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8月31日(木)

 面白い、というか不思議なもんだ。だから営業は辞められない。

 というのも営業しながら、今月の新刊『エンターテイメント作家ファイル108 国内編』北上次郎著の売れ調(売れ行き調査)をしているのだが、とあるお店では初回10冊入れてすでに完売、追加でまた10冊直納していたりする。また規模も場所もほとんど変わらない別のお店では、5冊入れて1冊も売れたなかったりする。毎回動きの速いお店もあれば、じっくり動くお店もある。どちらも同じような棚に置いてあるのに、こんなハッキリ違いが出るのはなぜなんだろうか?客層の違いもあるだろうし、天気だったり、曜日だったりもあるだろう。

 そうそうとある駅前の本屋さんで聞いた話だが、「女性誌の発売日が土日なってしまうと、もうその月の売上はガタッと落ちる」なんてこともあるそうで、しょせん人間を相手にしている商売だからいろんなことが起きるのは当然のことだろう。

 とにかくそんな売れ帳に一喜一憂喜怒哀楽しつつ、夕方まで営業。その後、ジュンク堂池袋本店へ。本日は翻訳文学ブックカフェPART.19なのだ。

 ところが、担当の田口さんにお会いすると「待っていたのよ」とカウンターの中から何やら取りだし、渡される。それは、おお!田口さんの新作『書店繁盛記』(ポプラ社)ではないか! 来週発売予定(9月6日搬入)なのだが、その見本を頂戴してしまった。ありがとうございます。

 中をペラペラめくってみると、ネットの連載分を話題によって再構成しており、とても読みやすくなっているしイラストがかわいいのなんの。『書店風雲録』が過去の書店(リブロ)を描いた作品であったのに対し、今回の『書店繁盛記』は現在の書店を描いているといった感じ。臨場感たっぷりだし、最後「若い書店員へ」は出版業界人必読の文章だと思う。

 さてそんなことで盛り上がりつつ、翻訳文学ブックカフェがスタート。今回のゲストは新潮社のクレスト・ブックスの翻訳や『石の葬式』パノス・カルジネス(白水社)の翻訳で活躍されている岩本正恵さん。ところがその話を聞いていると隣りに立っている発行人の浜本はしきりに「こんな人前で立派に話せるようになるとは」なんて感慨深げ。うん? どうして?

 こちらは打ち上げの飲み会で教えていただいたのだが、なんと岩本さん、元・本の雑誌社の助っ人アルバイトだったそうなのだ。しかも浜本が大事にしていた『百年の孤独』G・ガルシア=マルケスにコーヒーをこぼしたことがあるのそうで、そんなことより、そのことを20年近く経ってもブツブツ言っている浜本が恐ろしい。この人、食べものと本の恨みは忘れないってことか?

8月30日(水)

 とある書店さんを訪問するとちょうど平台を耕しているところだった。8月も終わりになってドカドカ新刊が出ているのだ。

「もうちょっとズラしてくれるといいんですけどね。宮部みゆきに乃南アサに新堂冬樹と森博嗣は2点だし、米澤穂信は大注目! でも平台は限られているから、どうしても扱いが小さくなっちゃう。お客さんのお財布だってひとつだし。どれを大きく展開するかほんと悩みますよ。これから秋にかけてはもっと点数が増えるから、新人作家とかは違う時期にした方がいいですね」

 うーん、結局、損をするのは出版社なのだから、この辺やっぱりしっかり考え直した方がいいのでは。

 そんな話を終えてお店を後にしようとしたら、別の店員さんが追いかけてくるではないか。僕、万引きしてないっすよ。

「す、すぎえさん! 佐藤多佳子の新刊『一瞬の風になれ』(講談社)が無茶苦茶良いんですよぉ!!」

 おいおい、人を追いかけてまで伝えたい面白本ってすごくないかい? しかもその『一瞬の風になれ』は、前日に訪問した有楽町のS書店Nさんも大絶賛していたのだ。

 くう、読みたい、でも読めない。だってこれ8月から3ヵ月かけて1巻づつ発売される全3巻ものなのだ。そんなもん1巻だけ先に読んで続きは1ヵ月後よ、なんてまるで『バッテリー』の6巻を待ったときのようなことは、もうこの短気なレッズバカにできるわけがない。

 とにかく全3巻出たらお店に買いに来ますからと約束し、10月のその日を待つ。あー、読みたいよー。

8月29日(火)

 油断したのが間違いだった。秋は一日で終わり、本日はまた真夏の暑さ。
 
 昨夜追加注文のあった銀座A書店さんへ『エンタメ108』を直納。
 うーむ、ほんとに結構売れてるかも。

 とある書店さんで相談を受ける。そのお店、なかなかセレクト色の強いお店なのだが、どうもそれが客層に合ってないのではと悩まれているようなのだ。いやもちろんそのセレクトしている部分は部分で売れているのだが、売上を伸ばすためにはもっと普通の本も置いた方がいいかと考えられているのだ。

 うーん、これは難題だ。いやもちろん客層に合わせて品揃えしていくのはお店として当然のことだと思うけど、だからといってどこまで擦り寄るべきなのか。そのバランスは難しい。それはお店全体もひとつの棚も一緒ではなかろうか。売れる本だけ置けばいいのではなく、そのなかに売れないけどそそる本があれば、棚からお客さんが受けるイメージが全然違うだろう。その辺は雑誌作りにも共通するのではなかろうか。

 そんな話をしていたら、いきなり話題が目黒考二に飛んだ。

「笹塚日記で本人が書いてましたけど『外れ馬券に春よ来い』のあの表紙はないですよ。あれじゃ浅草の場外にいるオヤジじゃないですか!」

 えっ?! だからその浅草の場外にいるのが目黒なんですよ、社員の間では似すぎと大好評なんですよ、といくら言っても「そんなこと絶対無い」と信じてくれない。

 おかしい、おかしい。なんであんなチョイデブ、もとい、かなりデブオヤジがもてるのか? うーんこんなこと書くとまた「いじめないでください」と怒られてしまうのだ。もしかして目黒さん、母性本能くすぐってる? 

8月28日(月)

 トンネルを抜けたら秋だった。上着を着ても良いくらいの涼しさ。

 通勤読書は『三都物語』船戸与一著(新潮文庫)。『めくるめくめくーるな日々』のリブロ矢部さんといつかオヤジ本ガイドブック及び棚を作りたいね、なんて話しているのだが、まさにそのなかに入れたい一冊。目新しくはないが通勤時間が楽しくなる本の代表だ。

 しかしこういうベテラン作家は損だなと思う。書評などで紹介されることもほとんどないし、書店さんでPOPを付けてもらうこともあまりない。出版社だって決まった数売れればOKと考えているのではなかろうか。でも新人、中堅の作家に較べたらまだまだ実力も面白さもずっと上で、うーん、そういうガイドブックが作りたいな。
 
 4日ぶりの会社は、当然何も変わっておらず、面白くも何ともない。
 校了前の浜本と松村は狂気、藤原はいつでも暢気、浜田はキィーキィー叫んでいる。

 そんななかちょこちょこと『エンターテインメント作家ファイル108 国内編』の追加注文が入り出す。もしかして売れてる?

8月23日(水)

 今月の新刊『エンターテインメント作家ファイル108 国内編』北上次郎著の搬入日。
 うれしいというよりは、不安でいっぱい。売れると良いんだけど…。

 実は明日から二日間夏休みを取ったのだが、それは何を隠そう本日開催のJ1リーグ、浦和レッズVSアルビレックス新潟の試合を本気で応援するためだった、のだが、先週妻がぼそりと「このままじゃ絵日記に書くことないよねぇ」なんて娘に向かって呟いたため、明日は急遽ディズニーランドに家族を連れていくことになったのだ。果たしてレッズ戦の翌日にそんな体力が僕に残っているんだろうか? ツライのは日本代表に呼ばれる選手だけではないのである。超零細出版社ひとり営業マン兼二児の父も結構ツライのである。

 とっとと仕事を蹴飛ばし、一路さいたまスタジアムへ。

 そこで待っていたのはS出版のヤタベッチで。こいつは本日半休を取っての参戦だ。そのヤタベッチ、開口一番「『サッカーダイジェスト』が…」と呟く。

 そうなのである。我が愛するサッカー雑誌『サッカーダイジェスト』の編集長と幾人の編集者(そのなかには我が愛する浦和レッズ担当の優秀な記者も含まれる)が、突然揃って退社してしまったのである。

 これはどこぞのチョイ悪編集長の退職騒ぎどころではない。なぜならこの編集長、惨敗を期したドイツワールドカップ後に、ポマードオールバックタヌキこと川淵の批判をしっかり繰り広げてきた偉い編集長なのである。

 ということは、もしかしてどこぞから圧力をかけられたということなのだろうか? もしそうなら許せんぞ、川淵。ワールドカップの責任も取らず、オシム、オシムなんて騒いで誤魔化し、そこを追求されたらこう出るのか! サポを舐めるな! そしてサッカーを愛する人間にとっととサッカーを返しやがれ!

 うーむ、試合が始まる前にこんな熱くなっていいんだろうか? つうか本の雑誌社にお金があったらみんな雇ってサッカー雑誌を創刊したのに。もちろん1号目の特集は「川淵にレッドカード!」なんだけど。

 キックオフ!

 相変わらず代表疲れを引きずっているのか、長谷部の動きがよろしくない。今までだったらドリブルでしかけるところを安全なパスを回してしまう。これを乗り切らないと一流選手になれないのは本人もわかっているだろう。ガンバレ! 長谷部。

 本日その穴を埋めたのは、代表に選ばれなかった小野伸二と怪我から復帰したワシントン。小野がついに目覚めたのである。凄まじい執念でボールを追い回し、背筋がゾクゾクするパスを出す。散々言われてきたゴールへの執着心も生まれ、いやはやこれはたまらない。

 そしてワシントンである。どうしてこのFWはゴール前でこれほど落ちついてられるのか? 日本人FWの全員が爪の垢を煎じてもらった方がいいのではないか。1ゴール、2ゴール、3ゴールのハットトリック完成で、先制されたものの3対1の逆転勝利!

 さーて、明日はディズニーランドでネズミと対決だ!

8月22日(火)

 新宿Y書店のNさんを訪問するなり「北上次郎の新刊いつでしたっけ? 出たらすぐ買いますからね」と声をかけられ感動。

 そのNさんが悩んでいるのが来月下旬に出る『新宿鮫9 狼花』(光文社)の仕入れ部数。前回の『新宿鮫7 灰夜』(光文社)から5年経っており、しかも今回は光文社さんなのに単行本で出るから、どう注文したらいいかわからないと頭を抱えている。(って毎日新聞の『風化水脈』をアマゾンで検索したら60%オフって何だ! あややバーゲンブック? こんなこともやられていたのか?!)

 5年振りということより、単行本というのがどう出るかだと思うけど、原リョウの『愚か者死すべし』があれだけ売れたんだからハードボイルドファンは結構しぶといのでは?自分も含めてなんですけどと話す。

 ノベルスという器を捨ててしまった大沢さんと違い、文庫という器を大切にしつづける佐伯泰英さん。こちらはなんとあれだけ売れているのに、未だに読者が増えているとかで、かつての25%増しで初回発注しているとか。そういえば綾瀬のY書店さんでも「最近は女性のファンがついてきたね。まだまだ伸びるんじゃない」なんて話されていたが、いやはや恐るべし佐伯泰英。

 その後とある書店さんではこんな話が。

「POSとか自動発注とかになって昔に較べたら仕事が楽になって、その分書店員として大切な考える部分に時間を使うはずなのに、それが出来てないんですよね。うーん。」

 確かにその考えた部分こそがリアル書店の強みであって、だからこそ書店さんはお客さんにとって発見の場になっていると思うのだが。

 そんな話と繋がっているのかわらからいけれど、歴史ある町の書店、経堂のK書店さんから8月いっぱいで閉店しますとの連絡が届き、ビックリしていたら、南青山のH書店さんの店頭にも「閉店のお知らせ」の張り紙が貼ってあるではないか。どちらも町に根付いたしっかりした町の書店さんだったので大ショック。やはりもうこれは努力とかでは、小さな書店さんは保たないということなんだろうか?

 そういえば『U-50』で今野書店さんを取材したとき今野さんは「別にネット21を勧めるわけでなく、どう考えてもこういう方法しか生き残る方法がないんですよ」なんて話していたっけ。

 先日地方小流通センターさんを訪問したとき川上社長は「アマゾンが売れてる売れてるといっても出版全体では下がっているんだからどうしようもない」なんて話していたけど、確かにそうだ。

 ネット書店さんのおかげで本は探しやすくなり、なかなか本の手に入りづらいところに住んでいた人にとっては相当なプラスになったはずだ。しかし現実にはそれがプラスとして乗るわけではなく、出版全体の売上はさがる一方。つうか、ネット書店がなかったら今頃出版業界はどんな世界になっていたんだろうか?

 うーん、こんなこと書きたかったわけじゃないのに、書きだしているうちにここ最近抱えていたもやもやが出てしまい、しかもどれも尻切れトンボで結論もない。スンマセンです。

 とりあえず本日最後に訪問したのは、有隣堂さん撤退後にオープンした青山ブックセンター六本木ヒルズ店。六本木店の尖った感じと違いいたって普通のお店だが、ここにはこういうお店が確かに合うだろう。ビジネス書とか売れるのでは? なんて考えつつお店を眺めていたが、このビルの外商を抑えたら結構な金額になると思うんだけど、それはどこが持っているんでしょうか。

8月21日(月)

 相変わらず暑い。けれどその暑さのなかに秋の気配を感じるのは気のせいだろうか。

 それにしても色んな人に「日焼けしましたねえ。夏休みどこかに行かれたのですか?」と聞かれるのだが、いやはや、まだ夏休みも取ってないし、どこにも行っていない。これは正真正銘の営業焼け、もしくはサッカー並び焼けだ。

 レッズサポ仲間のJ出版社のHさんは、営業から編集へ異動して初めての夏を迎えているのだが「もう営業には戻れない」と鹿島遠征の車のなかで呟いていた。いや彼女は、元々営業マンになりたくて出版社に入ったほどの熱い営業魂をもった人間なのだが、一度内勤の味を覚えてしまったらとてもこの熱帯雨林気候と化した外で働くのは考えられないのだろう。

 そういえば相棒とおるも転職し、営業マンに戻ったはずなのだが、外回りは月1程度というのんきな営業マンで、今や冷え冷えのオフィスでOLのおねーちゃん達とランチに何を食べるか話あっているとか。何がカフェメシだ! 死ね!

 神保町、先週の続き。
 今週からは椎名さんが手作りで編集した『ONCE UPON A TIME』のコピーを持って営業。僕の営業トークではイマイチ椎名写真のイメージが伝えられず、これで一発だ。

 その写真集に関してかなり仕事が増えそうで、今から焦っている。イベントやら出張やら。おいおい僕の11月は浦和レッズの優勝で忙しいんだから勘弁してくれと言いたいところだが、僕以上に真っ黒で大きな椎名さんを前にしたらとても言えず。でもほんと良い写真ばかりで、この本の営業を出来るのは椎名ファンの僕として夢のようだ。頑張ろう。

8月19日(土) 炎のサッカー日誌 2006.15

春、シーズンチケットと一緒に妻から渡されるたった1枚の「アウェー遠征承諾証」に必要事項を記入し提出。

行き先:鹿島スタジアム
遠征予定日時:8月19日(土)午前6時~8月20日(日)午前2時

仕方ないわね、という顔で妻は受け取った。よっしゃ、これで今回は心おきなくアウェー観戦出来る!

年に1回のこの権利をどこで使うか悩んだのが、この後のアウェーは名古屋や京都で、そもそもそんなところまで行くお金を、おいらは妻からもらっていない。となれば仲間と車で行ける、ここで使うしかないわけで、確か去年も鹿島戦で使ったのだ。しかし去年は、最後の新潟戦に優勝の可能性があって、あわてて土下座したのだが、今年は11月23日のさいスタヴァンフォーレ戦くらいで我らが浦和レッズの優勝が決まるはず。

午前7時に大宮駅を出発した車はまったく渋滞に巻き込まれることがなく、午前10時には鹿島スタジアムに着いてしまった。もちろんおいら達は自由席観戦だからなるべく早く付く必要があるんだけど、この猛暑のなか試合開始まで9時間も外で待つのはあまりにつらい。というわけで近くにあったジャスコに避難。まさに下妻物語。

いったい誰に見せたかったのかわからない鹿島のデカバタを眺めつつ、待ちに待ったキックオフ。
今日の敵は鹿島アントラーズなのだが、本当の敵はオシムであった。走るサッカーなんていいながら我らが浦和レッズの大事な大事な選手を大量に呼び出し、達也や闘莉王はまさに日本のビジネスマンなみに休みなしの状態。思わず労働基準局に訴えてやろうかと思ったが、選手達は喜んでいるようなのでグッと我慢。しかししかしやっぱり代表選手は足取りが重く、キレがない。そこにしっかり休んでいる鹿島の選手達が襲いかかる。すっかりリフレッシュした小笠原なんか、右に左へ走り廻っているではないか。

そんなこんなしているうちにコーナーキックからアレックスミネイロに決められ1失点。まだまだ大丈夫! WE ARE REDS!と思ったら、W杯で予想どおりのノーゴールに終わった柳沢に、開幕戦以来のゴールを決められ0対2。ジーコってすごいね、そんなゴールを決めていないFWを連れていったのね…なんて変に感心しちまったではないか。

大抵のチームは後半途中で0対2になったら飽きられるだろうが、我らがレッズは「あきらめない」。柳沢のゴールでまるで勝ったような気分で盛り上がっている鹿島選手をよそに、ここ2試合で見違えるように生き返った小野伸二がゴールを決め1対2。もう1点! そしてもう1点!

そしてそしてついに来た! 我らがワシントン様の復帰ゴール。酸欠、熱血、大興奮。そういや去年の鹿島戦もこんな次第だったなと気づいたときにゲーム終了の笛。勝つことも大切だけど負けないことも大切だろう。とりあえず納得の引き分けで家路に着く。ハァ、疲れた。

8月18日(金)

 いまだ埼京線は空いていた。もしかして12日から20日まで夏休みなんて幸せな会社がこの世にいっぱいあるってことか? 

 通勤読書は『中央線で行く東京横断ホッピーマラソン』大竹聡(酒とつまみ社(仮))。知名度が広がりジワジワと取り扱い書店の増えている雑誌『酒とつまみ』(http://www.saketsuma.com/)の、伝説の連載ホッピーマラソンの単行本化。しかもこの単行本には高尾から戻ってくる「今度は京王線だよ! 帰ってくるホッピーマラソン」も収録されている。

 どうしてホッピーを飲むだけなのにこんな面白いんだ!? 太田和彦ファン、ちくま文庫の酒飲みモノ偏愛読者には絶対のオススメ!

 残念なのは単行本としてはちょっと作りが雑なことなのだが、それはチビ出版社の苦労のあらわれか。地方小さんで取り扱いがあるようなので、まだ置いていない書店さんはぜひ注文してみてはいかがでしょうか?

酒とつまみ社(仮(大竹編集企画事務所)
TEL.03-3662-8372 FAX.03-3662-8429

ちなみにこちらは編集長椎名誠の渾身の写真集『Once upon a time』の注文獲得マラソンだぁ。あちぃぞ。

8月17日(木)

 もはや熱帯雨林なみの暑さ、湿度の東京を『エンターテインメント作家ファイル108 国内編』の見本出しのため取次店さん廻り。ハンドタオルはあっという間にびっしょり。

 本の雑誌社の営業は、僕が入社するまで3年くらいで辞めていくというのが定説で、それは激務耐えられず血反吐を吐いて退職願いを出すか、「30歳過ぎての貧乏はつらい」と言い残して消えていくかという感じであったらしい。

 入社当時、前任者からその話を聞いて僕も3年で辞めようと考えていたのだが、気がついたら約10年が過ぎていた。元来のいい加減さが、荒波を乗り越えられた要因だろうが、本の雑誌史上最長勤務営業マンであり、それは言い換えれば本の雑誌史上最高齢営業マンにもなるわけだ。35歳だけど。

 で、本日のこの猛暑のなかを口を半開きにし、汗とヨダレと脳みそを垂れ流しながら考えていたのだが、この10年間仕事は基本的にまったく変わっていない。ということは今後も変わらないであろう。その場合、いつまで体力が持つのか?ということが心配なのである。

 正直言って30歳を過ぎてから毎日10件以上書店さんを廻るがきつくなった。それは肉体的な体力だけでなく、精神的な体力も落ちているからかもしれない。「もういいか」「ダメだダメだ」なんて、夕方の駅のホームで自問自答の繰り返しだし、たった数センチの段差に躓くことも増えてきた。

 だから体調管理には気をつけていて、酒を飲んでも誰よりも早く帰るのは、家が遠いのもあるのだが、翌日のことを考えて、だったりする。ここで潰れては明日が台無し。一人営業マンにとっての一日はとても大事なのである。もはや引退間際のアスリートと同じ気持ちで働いているのだ。

 今日の今日まで、一刻も早く本という形になって出てきておくれと願っていた『エンターテインメント作家ファイル 国内編』だが、いざ本当に出来上がってきたら、猛烈な不安に襲われる。

 この編集方針で良かったのか? 違う方法もあったのではないか? そもそもこの企画は僕の独りよがり、マスターベーションだったのではないか? 読者は受け入れてくれるか?

 いや僕自身は、本当に面白いと思うし、こんな本が本当に欲しかったと今この出来上がった本を手に持ち実感しているわけなんだけど、それは僕個人の感想であって、これは商品だから他の人がどう思うかが大事なのだ。

 今の今までは試合前の練習や準備であって、お店に並んでからがいざ本番だ。

 本なんて売れなきゃこりゃゴミなわけで、これは出版社の倉庫を見れば一目瞭然、邪魔以外の何ものではないし、果たして刷った分、あるいはそれ以上売れるだろうか? もし売れなかった場合、それは僕のセンスが悪かったとうことの証明であり、その場合、会社にいていいのか? なんて不安は広がる一方。

 御茶ノ水、飯田橋、市ヶ谷と取次店さんを廻り、フラフラになって会社に戻ると、そこには著者の北上次郎が待っていた。

「俺、もう2度読み直しちゃった」

 とりあえず著者は満足したようで、ホッと胸をなで下ろすが、やはり本当の勝負はこれからだ。

 『エンターティメント作家ファイル108 国内編』は23日取次店搬入です。
 よろしくお願いします。

8月16日(水)

 いつだったかとある著者と会食に向かう目黒がぼやいていた。

「俺、著者に会うの苦手なんだよ」

 それはその場のことでなく、その後の書評活動のことを考えての発言だった。実際に著者に会ってしまったら書きたいことも書けなくなるかもしれない。だから目黒は極力著者に会わないようにしているようだった。そのことを知ってこのおじさんを信用しようと思った。もちろん著者とツーカーでもしっかり厳しいことを書ける大森望さんも信用しているが。

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 実は僕も著者に会うのが苦手だ。
 ただし僕は書評家じゃないから目黒とは違う理由だ。僕の苦手な理由は、著者に会うと思い切り打ちのめされてしまうからだ。

 例えば吉野朔実さん。トークショーの打ち合わせお会いしたのだが、もう全身から表現者のオーラが出まくり。物事の本質を突く鋭い視線にタジタジになったし、こういう人が何かを書くというのは当然のことだと思った。

 それは町田康さんや金城一紀さんも一緒で、お二人とも作家(あるいはパンク歌手)以外の職業がまったく思い浮かばなかった。言葉、物語をとても大事にしているのがわかった。また主婦でもある、あさのあつこさんも早口で話すその言葉のなかで真実を探そうとする強い意志があって、背筋にビンビンきた。

 というわけでそんな人たちと会うと自分の小ささが悲しくなってしまうのである。そもそも張り合うのがおかしいのはわかっているだが、同じ人間なのにこうも違うのか…と落ちこんでしまうのである。

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本日の夜は酒飲み書店員(通称:千葉会)の集まりだったのだが、何と『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で第一回酒飲み書店員大賞を受賞された高野秀行さんが、遊びに来てくれたではないか。

 それまで本に掲載されている写真などを拝見し椎名のような大きい人だと勝手に想像していたのだが、これがほっそりとした物静かな方でビックリ! この人が、ムベンベを探し、アマゾンを遡り、ビルマの奥地でアヘン栽培を手伝い、西南シルクロードを旅したのか!!!

 体力的なこともそうだが、それらの過酷な旅を乗り越える精神力がこの目の前にいる高野さんのなかにあるのだ。しかもその過酷さを笑いで描く能力も兼ね備え、いやはや、猛烈に負けた。負けるのは分かっていたけど、負けた。
 
これは著者本人お会いしたから書くわけではないし、そもそも高野さんの著作が売れたとしても本の雑誌社から本が出ているわけではないからまったく儲けなんてない。ただただ面白い本を人に紹介したいだけで書くのだが、もしこれを読まれている方で高野秀行さんの著作を未読であったら、それはとても幸せなことだ。

 これから面白い本に出会えるのだ。北上次郎みたいに書店さんに走って行ってください! 急げ!

8月15日(火)

 さすがに本日は電車が空いていた。
 朝の埼京線で、武蔵浦和から座れたなんて初めてだ。

 通勤読書は、『エンターテイメント作家ファイル108 国内編』に刺激され、『すべての雲は銀の…』村山由佳著(講談社)。

 先日町田康のライブに行って気がついたのは、言いにくいことは歌にすればいいんじゃないかということ。というわけで朝から「アイ ウォント セプテンバー スケジュール」と浜本の耳元で熱唱す。

 すると隣で聞いていた編集の藤原がもぞもぞし出す。お前、俺の歌に感動して、身体が動き出したのか?

「そうじゃないですよ。なんか首が痒いんですよ」

 その首を覗いたら蕁麻疹のようなブツブツがいっぱいできているではないか。お前、腹減らして落ちてるものとか食わなかったか?

 結局そのまま振るえながら、医者に向かった診断結果は「悪い虫にやられた」とか。悪い虫って???

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 本日の営業先は、神保町。
 何だか昨日の池袋に続いて、ここもかなりの人出。古本屋目当てのお客さんが多いようだが、神保町の古本屋さんってお盆も開いていたっけ? ちょっとビックリ。

 しかし担当者さんがほとんど夏休みで会えずじまい。残念無念で、某古本屋さんに入り、元新刊書店員だったSさんとお茶。

「いやー古本屋の方が面白い本いっぱい仕入れられて楽しいよ」

8月14日(月)

 お盆休みのわりに埼京線が混んでいるなと思ったら、停電の影響だった。それでも動いているだけマシか。

 通勤読書は『アイの物語』山本弘著(角川書店)。大森さんと豊崎さんが同じ本を誉めることはあるかもしれないが、ここに北上次郎が加わり、そして我が読書の師匠・深夜+1の浅沼さんも絶賛されていたのであわてて読み出したのだ。話題の6章『詩音が来た日』は確かに感動的だったが、僕はインターミッション8の考え方に感動をおぼえた。

 池袋を訪問。サンシャインは家族連れでいっぱいだ。そうか、暇そうにしている娘を、ここに連れてくればいいのか。でも「ナンジャタウン」が入場規制しているではないか。

 混んでいるのはサンシャインだけでなく、池袋全体の人出も多いようで、L書店のYさんに伺うと「去年はそんなことなかったみたいなんだけど、今年は多いね」とのこと。意外と近場で夏休みを過ごしている人が多いのだろうか? そういえば出版営業マンもちらほら見かけるし、みんなお盆に休むという感じでもないのかも。

 そのYさん、かつて渋谷のP書店時代のような早さで店内を駆け回っていた。そうだよな、あの頃Yさんと商談する営業マンは一緒に駆けながら新刊チラシを出して、話していたんだよよ。例え立ち止まっても顔と手は棚を向いていて「ごめんね」なんて言いながら、棚整理や平台をなおしていたんだ。

 なんだか久しぶりのその姿を見ていたら、こっちも頑張らないという気分になってくる。
 ヨッシャー!

8月12日(土) 炎のサッカー日誌 2006.14

 編集の藤原は編集後記で本の雑誌ダービーだと煽っていたが、こちらからしてみるともはやFC東京はそれほど燃える相手ではなく、勝って当然の1試合。こんなところで躓いていたらリーグ優勝なんて考えられない。

 というわけで、雨と雷の止んだ浦和を自転車で駆け抜け、さいスタへ、向かおうと思ったら妻が娘の頭を撫でながらぼそりと呟いた。

「幼稚園で絵日記の宿題があるのよね。2枚。このままじゃ書くことないよね~」

 それって娘をどこかに連れて行けってことか? おう! お安いご用だ。娘よ。東京戦と鹿島戦と新潟戦のどれに行きたい?

 僕の頭に雷が落ちたのであった。
 
 コソコソと逃げ出すように向かったさいたまスタジアム。そこで待っていたのは、小野伸二のビューティフルゴールと、三都主の珍し過ぎる右足&ヘッドの2発、それから怪我あがりとは思えない田中達也のゴールの計4発!!

 しかも川崎フロンターレが横浜Fマリノスに引き分けため、我ら浦和レッズが首位に立つ。
 シーズン終了までこの位置にいようぜ!

8月11日(金)

 藤原のケツを蹴飛ばしたら予想より早く新刊チラシが出来上がる。コイツはあまり考えないからやるとなると早いのだ。というわけで、こちらも一日会社にこもってDM作成。

 予定では『エンターテインメント作家ファイル108 国内編』の見本が本日挙がってくるはずだったのだが、こちらは印刷所がメチャ混みらしく、お盆明けに変更になってしまった。

 元々無理のあるスケジュールだなと思っていたのだが、残念無念。その見本をじっと眺め、ひとり酒を飲むつもりだったのだが…。

 しかしほんと一日会社にいると気がふれる。どうしてみんなこんなところにいられるの?

8月10日(木)

 目黒が探していた黒岩重吾の『場外の王者』(角川文庫)を古本屋さんで発見したので購入。もつべきものは鼻の利く部下ですな。

 本日も猛烈な暑さのなか営業。持ち歩いている水筒はあっという間にからっぽになってしまった。

 夜、助っ人のアマノッチが誕生日祝いにとチケットを取ってくれた町田康のライブへ。
 表参道FAB。これが死ぬほどカッコ良くて、失禁寸前。

「ああ、俺達もカッコ良くなりてぇ~」と一緒にいったアマノッチと鉄平と246で叫ぶ。中学生か?

8月9日(水)

 昨日帰ったら妻の愚痴。
 娘が近所の子にローラーブレードを借りたのに返すときに「ありがとう」と言わなかったとか。そういえば先週末、子分ダボの酒屋に行ったときも、お菓子をもらったのだが「ありがとう」を言わなかった。

 恥ずかしいのはわかるが挨拶と感謝の気持ちはしっかり伝えなければいけない。それが営業の基本、いや人間の基本だ!とマンガを読んでいた娘を呼び出し、猛烈に叱る。あまりに猛烈だったので、妻があわてて間に入った。娘よ、バカでもいいけど、挨拶だけはしっかりしろ!

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 その娘は、泣きすぎで顔が腫れていたが、相当反省した様子。朝イチで友達にありがとうを言いに行った。

 それはそれで良かったのだが、何だかこちらの気持ちは落ちつかない。これで良かったのか?それとももっと違う伝え方があったのでは?

 というわけで本日の読書は重松清。『定年ゴジラ』(講談社文庫)。思い切り家族モノにはまりたかったのだ。ところがこれがハマリ過ぎで、埼京線のなかで号泣。ああ、生きていくというのは大変だ。

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 台風一過でクソ暑い中、銀座を営業。
 ブランドショップの前を通るときにちょうど入口に立つドアマンが、ドアを開けた。冷気がさっと吹き出す。うれしいけれど、ちょっと冷やし過ぎではないか。

 文芸書はいまだ『東京タワー』リリー・フランキーが売れていて、いやはやほんとジュビロ磐田じゃないんだから、もうちょっと新しい本が出て来ても良いんじゃないか? そんななか文芸担当者さんの期待は8月末発売の宮部みゆきの新刊『名もなき毒』(幻冬舎)。久しぶりの現代ミステリーらしいが、ポスト『東京タワー』になりうるか?

 ついでにポスト『ダ・ヴィンチ・コード』は、『風の影』カルロス・ルイス・サフォン著(集英社文庫)で落ちつくのか? 発売以来かなりのスピードで売れているようで、やっと重版分が入ってきましたよと書店さんが嬉しそうに話されていた。

 翻訳ミステリー冬の時代と言われるけれど、こうやって売れるものは売れるのだ。だからジャンルが衰退しているというよりは、どの文芸書もほんの一部の超ベストセラー以外売れない時代になってしまったのではなかろうか?

8月8日(火)

 日記を更新したらすぐ兄貴からメールが届いた。兄貴はこの日記の一番の愛読者だろう。

「俺は確かに変人だけど、開高はイイゾ!」

 しかしどうも僕の読む順番が間違っているようで「釣りものを読むなら『フィッシュ・オン』から読むように」とのアドバイス。ありがたい。

 それにしても開高健あたりが、ちょうどただいま文庫倉庫から押し出されているようで、品切れ絶版だらけ。それでいいのか?と思う読者の気持ちと、仕方ないよという営業マンの気持ちの半々。そういえば椎名さんの初期の作品がとある書店さんでまもなく品切れフェアに並んでいてビックリしたっけ。次はこの年代かな?

 なんてことを考えていたら顧問・目黒が降りてきて「いやーないね、黒岩重吾。『場外の王者』を探しているんだけど、ブックオフにないんだよ」。この辺、新刊書店とブックオフでちょっと時間がずれているのかな。

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 最近やたらと浜本がこの日記を誉める。「すぎえ~、お前、すげーうまくなったよな~。あっこれは洒落じゃないよ。7月30日の日記なんて感動しちゃったよ。」

 過去5年以上、一度たりとも誉めたことがない浜本がこんなことを言い出すと素直に喜ぶよりも裏を勘ぐってしまう。もしかして社長でもやらせようとしてるのか? それともよほど浜本の心が弱っているのか? どちらにしても恐ろしいので会社を飛び出す。

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8月の新刊『エンターテイメント作家ファイル108 国内編』の事前注文の〆切が迫っているため無理無理な移動。気がついたらなぜか千葉。

待望の売り場復帰を果たしたS書店Uさんと長話。やる気満々。しかしこれからは立場的に自分でやるというよりは、スタッフに「書店員の面白さに気づいてもらい、その仕事の中から今度は僕が気づかされるような」仕事をしていきたいと話される。すでにそういう取り組みを始めたようで、棚の一角が店員さんオススメ棚になっていた。「こうやって自分で選んだ本が1冊売れたとき、本当にうれしいんですよ。」

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 その後もかっとび移動を繰り返し、最後は直帰。ああ、疲れた。

8月7日(月)

 僕にはトラウマがあって読めない作家が二人いる。

 その一人は村上春樹で、それは高校時代にフラれた彼女の愛読作家だったからだ。

「これ読む?」と差し出された赤と緑の本2冊。それまで愛読書といえば『BE-BOP-HIGHSCHOOL』の人間にはあまりに敷居の高い2冊だった。1週間後、「どうだった?」「よくわかんねーよ」「さよなら」。それ以来、村上春樹の書物には絶対近寄らないようにしている。

 そしてもう一人は開高健。
 こちらは我が兄貴の愛読作家で、兄貴の人格の60%はこの人によって作られたといえるほど熟読していた。

 問題は開高健ではなく兄貴の人格だ。兄貴は変人なのである。どう変人なのかは杉江家の恥になるのでここには書かないが、正真正銘、変な人である。僕の友だちもそのことに関しては納得してくれるであろう。で、あんな人間には絶対なりたくない、というのが僕の35年間の人生のテーマであり、そうなるとその人格形成の主であった開高健は読むわけにはいかなくなる。

 しかし一度だけその禁を破ったことがある。
 なぜなら我が愛する作家・金城一紀氏が「私のオールタイムベストテン」(『本の雑誌』2001年5月号掲載)で、『流亡記』を挙げていたからだ。

 その原稿を読んだとき、どうしよう…と三日三晩悩んだ。よりによって金城さんが開高を挙げるなんて。いや挙げて不思議はないけれど…。それは僕には禁書なんです。でも好きな作家の好きな作品となれば読まないわけにはいかないだろう、と四日目の朝、決意し、実家の書庫(かつて僕が使っていた部屋)の片隅に置かれた兄貴の蔵書のなかからボロボロになった『流亡記』を取り出したのである。

 一読必殺。面白い。金城さんが「うわあ、なんだこの最後の一行は! これまで積み上げてきた壁が一気に決壊しちゃって、目の前でガラガラと崩れ落ちて来ちゃった! すげえ! カッコいい!」と書くだけのことはある。

 しかししかし開高健=変人の兄貴である。ああなってはいけない。たぶん、きっとこの『流亡記』1冊だけ面白いんだ、と無理矢理自分の読書感にフタをし、開高健本を書庫の一番の奥にしまいこんだのである。

 そして5年。またもや僕の前に開高健が現れた。

 しかし今回は、誰かのベストテンやアドバイスなどではなく、自分の興味の赴くまま本を読んでいるとどうしても『オーパ!』(集英社文庫)にぶち当たるのである。

 南米好き。自然好き。紀行文好き。釣り本好き。『フチボウ 美しきブラジルの蹴球』アレックス・ベロス著(ソニーマガジンズ) 、『オーパ!の遺産』柴田哲孝著(WAVE出版)、『アマゾン・クライマックス』醍醐麻沙夫著(新潮文庫) 、『我々は何処から来たのか―グレートジャーニー全記録』関野吉晴(毎日新聞社)。参った。

 今度は一週間悩んだ。そして実家に戻った際、禁断の書である開高健本を掘り起こし、こうなったら破れかぶれだと、段ボール1箱運んできたのである。

 さて『オーパ!』だ。これが面白いのなんの。釣りも自然もすごいけど、何より開高健の文章にやられてしまった。あの芳醇な日本語に脳みそを揺さぶられてしまったのだ。

 こうなったら降参するしかない。兄貴よ、スマンかった。

8月4日(金)

 暑い! 
 魚だってこんなときは日中水底に潜んで、夕方からから活動を開始するのに、我ら営業マンは、水底に潜んでいる同僚のために、猛烈な暑さのなかエサ獲りに出かけなければならんのだ。クソ!

 営業からフラフラになって戻り、夜は「第1回 目黒杯争奪ボーリング大会」に参加。詳細は目黒考二が笹塚日記書くと思われるので省くが、とある出版社とボーリングの対抗戦をしたのである。僕自身、こちらには超ウンチ(運動音痴)の藤原がいるので、団体戦は諦めていたのだが、ボーリングと聞いて駆けつけてきた大森望さんには絶対勝ちたかった。

 何せこちとらイーガンもチャンも、それから『ハイペリオン』も理解できないアホ野郎で筋肉だけでは負けてはならないと考えていたのだ。ところがところが大森さん。予想に反してスピードのあるボールを投げ、しかも最後にちょこっとフックする。この曲がりが曲者でしっかり1番と3番の間を叩き、ストライクを奪取する。

 2ゲーム終わったところで僕と大森さんの合計ポイントが6ピン差で(負けていた)、これなら最後の3ゲーム目に追い越せるだろうと考えていたのだが、なんとなんとその最後の最後でターキーを出され、終わってみれば30ピン差以上の負け。

「今日から帝王と呼びなさい」と余裕の笑顔の大森さん、もとい帝王・大森様。しかも「実は運動とかやっていたんじゃないですか?」と聞いたら「中学のときに卓球部にちょっとだけ入ったけど、SF者は運動なんかしないよね」と冷ややか。

 クソー、俺の人生すべてを否定されたような気分で、死ぬほど悔しがっていたら某社の編集者に「本当に負けず嫌いなんですね」と呆れられてしまった。

 うー、オシムなら絶対選んでくれると思っていた日本代表にも入れず、最悪の一日。オシムよ、俺は日本一走るよ。しかも考えて考えて営業しているよ。追加招集よろしく!

8月3日(木)

 通勤読書は、8月の新刊『エンターテインメント作家ファイル108』を作っていて猛烈に読みたくなった『過ぐる川、烟る橋』鷺沢萠著(新潮文庫)。 鷺沢作品自体初読だったのだが、もっと柔らかいエンターテイメントを書く作家だと思っていたのが大間違い。いや~骨太でしっかりスジが通っていて、まるで男性作家のようではないか。

 ここ最近営業で電車に乗っているとやたらに親子連れが目に付き不思議に思っていたのだがその謎が判明。JRでやっているポケモンスタンプラリーだったのね。というわけで、早速窓口に行き、娘のために父親がやってもいいのか確認。JR職員は「ええ…」とビックリしつつ、頷きスタンプ帳を差し出した。

 しかしこれ面白くない! というのも7駅でスタンプをもらえばいいだけで、オシムジャパン最有力候補の走る営業マンには、すぐ終わってしまうのだ。ゴール駅の新宿で商品ももらうが、こうなったら98駅全制覇でも目指すか。

 営業は立川から武蔵野線沿線へ。

 オリオン書房のアレア店の外文棚が面白い。坪数から考えたら「こんな本が?!」というビックリするような本が並んでいる。あわてて担当のKさんに話を伺うと「なかなか売れないんですけどね…」なんて苦笑されてしまった。いつかこの棚に吸い寄せられるようにそういうお客さまが来ると思うが、どうだろう? そして同じ立川。同じオリオン書房といってもこうやって各店に特色が出てくると、お店を梯子する楽しさが出てきていいな。

 志木の旭屋書店さんへ。ここの担当Hさんは、坪内祐三さんが愛してやまなかった渋谷の旭屋の文芸棚を長年やっていた人である。基本のしっかりした、教科書のような棚作り。僕もいつも勉強させてもらっている。

 夕方になっても、暑さ変わらず。涼しい社内で働いている藤原や浜本に向かってテポドンを発射してやる。

8月2日(水)

 通勤本は昨日発見した『アマゾン・クライマックス』醍醐麻沙夫著(新潮文庫)。現地に住んでいるからこそ書けるアマゾンの描写、自然への考察、あるいは釣りに対しての想い、予想以上に面白く一気読み。ってこういうことを『WEB本の読書部』(http://review.webdoku.jp/)に書けばいいのか。

 東横線から横浜を営業。
 青山ブックセンター自由ヶ丘店で担当のKさんと話していたら何だか肩が落ちている。
「真向かいにブックオフができるんですよ」。自由ヶ丘にブックオフ、何だかものすごく違和感を感じるが、例え品揃えの変わった青山ブックセンターとはいえ、影響がないわけはないだろう。
そういえばブックオフと新刊書店が隣り合っている荻窪のブックセンター荻窪では担当者さんがこんなことを漏らしていたっけ。

「ブックオフにない本を揃えてます。」

 僕がものすごく信頼している書店員さんのひとり、横浜M書店Yさんを訪問。Yさんとはほとんど同年代で私生活の話などはほんと友だちのように語り合っているのだが、こと本に関してはきっちりした見方を持っている人なので、新刊チラシを出すときは毎度真剣勝負。どんなに仲が良くても自店で売れないと思えば発注せず(少なく)、行けると思えばガシッと来る。手抜きの本なんて見せようものならしっかりそこをついてくる。しかもYさん、それだけで終わらず例え自店で売れないと思っても、「○○書店なら売れるんじゃない?」なんてヒントもくれる。

 そういえば、最近やたらと書店員さんに話を聞きたがる編集者がいるけれど、書店にヒントは転がっていても答えはないと思うし、販促だけならともかく装丁やら中味まで全部書店員さん任せというのはおかしいんじゃないか。作り手のプライドや意思というものがあまりに欠落しているように見えるけど、どうだろうか?

 さてそのYさんに、8月の新刊『エンターテインメント作家ファイル108人 国内編』北上次郎著を営業。

 今朝藤原が出してくれた分厚いゲラも見せると
「うわーすごい! これは良いね~」と感嘆の声をいただく。

「ねぇねぇ、これ書店員の棚作りにすごい役立つね(笑)そうそう12月とかにも売れそう」。そうか秋の読書週間に間に合わせようと8月末の出版にしたのだが、そうか年末にもいけるか。

「2200円とちょっと高いのが…」と僕が言うと「何言ってるのよ。これなら安いって」ととても嬉しい言葉。

 そのときレジにお客さんが並びだしたので、多めの注文をいただき、お店を後にしたのだが、実は僕、とてもうれしくて泣いていたのだ。

 ありがとうYさん、これからもYさんが太鼓判を押すような本を作って営業に向かいます。 

8月1日(火)

 一昨日が誕生日だったのだが、娘からピアノの演奏をプレゼントされた。

 曲は今、練習しているベートーベンの「よろこびのうた」。しかし僕、実は音楽の成績が10段階で1とか2のいわゆる赤点野郎だったからこの「よろこびのうた」がどんな曲なのか知らなかったのだ。

 ところがところが娘がそれを引き出して大興奮! なんと浦和レッズが大勝利したときに歌われるあの歌ではないか! 思わず義姉にもらった電子ピアノの横に立ち、大きな声を張り上げて歌ってしまった。ちなみに娘がピアノを習うといったとき、ピアノの先生に「We are Diamonds」を弾けるようにしてくださいとお願いしたのだ。娘よ、ありがとう、そしてまた頑張ってくれ。

 ああ、四捨五入したら40歳になっちまった。

 池袋のジュンク堂に行き、田口さんとお話。9月にポプラピーチ(http://www.poplarbeech.com/)で連載されていた『書店日誌』が本になるとかで、いやはや今から楽しみだ。隣りには是非とも『書店風雲録』を並べてもらおう。オオ! チラシを作らないと!

 そういえば、『書店風雲録』を作ったときに、もうこの会社もこの業界も辞めても良いかな?
と思ったのだ。いや大袈裟にいうと死んでもいいかなと思った。例え僕が死んでも『書店風雲録』がこの世に残るなら、それで僕が生きた価値はあったんじゃないかなんて考えたのだ。

 その思い自体は今も変わっていないのだが、あれから約2年半、息継ぎ息継ぎしつつ仕事を続けてきた。

 そして今度は8月の新刊『エンターテイメント作家ファイル108 国内編』北上次郎著を出したら辞めてもいいかな、なんて思っている。それはお世話になった本の雑誌社及び北上次郎への感謝の気持ちをこめた1冊であり、またもっとお世話になっている「本の雑誌」読者の方への最大のプレゼントになるのではないかと思っているからだ。

 ちなみに編集の藤原も「僕、この本作れたこと誇りに思っているんです。書評集ですからそんな部数は出ないかもしれませんが、『本の雑誌』の読者の方には胸を張って面白いですよと言えますよね。」とやけに良いこと言いやがる。

 お前ちょっとわかってきたか? というか僕、藤原の使い方、というかこいつの得意な部分と不得意な部分がわかってきた。それをここで書くと本人がむくれて、僕より先に辞めてしまうかもしれないので書かないが、これからはうまくタッグを組んで本を作っていけそうな予感を感じる。しかしそういう期待を裏切るのも藤原の得意技だったりするから、あまり信用してはいけない。

 その後もしばし池袋を回ったが、担当者さんに会えず残念無念。こっそり池袋西武で開催していた古書展でサボる。

『オーパ!の遺産』柴田哲孝著(WAVE出版)を読んで以来探していた『アマゾン・クライマックス』醍醐麻沙夫著(新潮文庫)を発見し逆上。ってこんなことしている場合じゃないんだけど。

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