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6月9日(月)

「本の雑誌」をデジタル雑誌にしてみませんか? と言われ、試しにつくってもらったのだが、いまいちピンと来ない。

 そのデジタル雑誌は、画面上で本物の雑誌のようにページをめくることができ、本物の雑誌のように読むことができのであるが、ならば本物の雑誌を読めばいいのではないかとつい考えてしまうのだ。

 もちろん本物の雑誌は読んだ後に邪魔になるとか、これから紙代ほか制作コストが上がっていくであろうが、わざわざデータでやりとりできるのに、雑誌の形を踏襲する必要があるのだろうか。

 いやたぶんこういうかたちにしないとお客さんがお金を落とさないんだろうし、出版社も新たにデータをつくる手間がないから入校時のPDFデータがそのまま使えて便利なんてことを考えると、こういうデジタル雑誌になっていくんだろう。

 でも、それにしたって色や読みやすさを含めて、まったく本物の雑誌に勝てず、売りのひとつが目次の文字を押すとそのページに飛ぶんですといわれても、そんなもの本物の雑誌だって目次を見て、ページをペラペラやっていけば、すぐそこに行くのである。ああ、文字検索は楽かもしれないが。

 しかしどうみても子ども騙しのように思えて、これに値段を付けて売るというのは、今現在の僕のなかではかなり抵抗がある。電子化もネット化も当然進んでおり、おそらく何か今いう本や雑誌ではないものが、どんどん出てくるだろうけれど(現に出てきているんだろうけど)、なんかこの「デジタル雑誌」とは決定的に違う気がする。

 とりあえずペンディング中。

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 午後、CD業界で本屋大賞みたいなものを作りたいという人とお話。

 CD業界は出版業界以上に大不況なようで、しかし書店員さんと同じようにCDショップの店員さんのなかにはどうにかしたいと考えてる人がたくさんいるらしい。

 そんな人たちが集まって立ち上げられたHPが、この「全日本CDショップ店員組合」だとか。音楽のことには疎いので、何もアドバイスなどできなかったけれど、いつか発表会にプレゼンターを入れ替わりで出来たらいいですね、と盛り上がる。

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 夕方、一日早く帰国された高野秀行さんが旅の疲れも関係なく、サイン本を作りに来社。『辺境の旅はゾウにかぎる』200部にサインしていただくが、僕の視線と意識は、高野さんのかぶっている帽子に釘付けだった。

「その帽子、もしかして?」
「そうそうセルビアを取材したときにもらったんだ。レッドスター・ベオグラードの帽子。」

 レッドスター・ベオグラードといえば、以前トヨタカップで来日し、コロコロを破って優勝したユーゴスラビア(当時)の名門チームで、ストイコビッチも所属していたチームである。そういえば、高野さんが取材中にやりとりしていたメールには「セルビアでは、ストイコビッチの人気がすごい。名古屋グランパスエイトのファンになっちゃおうかなぁ」なんてとんでもないことを書いてきたのであった。

 高野さんがグランパスのサポーターになったら僕は編集者として付き合えるだろうか。いやそんなことより、今はその帽子が欲しい。いや、きっとサインが終わったら、本が出来た記念に僕にくれるのだろう。だからこそわざわざかぶってきたのだ。そう思って200冊のサインが終わるのを待っていたのであるが、くれたのはトルコのチーズであった。

 そういえば高野さん『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)で、コンゴのテレ湖でマラリアにかかり、フラフラになって村に帰る探検部の後輩の、ギリギリの精神状態にまったく気付かず、文庫版あとがきを書くために連絡をとって、初めて知ったと書いていたのである。そんな人が、サッカーバカが、どれだけ帽子を欲しがっているかなんて気付くわけがないのである。恨めしく帽子を眺めつつ、笹塚駅前の居酒屋で打ち上げ。

 後日、メールでやりとりしていたら、高野さんはつい最近までストイコビッチとリトバルスキーを間違えていたらしい。

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