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3月11日(火)

 最近の読書は、『新編 日本の面影』ラフカディオ・ハーン(角川ソフィア文庫)を読み、それに引っ張られるようにして『新編 遠野物語』柳田国男(角川ソフィア文庫)を再読し、また古本屋でやっと見つけた『にっぽん求米紀行』遠藤ケイ(毎日新聞社)を貪るように読んだりして、ほんどまったく趣味の世界の読書に費やしていた。いやはや日本各地の米食文化をルポした『にっぽん求米紀行』は、素晴らしい本だ。

 しかし、これでは「最近面白い本ありましたか?」が、挨拶代わりの文芸書の営業はできない。というわけで、昨夜、あわてて小説世界に戻るために購入したのが、『九つの、物語』橋本紡(集英社)なのだが、これがあまりに面白く、一気読みしてしまった。

 大学生の妹、いてはいけないはずのお兄ちゃん、そして妹の恋人、の成長物語なのであるが、正直言うと、もうこういう小説は俺には必要ないかもなんて考えていたのだ。いやはやスミマセン、思い切りハマって最後はちょっと泣いてしまいました。素晴らしい小説は、必要あるとかないとかではないんだと思い知る。

 これは『博士の愛した数式』小川洋子(新潮文庫)や『家守綺譚』梨木香歩(新潮文庫)や『対話篇』金城一紀(講談社/新潮社)のような美しい物語であり、暖かい小説である。

 しかもそのストーリー自体が、各章タイトルになっている古典名作(たとえば『蒲団』や『ノラや』や『山椒魚』であり、そもそも『九つの、物語』というタイトル自体、サリンジャーの『ナインストリーズ』なのではないか?)の緩やかなオマージュになっていて、そのテクニックにも驚く。そしてそしてお兄ちゃんが妹に作る料理の美味しそうなことといったら。ここには小説の魅力がいっぱい詰まっている。いやー、良い、小説だ。

 このお兄ちゃんが妹に抱く気持ちは、父親が娘に抱く気持ちと変わりないだろう。

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 何だかとっても忙しい。

 午前中はH社の人と神保町で打ち合わせ。午後は高野秀行さんのところに訪問し、6月刊行予定の本に収録する写真を貸していただく。その後は営業マンに戻り、書店さんを営業。

 こうなったら夜、本屋さんでアルバイトして、ひとり出版業界制覇を目論むが、夜は夜で、矢部さんの「坂の上のパルコ」の第2回分のテープ起こし。ああ、今月はもう飲み会厳禁か……?

 とにかく4月8日の本屋大賞発表が終わるまでは落ち着かない。

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