3月8日(土) ぼくのJリーグ・ライフ
2008年3月8日 浦和レッズ 0対1 横浜Fマリノス(日産スタジアム)
かつて僕は、僕の家から駒場スタジアムへ続く道を「哲学の道」と呼んでいた。なぜなら、その道を通る時、僕はかならず普遍的なことを考えていたからだ。「サッカーボールは、なぜホームのゴールにしか突き刺さらないのか」とか「なぜ人間はサッカーを発明したのか」とか「なぜある種の人間はサッカーがないと生きていけないのか」とか。そんなことを考え続けていると、自転車はちっとも進まず、10分で帰れるところが、20分、30分もかかった。
結局その問いに答えが出る前に、その通りの名前が「歓喜の道」に変わり、多くの場合、ゴールを決めた選手のチャントをコールしながら、帰路につくことになった。それからまた時間が経ち、駒場スタジアムは、記憶のなかの聖地と化し、その通りは「追憶の道」という名に変わりつつある。
新たな「哲学の道」が誕生した。
それは、日産スタジアムから小机駅までの道である。うねうね歩道橋を渡らされるこの道こそ、2000年代の「哲学の道」だろう。初めてステージ優勝を飾り、意気揚々と乗り込んだチャンピオンシップ、去年のJ最終戦、このスタジアムにはほとんど良い思い出がなく、この道を浦和レッズサポはうなだれ、憔悴しとぼとぼと歩いているのだ。
この日も、まったくチームとして機能しないまま、我が浦和レッズは90分を過ごし、横浜Fマリノスの小宮山のミドルシュートであえなく敗北した。ピッチから漂うのは、かつて駒場スタジアムに漂っていた無気力な風。
「新・哲学の道」を歩いていると、観戦仲間のニックがブツブツ呟く。
「暢久はこの年末年始で5歳は年をとりましたね」
「……」
「相馬、もっと勝負して欲しいですよ」
「……」
「闘莉王はキレがまったくなかったですね」
「……」
「ワシントン帰ってこないかなぁ」
「……」
なぜ日産スタジアムで僕らは勝てないのか。僕らはなぜ毎年開幕に調子が悪いのか。なぜ僕は妻にウソをついてここに来たのか。ニックの問いには適当に相づちをうち、僕はそんなことをずっと考えていた。