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6月3日(火)

 雨。

 『多甚古村』井伏鱒二(新潮文庫)を読みだした瞬間、これは僕の一番好きなパターンの本だと確信する。その確信どおり最後まで思い切り楽しむ。海辺の村の多甚古村の駐在所に赴任した巡査の日記を通して、村人の姿が描かれるのであるが、その村人の姿がまるで日本昔話の読んでいるような素朴さ(といっても酒を飲んで暴れたりするんだけど)がたまならい。

 日記といえば先日読んだ『グチ文学 気に病む』(マガジンハウス)は、現在僕を含めた一部でダウナー系漫画家として人気のいましろたかしの「釣り」日記である。『釣れんボーイ』(イーストプレス)の文章版といえばいいのだるか。ウフの連載当時から楽しみにしていたので一気読みしたが、しかしなぜ「釣行記06〜」という連載タイトルが、こんなタイトルになってしまったのだろうか。

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 とある書店さんで伺った話。

「この間ね、『カニの本ちょうだい!』っておばちゃんが来て、料理か生物の棚に案内しようと思ってどっちですかって聞いたら『テレビでやってたカニの本よ』っていうのよ。なんだろうってしばらく考えたんだけど、もしやと思って『蟹工船』小林多喜二(新潮文庫)を見せたら、『それそれ』だって。でもね、ペラペラ見て『これ、難しそうね』って戻してきたけど」

 こういう話を聞くと、売れるということは、何なんだろうと考え込んでしまう。

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