WEB本の雑誌

3月15日(木)

 朝、出社するとすぐさま内線が鳴る。

 相手は2階の応接間兼『本屋大賞』編集作業所で、ここ数日カンヅメになっている浜本だった。

「すぎえ~」
かすれ声で浜本が呟く。ついに橋を渡ってしまったのかと思ったら予想外の言葉を続く。
「俺、ダメだ、涙が止まらないんだよ」
「えっ?」
「書店員さんの投票コメントがものすごく良くて、ひとつ読むたび、どっと涙が溢れちゃうんだよ。ああ、本屋大賞やっていて良かったなあ」

 そうなのだ。僕も二次投票が終わってから、そのデータを代打編集者のカネコッチに渡すために加工しつつ、投票コメントを読んでいたのだが、いやはやみんな想いのこもった投票コメントばっかりで、何度も胸が熱くなっていたのだ。

「みんなさあ、この増刊号ちゃんと読んでくれるかな?」
「え?」
「大賞本のコメントだけじゃなくて、一次投票の1票しか入らなかった本とかにも、良いコメントいっぱいあるんだよ」
「そうですよね。読んでくれますよ」
「そうかなぁ。ああ、ちゃんと読んで欲しいなあ」
「読んでくれるように作りましょうよ」
「そうだなあ、あとちょっとがんばろう」

 浜本が呟く後ろでは、浜本がイッてしまったときに必ず聞く、レッド・ツェッペリンの曲が流れていた。