(火)その2

9時30分出社。

昨夜遅くまで苦労したのだが、結局自分のPCとスキャナーがうまく繋げず、取込みたかった既刊書の表紙画像は藤原のPCでスキャンすることに。

実は先日アマゾンの販売データを集計していたら、どうもリアルと違う売れ行きを示す本があって、何でだろうと自分なりに推考したのだ。でその回答はアマゾンのサイトに表紙画像が載っていないから。これでは売れんだろう。

というわけであわてて自社本のアマゾン全データをチェックし、表紙画像の掲載されていない書籍をピックアップ。それを昨夜から本日にかけて取り込んでいるのだ。ああ、在庫のない本までスキャンする必要はないか…。

11時。スキャン終了。アマゾンの画像受付部(?)に送信。2,3日後には小社出版物のほぼ全ての表紙画像がきちんと載るかな…なんて思っていたら、ときわ書房聖蹟桜ヶ丘店の高頭さんイチオシの「スコットくん」にも表紙画像が付いてないではないか。余計なお世話だけど、中公さんもスキャンしましょう。

そのスコット君を売り出すために有志書店員が集まったのがチーム・スコット(http://www.chuko.co.jp/bunko/scott/)だとか。スコットファン及びフジモトマサルさんファンの書店員さん、ぜひご参加ください。

酒飲み書店員幹事長の松戸良文堂の高坂さんから電話。
その集まりで大推薦している『ワセダ三畳青春記』(http://www.webdoku.jp/event/sakenomi.htm)に、あろうことか集英社さんが「酒飲み書店員推薦帯」を付けると言い出し、その校正。

僕以外全部書店員さんなので、僕のコメントがない方がいいでしょ、取っちゃってくださいと伝えておいたのだが「それは出来ません」とあえなく却下。じゃあせめて「本の雑誌社 炎の営業 杉江」と書かれている「炎の営業」だけでも恥ずかしいので取ってくれませんか?とお願いするが、それも「面白くないじゃん」と却下。高坂さん、たぶん子供の頃からいじめっ子だったのではないか。

昼飯は隣のファミマでフレッシュサラダとカレーパンとおにぎり1ヶ。
禁煙が成功(2年2ヵ月!!)したので、今度は禁カップ面&野菜食える男になろうと挑戦中。

午後から営業。下北沢と新宿半分。娘に頼まれて世話しているたまごっちが生まれたばかりでうるさいのなんの。ウンコばっかりしてんじゃねーぞ。

新宿のブックファーストルミネ1店で面白いフェアを発見。
題して「暁の女社長」フェア。いわゆる女性社長の本を集めたフェアなのだが、このタイトル良いよなぁ。このお店でこのフェアの前までやっていたサッカー本も素晴らしい品揃えで、フェア入れ替えが毎度楽しみ。

なんて感心しつつ紀伊國屋新宿南店に向かったところ、3F入り口付近で行われている「歴史・時代小説フェア 小説で楽しむ日本の歴史」(http://www.kinokuniya.co.jp/01f/event/event.htm#minami_fair1)フェアに腰を抜かす。なんとなんとこの時代小説のフェアは、ただたんに時代小説を作家別で並べたのではなく、そのなかに描かれている出来事・主人公などの時代ごとに並べているのだ! だから同じ出来事をいろんな作家が書かれていたり、あるいはその流れ自体も分かるので、なるほどなるほどなんてこの棚を眺めているだけで勉強になる。素晴らしい、素晴らしすぎる。これそのままブックガイドとしても出版できるのではないか?

あわてて顔見知りの書店員さんに話を伺うとやはり相当好き者が企画し、展開しているとか。
「フェア入れ替えのときは、歴史好きの男性スタッフが集まり、ああでもないこうでもないとうれしそうに話してましたよ。始まってからも巻数ものなどの欠本が出ないようしっかり補充するよう心がけてます」

うー、これをこのままフェアだけで終わらすのはあまりに勿体ないのではないか。ぜひこういう棚を常設していただくか、あるいは紀伊國屋書店各支店巡業するというのはどうだろう。

7月11日(火)

 朝、目が覚めたら4時だった。体内時計が完全にドイツW杯モードになってしまっているようだ。

 僕は根本的に浦和レッズ命で、W杯中もどうしてJ1リーグを中断するんだ! J2みたいに続けてくれよ、2ヵ月もレッズを見られなかったら泣いちゃうぞ。でもそれだと我が浦和レッズから3人も日本代表に選ばれていて損だな…なんてぐちぐち文句を言っていたのだが、今回W杯をほぼ全部見て、W杯の良いところを発見した。それは毎日やっているということだ。

 しかしこれはマズイ。サッカーバカがバカで済むならまだどうにか生きていけるが、こんなもの毎日見ていたらサッカー廃人になるしかない。現にこの日記も6月28日のベスト8辺りで止まってしまい、J出版社のHさんから「早く書け」というクレームによりまた再開した次第なのである。しかししかし日記だけならまだ良い。誰にも言えんが6月と7月の売上が…。オーマイガッ!

 しかもしかもW杯の見過ぎで夏風邪を引き、先週は体調不良。

 私的ドイツW杯ベストマッチのイタリアVSドイツの日は、夜中の3時になぜか目が覚めたと思ったら猛烈な腹痛と吐き気。ゲリゲリゲロゲロの中村俊輔なみの絶不調。

 それでもこの試合は見逃すわけにはいかないと4時には肛門に力を入れ、トイレから這いずり出て、観戦していたのだが、それは前半終了間際のことだった。テレビにはロスタイムの表示が映し出されたのだが、私の肛門にはロスタイムがなかった。私の肛門はイタリア代表のGKの名前を叫んだ。

「ブッフォン!」

 34歳、男子。W杯観戦中にウンコを漏らす。嗚呼。

★   ★   ★

 さすがにウンコを漏らしてほっとくわけにも行かず、数年ぶりに病院に行く。

 そんな感じで私のドイツW杯は終わった。たぶん敗北。

 さぁ、サッカーバカの皆さん、仕事しましょう。

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